キックオフ前、目を閉じて集中力を高める広島皆実イレブン。日大藤沢に惜敗も、堂々たるパフォーマンスを披露した。写真:金子拓弥(サッカーダイジェスト写真部)

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 スタンドに足を運べなかった仲間に勝利を──。広島皆実はチーム一丸となって日大藤沢戦に臨んだが、1−3の敗北を喫した。

 等々力陸上競技場で開催された全国高校サッカー選手権、2回戦。広島皆実は、前半のうちに2点のリードを許す苦しい展開を余儀なくされる。それでも後半5分にPKを獲得して、これをFW岡本拓海が冷静に決めて1点を返す。するとチームは息を吹き返し、本来の鋭い出足と攻守両面における高い連動性を発揮。主導権を奪い返したが、後半30分に手痛い3失点目を喫してしまい、趨勢がほぼ定まった

 ショッキングなニュースが飛び込んできたのは大晦日だった。さいたま市内の高校に滞在していたサッカー部Bチームと応援に駆け付けた一般生徒の計44名が、集団食中毒の疑いで病院に搬送されたのだ。大会登録メンバーは東京都内の別の宿舎に滞在していたため影響はなかったが、1、2年生が中心の44人全員(うち2名は入院中)が1月2日の等々力での観戦を断念。実際、応援席は普段に比べてひっそりとしていた。

 会場に来られなかった部員たちはビデオメッセージを急きょ作成。試合前のロッカールームでそれを観た先発メンバーたちは、みずからを奮い立たせて強豪に立ち向かった。

 
 仲元洋平監督は「Bチームの選手たちの回復を祈りつつ、我々が勝つことがBチームのためになるという思いを持って臨んでくれた。動揺した部分もあったかもしれないけど、プラスに変えてやり切ってくれたと思います」と語り、試合に関しては、「前半の終わりくらいから我々のペースになったんですが、あそこで3点目を決めるあたり、相手のほうが上手でした」と振り返った。

 ともに最後まで激しく攻め合った好勝負に、等々力のスタンドは大いに沸いた。惜しくも宿舎で声援を送る仲間たちに勝利はプレゼントできなかった広島皆実イレブン。ただその気概と闘争心は十二分に、高校サッカーファンを熱くさせた。

取材・文●川原崇(高校サッカーダイジェスト編集長)