陰謀論から抜け出す際に、自助グループの仲間たちの力は本当に大きかったと語る高知さん

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「言うのがとても恥ずかしんだけど、俺陰謀論を信じかけてたんだよ」――こんな赤裸々なツイートが話題になった。投稿したのは、俳優の高知東生さん(56)だ。

2021年1月29日のツイート。「若者のネットリテラシーはよく話題になるけど、あれ大人が勝手に言ってるだけで、実はネットネイティブの若者より、俺たちおじさんのネットリテラシーの方が余程危険じゃないかな」ともつづっている。

「陰謀論を信じかけてたんだよ」とは、なかなか言えないフレーズだろう。そこでJ-CASTニュース編集部は高知さんの思いを掘り下げるべく直接話を聞くことを決意。取材を申し込み、インタビューを実現させたのだった。

(聞き手・構成/J-CASTニュース編集部 坂下朋永)

高知さんは、なぜ陰謀論にハマりかけたのか

2月4日、J-CASTニュース編集部記者が訪れたのは、東京・茅場町にある、とあるオフィスビルの1室。入居しているのは「ギャンブル依存症問題を考える会」という支援団体だ。

高知さんは2016年に覚醒剤事件で逮捕され、その後、執行猶予付きの有罪が確定し、2020年に猶予期間を満了した。その執行猶予期間が明ける前である2019年から自助グループに参加しつつ、薬物依存の経験を活かし、同会の田中紀子代表と共に、薬物やギャンブルの依存症を抱える人々に対する支援活動や講演会を行っているという。

そんな高知さんに、話題となった「陰謀論」に関するツイートについて聞いた。

――ツイッターでもおっしゃっていましたが、今一度、陰謀論にはまりそうになったその過程をお教えください。

高知:2020年の12月下旬から、当時まだ緊急事態宣言は出てませんでしたけど、だんだんと新型コロナウイルスの感染者が増え、社会活動の自粛が叫ばれるようになりましたが、それによって、自分なりに自粛生活をする中、空き時間が増えてしまってYouTubeやテレビをこれまでよりもはるかに長時間見るようになったことが、陰謀論にはまりそうになったきっかけです。

12月下旬に、都市伝説を扱ったテレビ番組が放送されていたんですが、それを見た際に、「うわっ、スゲー、マジか!」と思ってしまい、「世界を陰で動かす組織」とか、そんな感じのテーマの動画をYouTubeで見るようになってしまっていたんです。そうしたら、次から次へと類似の関連動画が出てくるものだから......いやー、危ないところでした。ヒマって良くないですね(笑)。

「高知さん、情報が偏りすぎてますよ!」

――そうだったんですね。ただ、芸能人って「オカルト耐性」が高いようにも感じますが......。

高知:今思うと、ちゃんちゃらおかしいんですけど、20数年にわたってエンターテイメントの世界で生きて来た以上、「世界の真実」といった番組だってエンターテイメントの一部だっていうのは分かってたはずなのに、なぜか、ちょっと、そこにはまってしまって、得られる情報に対し、「マジかよ......」といった真正面からの反応をしてしまい、その結果、妄想が膨らんで、これらの妄想がパズルのように組みあがってしまい、その肥大化した妄想にとらわれてしまったんですよ。YouTubeは「関連動画」がこれでもかと表示されますし、SNS上で検索すると、これまた自分の意見と似ている意見ばかりが引っ掛かりますから、どんどん偏りが加速していってしまったんです。

――確かに。YouTubeを見ていると、その情報量の多さに頭がクラクラしそうになりますよね。

高知:ただ、そのような状態になってしまってはいたんですが、そんな中、これらの膨らんでしまった妄想をふと自助グループに参加した際の雑談で話した際に、「高知さん、情報が偏りすぎてますよ!」「『真実を伝える』と謳ってる番組だって、エンターテイメントの一部ですよ! 長年芸能界で生きてるんだから、その仕組みだって分かってるでしょ!」と言われ、「あっ! そうだそうだ!」とふと我に返ることが出来たんですよ。

――なるほど。他の人に話したことがきっかけで我に返ることが出来たというのは、分かるような気がします。

高知:僕らの年代って、すでに分別が付く年齢になってからインターネットが出てきたり、携帯電話をガラケーの時代から使ってきているから、なまじ、「自分にはネットリテラシーがある」と思ってる人って多いと思うんですよ。でも、それは大きな勘違いでしたね。以上の顛末を、率直な気持ちでツイートしてみたら、大反響を受けてしまったんです(笑)。

陰謀論の内容そのものを否定されていたら...

きっかけとしては本当に些細な、「自粛生活でいつもよりも長時間YouTubeやテレビを見るようになった」という要因ではあったものの、そこから、あれよあれよという間に妄想が膨らみ、危うく、その妄想に飲み込まれそうになってしまったところを自助グループの仲間たちに助けられたという高知さん。インタビューが進むと、話題は高知さんの最近の活動にも及んだ。

――今回の経験を、ご自身が依存症の啓発活動として行ってらっしゃる講演会で取り上げる可能性はありますか?

高知:あります。というか、ネタにします(笑)! 自助グループで猛ツッコミを受けたその様子を再現しながら話そうと思ってます。仲間たちの指摘は的確で、陰謀論の内容そのものを否定するのではなく、僕の「今、YouTube上ではこの話題で持ちきりだよ!」という主張に対し、「高知さん、情報が偏りすぎてますよ!」と指摘し、僕の目を覚まさせてくれました。陰謀論の内容そのものを否定されたら、ムキになって反論してしまい、妄想から抜け出せなかったでしょうね。先ほども申しましたが、YouTubeを本格的に見るようになったのは、空き時間が出来るようになった昨年末以降だったので、自分が検索したジャンルの情報の関連動画が次から次へと出てくるYouTubeの仕組みにやられてしまったのです。否認を解くのって難しいですけど、僕の否認を解いてくれた今回の件も何かの参考になればと思っています。

――ただ、その一方で、高知さんは田中代表と共にYouTube上で情報発信を行われてますよね。

高知:昨年末までほとんどYouTubeを見ていなかった一方で、2020年初頭には「たかりこちゃんねる」というアカウントを開設し、情報発信を行っています。内容は、「依存症患者は自身が病人であることを、なかなか認められない」といった、依存症は治療に始めるまでのプロセスすら困難に満ちているといった点を解説するものから、「新型コロナウイルスと、依存症の深い関係!?」といったタイムリーなものまで、多岐にわたっています。この番組は想像や妄想じゃなく、現場で実際起きていることを伝えるようにしてますよ。

――最後に、今後の目標や活動予定をお教えください。

高知:まず、今回、こうしてインタビューを受けることになったのが、自分の恥ずかしい経験をツイートしたことがきっかけというのが恥ずかしくもあり、また、この経験も誰かの役に立てたのならうれしくもあります。今後、自分がやっていくべきことがあるとするなら、それは、やはり、自分がしでかしてしまった薬物経験だけでなく、隠したいと思うような話こそ正直に話すこと、それを積み重ねていくことが僕にできる啓発活動かなと思っています。僕、事件以後「恥」に対する耐性が強くなって、割と何でも話せるようになったんですよね。それが心の健康に繋がっている気がします。