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航空会社ピーチ・アビエーションの旅客機内で昨年9月、新型コロナ対策としてのマスク着用を拒否してトラブルとなった男性が1月20日、運航を妨害したなどとして、威力業務妨害と傷害、航空法違反の疑いで大阪府警に逮捕された。

報道によると、男性は、客室乗務員らを大声で威圧するなどして、航空機を遅延させ、安全阻害行為をやめるよう命じた機長名の命令書を渡そうとした乗務員の腕に約2週間のけがをさせるなどした疑いがある。男性は逮捕時、容疑を否認したという。

このトラブルの影響で、旅客機は安全確保のため、新潟空港に臨時着陸。男性を降ろしたのち、関西空港に2時間15分遅れで到着した。

男性は、自身のブログなどで、「マスクの着用は健康上の理由で困難」と表明していたが、共同通信(1月20日)は、捜査関係者への取材で「事件後、男性が外出先でマスクを着けて活動していた」と報じている。

事件が起きた昨年9月からある程度時間が経過しているが、このタイミングで男性が逮捕されたことにはどのような理由が考えられるのだろうか。元警察官僚で警視庁刑事の経験も有する澤井康生弁護士に聞いた。

●「マスクを着用して活動していた」としたら、正当な理由ゆらぐ

--事件からある程度時間が経過したのちの逮捕ですが、どのような理由が考えられますか。

本来的には、事件当時に現行犯逮捕もしくは緊急逮捕されてしかるべきだったと思います。 しかし、事件当時はマスクを着用できない正当な理由の存否が不明だったことから、逮捕まではできなかったのではないかと推察します。

仮に健康上の理由でマスクを着用できないのだとしたら、マスクを着用しない正当な理由が認められることになります。そうすると、そもそもの発端となったマスク非着用はやむを得ない行為といえます。そこから発展した客室乗務員とのやり取りで、大声で威圧する行為も含めて、社会的相当性からの逸脱の度合いや悪質性も低いということになります。

しかし、その後、男性がほかでマスクを着けて活動していた事実が判明したことから、マスクを着用できない正当な理由などなかったことが捜査側で確認できたのだと思われます。

その結果、マスクを着用できるのに、あえて着用せず客室乗務員を大声で威圧するなどした事実が認定できて、威力業務妨害罪を適用できるという判断に至ったのではないでしょうか。

--「マスクの着用は健康上の理由で困難」とされていたにもかかわらず、実はマスクを着用して活動していたとの事情は大きな意味を持つということですね。

捜査の実務的な事情としては、事件後も任意捜査を続けることにより、通常逮捕状を請求できる証拠がそろったことがあげられます。

たとえば、業務妨害罪については、事件後に実際に業務を妨害された程度(遅延時間、影響を受けた人員、他の航空機への影響、金銭的な被害)が明らかとなり、傷害罪については被害者の診断書や参考人供述調書も取得できて、航空機内での実況見分もおこなうなど、通常逮捕状を請求するための材料が十分にそろった可能性が考えられます。

さらに、男性が、今回以外にも、ホテルなどで同じようなトラブルを起こしていた事実もあり、今後の再犯のおそれも否定できないといった事情も暗に考慮されたのではないでしょうか。

大阪府警は、コロナ禍でこのような任意捜査を粛々とおこなって、今回のタイミングで通常逮捕に至ったものと思われます。●「逮捕の必要性、必ずしも否定できないのでは」

--男性はSNSで発信したり、メディアにおいて本名で執筆するなど目立った場所で活動してました。どこかに身を隠すなどの可能性はそれほど高くないようにも見受けられますが、今回の逮捕は妥当なものといえるのでしょうか。

逮捕の必要性が認められるかという問題だと思います。逮捕の必要性が認められるためには、「逃亡のおそれ」や「罪証隠滅のおそれ」があることが必要です。

この点、男性は比較的所在などが明らかな存在とはいえますが、ケガや病気で入院しているわけでもなく、年齢的にも若いので逃亡しようと思えばいつでも逃亡は可能です。

また、罪証隠滅のおそれについても、事件後も自己の主張を積極的に発信するなどして、反省していないことから、被害者や目撃者を威迫するなどして罪証隠滅するおそれも否定はできません。

そうすると、逮捕の必要性は必ずしも否定できないということになると思います。●「業務妨害罪については起訴してしかるべき事件」

--今後、司法手続きはどのように進むと考えられますか。

大阪府警としては、逮捕前に大阪地検と打ち合わせたうえで通常逮捕しているはずですので、大阪地検が裁判所に勾留請求するでしょう。(起訴前の)勾留が認められれば、最大で20日間身柄拘束されることになります。

その後、大阪地検が起訴するかどうか判断することになります。

航空法違反は50万円以下の罰金刑にすぎないことや、傷害罪との関係では傷害の程度は全治2週間の軽傷であることを考慮すると、これらの罪については起訴猶予となるかもしれません。

しかし、業務妨害罪については、社会的に大きな影響を与えた事件であることや、民事上の示談も難しいこと、男性本人が反省していないと思われること、コロナ禍における社会秩序を維持する必要があることなどを考慮すれば、起訴してしかるべき事件だと思います。

【取材協力弁護士】
澤井 康生(さわい・やすお)弁護士
警察官僚出身。企業法務、一般民事事件、家事事件、刑事事件などを手がける傍ら東京簡易裁判所の非常勤裁判官、東京税理士会のインハウスロイヤー(非常勤)も歴任、公認不正検査士試験にも合格、企業不祥事が起きた場合の第三者委員会の経験も豊富、その他各新聞での有識者コメント、テレビ・ラジオ等の出演も多く幅広い分野で活躍。現在、朝日新聞社ウェブサイトtelling「HELP ME 弁護士センセイ」連載。楽天証券ウェブサイト「トウシル」連載。新宿区西早稲田の秋法律事務所のパートナー弁護士。代表著書「捜査本部というすごい仕組み」(マイナビ新書)など。
事務所名:秋法律事務所
事務所URL:https://www.bengo4.com/tokyo/a_13104/l_127519/