メッシを指導する重圧に押しつぶされることなく、時間をかけて信頼関係を構築。コパ・アメリカ制覇後、ともに喜びを分かち合った。 (C)Getty Images

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 今夏のコパ・アメリカを制し、祖国アルゼンチンに28年ぶりとなるメジャータイトルをもたらしたリオネル・スカローニは、同時に国際大会で「メッシを初めて勝たせた監督」となった。

 11月には厳しい南米予選を突破してカタール・ワールドカップの本大会にチームを導いた指揮官の、貴重なインタビューをお届けする。

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セルヒオ・レビンスキ記者:コパ・アメリカでの見事な優勝、おめでとうございます。アルゼンチン代表にとっては28年ぶりのメジャータイトルですが、この快挙を達成できた最大の要因はなんだったのでしょうか。

リオネル・スカローニ:選手のだれもがチームのために尽くし、互いを理解し合った結果だと考えている。何度も困難なシーンに直面しながら、彼らはそのたびに歯を食いしばり、仲間同士で献身的に助け合い、それらを乗り越えていった。出場時間の多寡にかかわらず、ベンチの選手を含めた全員がその姿勢を持ち続けてくれた。すべてのメンバーの不断の努力が、長らく待ち望まれてきたコパ・アメリカのタイトルを手にする原動力になったんだ。私はあの大会で、フィールドプレーヤー全員をピッチに送り出している。このような短期間のコンペティションで、それは頻繁に起こることではない。

レビンスキ記者:過去のチームと比べて、なにが違ったのでしょうか。

スカローニ:最大の違いは、強い信念とグループの力、そして強運にあったと私は感じている。これまでも南米王者にふさわしいチームはたくさんあったが、2015年大会と2016年大会では、決勝に進みながらもチャンスを生かせず、無得点のままPK戦に持ち込まれた。そこで運に見放され、どちらも準優勝に終わっている。それが今大会は、重要なPK戦をモノにし(準決勝のコロンビア戦)、決勝ではアンヘル(ディ・マリア)が前半に素晴らしいシュートを決めてくれた。あのゴールによって選手たちの緊張がほぐれ、目に見えて動きが良くなった。実に重要なゴールだった。

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レビンスキ記者:ついにメッシが代表で主要タイトルを獲得しました。彼のようなスーパースターを指導するにあたって、難しい点があれば教えてください。

スカローニ:私自身は、難しさを感じたことなど一度もないよ。逆に、彼のような特別な才能を持った選手と同じ目標を持ち、それを成就できたことを誇りに感じている。きっとチームメイトも同じ気持ちだろう。彼がいるだけで、周囲の人間のモチベーションはぐっと高まるし、いざというときに拠りどころになってくれる真のリーダーでもある。そんな選手が自分のチームにいて欲しいと思わない監督や選手は、ひとりもいないだろう。われわれコーチ陣を含め、だれもがその幸運を喜んでいるよ。

レビンスキ記者:ロシア・ワールドカップのベスト16でフランスに敗れたあと、当時のホルヘ・サンパオリ監督と多くのスタッフは、早期敗退の責任を取って辞任しました。そんな中、アシスタントコーチのひとりだったにもかかわらず、あなたはチームに残るという決断を下しています。その理由を教えてください。

スカローニ:純粋に、代表で指導者としてのキャリアを築いていきたかったからだ。たしかにロシア・ワールドカップは失意の敗退に終わったが、私はチームの可能性を信じていた。そして自分のこともね。それまではアシスタントしか経験していなかったが、じきに監督になれると信じていたし、そのチャンスは思っていたよりも早く訪れた。それを逃すわけにはいかなかった。ロシア・ワールドカップの直後にスペインのバレンシアで開催されたU-20代表の大会で指揮を執り、優勝できたことも自信になった。今回のコパ・アメリカでさらなる成功を収めることができて、本当に嬉しく思っているよ。
 
レビンスキ記者:ロベルト・アジャラやワルテル・サムエル、パブロ・アイマールといった、かつての代表のチームメイトをコーチに任命したのには、どういった狙いがあるのでしょうか。

スカローニ:彼らが偉大なフットボーラーだったのは、だれもが知っている。選手たちはその重みのある言葉に、熱心に耳を傾けているよ。またパブロは、フットボールの洞察力が鋭く、非常に興味深い意見を言ってくれるから、私としても助かっているんだ。ワルテルも実に巧みに、守備とセットプレーの極意を選手たちに授けてくれているし、ロベルトは現役時代同様、グループをまとめ上げる手腕に長け、然るべき時に然るべき言葉をかけてくれる。互いを認め合うこの3人の存在は、私にとってものすごく心強いものになっているよ。

レビンスキ記者:あなたがA代表の監督を務め、アイマールがU-17代表監督を兼務し、U -15代表を率いるのもディエゴ・プラセンテと、各年代の代表チームの指導陣に?ペケルマン・ボーイズ〞(ホセ・ペケルマン監督の教え子たち)が揃っているのは偶然ですか?

スカローニ:世代を超えて、ホセの影響が広がっているね。私やディエゴ、ワルテル、パブロといった97年のワールドユース(現U-20W杯)優勝メンバーだけでなく、その前後にホセの薫陶を受けた人たちも、指導者として頭角を現わしつつある。私たちは20年以上前にホセから素晴らしい指導を受け、それを現代風にアレンジしながら、いまの世代に伝えているんだ。技術や戦術だけでなく、アルゼンチン代表選手が持つべき情熱や心構え、使命感についてもね。この伝統はいつまでも受け継がれるべきものだし、逆に言えば、それを理解できない者には代表のユニホームを身にまとう資格がないと思っているよ。
 
レビンスキ記者:ディエゴ・シメオネやマウリシオ・ポチェティーノ、マルセロ・ビエルサと、アルゼンチンにはヨーロッパのトップクラブを率いる監督が数多くいますが、あなたもいずれはヨーロッパに進出したいと考えていますか?

スカローニ:監督業は好きだが、私はあまり遠くの未来は見ていないんだ。とにかく目の前にある、いまやるべき仕事に集中し、先々のことはなるようになると考えている。プロの指導者は、次の瞬間に自分の境遇がどうなるかわからなくなることを、つねに覚悟していなければならない。それがこの世界の習わしだからだ。だから私は、未来のことはあまり考えないようにしているんだ。

レビンスキ記者:代表監督に就任したときに抱いていた目標は、達成できましたか?

スカローニ:暫定監督になったとき、私は今後数年に渡って代表の根幹を成せる選手選びに全力を注いだ。そして、その中から見込みのある選手を選別し、主力として育てていこうと考えた。それはある程度達成できたと思う。いまの代表には若い選手も複数いて、彼らはこの先もアルゼンチンを背負っていくべき存在だ。とはいえ、満足はしていない。緊張感を保つためにも、チームをリフレッシュし続けていくつもりだ。クラブで活躍し、代表に呼ばれ、練習や試合で私たちを納得させた者だけが、アルゼンチン代表でプレーすることができる。
 
レビンスキ記者:あなたがいつの日か代表を去るとき、どのような遺産をチームに残したいですか?

スカローニ:アルゼンチン代表に対する選手の帰属意識を高め、たとえ少ししかプレーできなくても、また戻ってきたいと思わせるような場所にしたい。集団の一員として、全体の目標に少しでも貢献できるような選手を、ひとりでも増やしていきたい。情熱とハーモニーがあり、だれもが余計な損得について考えを巡らせることなく、自分自身とチームの成長に没頭できる場所。代表とはそういうところであるべきだと私は考えているんだ。

レビンスキ記者:メッシはずっと、ディエゴ・マラドーナと比較されてきました。そのマラドーナは昨年末に天に召され、そして今年、メッシは初めて代表でメジャータイトルを手にしました。これは偶然でしょうか。それともメッシが重圧から解放されたと見るべきでしょうか?

スカローニ:それは私には答えられない質問だ。レオに直接訊いたほうがいい。私が言えるのは、レオとともに喜びを味わえて最高に嬉しかったということだけだ。
 
レビンスキ記者:ロシア・ワールドカップでは、メッシの不満げな表情が印象的でした。やはりそれは物事がうまくいっていなかったからでしょうか?

スカローニ:そうした表情を浮かべていたのは、メッシだけではなかった。チームメイトやコーチングスタッフのほぼ全員が、そうだったと記憶している。つまり、チームの状態に不満を持っていたのは、メッシだけではなかったというわけだ。それにしても、ベスト16敗退という結果は痛恨だった。相手がその大会を制したフランスだったとはいえ、アルゼンチン代表として、あってはならない結果だった。

レビンスキ記者:アルゼンチンが28年もの間、メジャータイトルに見放されていた原因はなんだと思われますか?

スカローニ:これも繰り返しになるが、運に左右されたことが大きいと思う。たとえば、14年のブラジル・ワールドカップでは決勝まで勝ち進み、個人的にはドイツよりも良いパフォーマンスを見せたと思うが、結果は準優勝。フットボールは美しいスポーツだが、時に残酷でもあるものだ。

取材・文●セルヒオ・レビンスキ(Sergio LEVINSKY)
コーディネート●マリロ・バレラ(Marirro VARELA)

PROFILE
マリロ・バレラ/ 30年以上のキャリアと幅広いコネクションを持つアルゼンチン人女性ジャーナリスト。新聞や雑誌への執筆のほか、ラジオやテレビにも出演する。

※『ワールドサッカーダイジェスト』2021年11月4日号より転載