感染症対策で、いまやマスクは必需品だ。口腔外科医の宮本日出氏は「ただしマスクのつけ過ぎは、さまざまな肌トラブルの原因になる。正しい対処法を知ってほしい」という--。
写真=iStock.com/Mlenny
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Mlenny

■「摩擦」「蒸れ」「乾燥」でボロボロになる肌

マスクをつけているとウイルスからだけでなく、肌も守ってくれるイメージがあります。しかし実際には、長時間の装着で、肌荒れやニキビなどのトラブルに悩まされている人が増加しています。

マスクによる肌荒れの3大原因は「摩擦」「蒸れ」「乾燥」です。

取り外したり、ズレを直したり、会話をするたびに、マスクと肌がこすれます。これが積み重なると、肌の角質層がダメージを受け肌が弱くなります。つまり摩擦により、肌が荒れてしまうのです。

またマスクの中は吐く息が充満し、湿度と温度が高くなりがちです。この蒸れた状態は、雑菌が繁殖しやすい環境です。悪玉菌の増殖により、肌のバリア機能が低下します。

そして、マスクを外すと、皮膚の表面の湿気が一気に蒸発します。この時に肌の水分も一緒に蒸散します。これにより肌は乾燥し、カサカサになってしまいます。

■デリケートな唇はもっとも悲惨な状態に

唇は、角質層という皮膚表面のバリア層が薄いため、とてもデリケートな部位です。皮膚と粘膜の間の構造といえます。唇が赤いのは、内部の血液が透けて見えるためで、それだけ表面の皮は薄いのです(実は、われわれ歯科医師は唇の色で、患者さんの健康状態や精神状態を判別しています)。

通常の肌は、皮脂腺から出る皮脂と汗腺から出る汗が混ざり、天然の皮膚保護膜(皮脂膜)で守られています。一方、唇は皮膚の蒸散を防ぐ脂を出す組織(皮脂腺)が少なく、水分を出す組織(汗腺)もありません。つまり唇は皮脂膜がないのです。このため唇は、内部の水分が蒸発しやすく、肌の5倍ものスピードで乾燥してしまいます。

つまりマスクをすると、「摩擦」「蒸れ」「乾燥」が起こり、真っ先に唇がカサカサに荒れてしまうのです。そして、唇の皮がポロポロむける状態になります。これは「硬化剥離(こうかはくり)」という唇特有の現象です。

■若く見える「ふっくら唇」の保ち方

唇は、その人の印象を大きく左右します。

年齢とともに唇は薄くなりますから、唇がふっくらしていると若く見えます。年をとると、唇にシワが出てくるのも特徴です。また赤い唇は、健康的に見えます。これらの唇の特徴は女性だけでなく、男性でも同じです。

また、カサカサ荒れていると、唇にシワが出て、薄く見え、赤みが消えるという「三重苦」に陥ります。こうなると仕事でもプライベートでも、相手への自分の印象が悪くなってしまいます。

そうならないためには、ケアが欠かせません。

唇のケアのポイントは「保湿」です。マスクをする前後、あるいはつけている途中で、保湿効果の高いリップクリームを塗ってください。オススメは、ワセリン配合のリップクリームです。ワセリンは唇表面に保護膜を作り、唇の水分が蒸発しないようにするため、乾燥防止になります。

唇の組織の入れ替わりの間隔(ターンオーバー)は、3.5日と肌に比べとても短いです。ですから、唇ケアを始めてから数日で、カサカサ唇の状態が改善します。

写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

■口周りのニキビは不潔になっているサイン

マスクをつけると、口周りや顎周り、鼻周囲のプツプツやかゆみが出やすくなります。これはマスクを長時間つけることで、ニキビができたからです。

マスクでニキビが悪化する最大の原因は、雑菌の増加です。前述したように、マスクの下は高音・高湿の蒸れた状態で、これは雑菌が繁殖する格好の環境です。雑菌の中でも「アクネ菌」が増殖すると、ニキビが悪化しやすくなります。

こうしてできたニキビを「マスクネ」と呼びます。「マスク」と「アクネ菌」を組み合わせた造語ですが、このような造語ができるほど、マスクにより口周りには、ニキビが増えやすいのです。

ニキビ対策の基本は「清潔」を保つことです。

使い捨てマスクは、1日使ったら捨てましょう。洗濯できるタイプのものなら、毎日洗濯してください。ただ、マスクが湿ってきたり、マスクから臭いがするようであれば、早めに交換しましょう。もしマスクが不足しているようでれば、ガーゼなどをのせてからマスクをすると良いです。

1日2回を目安に、しっかりと洗顔してください。マスクを長く付けていると、肌が弱くなっているので、刺激の強いアイテムは避けてください。肌にやさしいクレンジングや洗顔料を選ぶとよいでしょう。そして、保湿をしっかりしましょう。

■肌ストレスが高まっている今、オススメの化粧品

保湿のための化粧品は、プラセンタ配合のものがオススメです。

プラセンタとは、胎盤から取り出したエキスで細胞の若返り・活性の効果があるといわれています。保険治療では、肝機能障害や更年期障害に使われます。近年は、アンチエイジングとして注射やサプリメントが普及しています。化粧品では、シミ・ソバカスを防ぎ、美白効果があることが知られています。以前は、歯周病の保険治療にも用いられていました。この効果により、最近では口腔ケアの歯周病対策にも使用されています。

昨年、プラセンタは皮膚バリア機能を強化することが、医学的に証明されました(『Fragrance Journal』2019年11月号 掲載論文より)。スキンケアとしてプラセンタを添加したものを使用すると、肌表面の善玉菌が増えたり、大気汚染物質PM2.5からの保護や、皮膚の細胞が活性化することがわかりました。最終的には皮膚の角質層が強化され、肌のコンディションが良好になります。

プラセンタ化粧水には、たくさんの種類があります。プラセンタエキスは加熱処理をすると効果が落ちてしまうので、ウマかブタの「生」プラセンタエキスを使用しているものだと、よりベターです。

■表情筋が衰えてシワ・たるみが出る

マスク着用の生活が長くなると、これまでより人と話す機会が減り、話す時間も短くなります。そうなると口周りの動きが減り、口周りの筋肉が衰えます。

写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bee32

またマスクをつけていると、他の人から表情が読み取れにくくなります。

この結果、「作り表情」をする必要がなくなります。すると、顔の表情を作る表情筋は緩くなり、シワ・タルミや二重アゴの原因となります。特に口呼吸をする人ほど、表情筋を使わないためにこの傾向が強くなるので注意が必要です。

実は、この口呼吸がマスク着用で増えていることがわかりました。

■口呼吸になると感染症のリスクが高まる

新型コロナウイルス感染症の拡大防止対策として、緊急事態宣言が発出された今年5月のことです。熊本県でマスクの実態調査を行ったところ(「熊本日日新聞」2020年5月16日号より)、マスクをつけていると口呼吸になる人が増えていることがわかりました。

宮本日出『えっ!? まだ始めていないんですか? お口からの感染予防 ウイルスも細菌も、お口から入って来る!』

その数は、なんと25%増。男女別に見てみると、男性はマスクによって口呼吸になった人が1.3倍、女性では2.5倍にも増えていました。年代別で見ると、若い人ほど口呼吸になっていました。特に10代以下は、43%もの人がマスクの下で口呼吸をしていたのです。原因はわかりませんが、若い女性ほど、マスクを付けると口呼吸をしやすくなるというわけです。

本来、人は鼻で呼吸をします(鼻呼吸)。鼻の中の鼻毛や粘膜がフィルターとなり、ウイルス、細菌、ホコリなどの有害物質が、体の中に入らないようにするためです。鼻の中を通ることで、空気は適度な湿度・温度に調整されます。

しかし、口呼吸になると、有害物質を含んだ空気が直接、肺に入りやすくなります。乾燥した空気はノドや肺にダメージを与え、ウイルス感染しやすい環境を生み出すのです。

他にも、口呼吸は口の中を乾燥させ、唾液の量を減らします。こうなると唾液の「殺菌」「消毒」「洗浄」作用が効かなくなるため、細菌が増えます。最終的には、免疫防御機構を持つリンパ節に悪い影響を与え、体の免疫力を下げます。

写真=iStock.com/Hakase_
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Hakase_

感染症防止のためにマスクをつけているのに、口呼吸になってしまうと免疫力が下がり、逆に感染リスクが高まってしまうのです。マスクをつけた時は、意識して鼻呼吸するように心がけましょう。

口呼吸になって口の中で細菌が増えると、口臭も強くなります。通常の歯ブラシに加えて、塩化セチルピリジウム(CPC)が含まれた洗口剤を使ったうがいをしたり、舌表面の垢(舌苔)を、舌ブラシなどで取り除いてください。歯科医院の口腔ケアも、口の中の菌を徹底的に除去してくれるのでオススメです。

----------
宮本 日出(みやもと・ひずる)
歯科医師・歯学博士
幸町歯科口腔外科医院・院長。1965年生まれ。愛知学院大学歯学部卒業。国内外に160篇以上の論文を発表。自分のクリニックでスタッフ向けに行ったミッションについてのレクチャーが話題を呼び、「歯科業界のサンタ」という異名を持つ。「ホンマでっか!?TV」(フジテレビ)に出演するなど、多数のメディアで活躍中。著書に『サンタはなぜ配達料を取らないのか?』(voice社)、『サンタの「歯科医院経営成功術」みんなを幸せにするミッション経営』(歯科経営出版)などがある。
----------

(歯科医師・歯学博士 宮本 日出)