『PayPay』CMより

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 ソフトバンクとヤフーの共同出資会社でスタートし、10月からサービスを開始したQRコード決済のサービス『PayPay(ペイペイ)』の『100億円あげちゃうキャンペーン』が炎上している。

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 PayPayで買い物をすると支払い額の20%が還元、さらに一定の確率で全額がキャッシュバックになるという、総額100億円還元キャンペーンが12月4日に開催された。この超ビッグキャンペーンに利用者が殺到し、'19年3月末までの期間だったはずがわずか10日間で100億円に到達。祭りはすぐに終わりを迎えた。

 しかし、そんな“PayPay狂騒曲”も束の間、セキュリティの甘さから『クレジットカードの不正利用』の被害が続出し、大問題に発展している。

 自身もこのキャンペーンに参加したという辛酸なめ子さんとともに、今回の炎上について考える。        

* * *

──還元額の高い大型家電量販店には行列ができるほどだったそうですが、始められたきっかけは?

辛酸「『100億円あげちゃう』というニュースを見て、思わず登録してしまいました。ちょうどそのタイミングで“もうすぐキャンペーンが終わるらしい”という怪文書がネットで出回っているのを見て、デジカメを買いにビックカメラに急ぎましたね」

──噂がSNSで拡散したことで利用者が殺到し、一時サービスが停止する事態にまでなりましたよね。同じく決済アプリに『PayPal(ペイパル)』というというサービスがあり、紛らわしいという声もありましたが、PayPayというネーミングについてはいかがでしょうか?

辛酸「口に出すのが少し恥ずかしい感じはありますね。また、PayPayは中国のスマホ決済サービスグループと業務提携していますし、シャンシャンやシンシンのようなパンダのネーミングに引っ張られて、繰り返しの音にしているのかもしれません。でも、直訳すると“払え払え”と言われているような気がして少し怖いです」

──このキャンペーンを機に『PayPay』のアプリをダウンロードしたということですが、使ってみていかがでしたか?

辛酸「クレジットカードを登録したりと、意外と手間がかかることがわかりました。支払いのときもSuicaなどの電子マネーと違い、“ピッ”とレジにかざすだけではお会計できません。店にあるQRコードを読み取って出てきた画面に自分で金額を手入力し、店員さんと確認しあいながらようやく支払いができるわけですが、これだったら普通にクレジットカードを使うほうが楽な気がしました……」

──ほかに使っていて気になった点は?

辛酸「アプリを立ち上げるごとに、【この画面を提示してすぐお支払い】と書かれたバーコードの下に5分間のタイマーが表示され、急に謎のカウントダウンが始まるので、煽られているような気がしてしまいます。

 '11年に“スカスカおせち事件”で話題になったクーポンサイトの『グルーポン』も、商品の横に“何時・何分・何秒”というように数字がたくさん出てきてカウントダウンをしていたことが思い出されます」

──カウントが「0:00」になったら一体何が起こるのやら……。

辛酸「気になって5分間待ってみたのですが、結局またカウントが5:00に戻るだけで特に何も起きませんでした。“急いで払わなきゃ”と思わせるだけのカウントダウンなのかもしれません。

 こういう消費者をコントロールしようという仕組みが、どこか信用できないような雰囲気を出しています。

 支払いのときにスマホから“ペイペイ♪”と軽快な音が鳴るのですが、ビッグカメラで私の前に並んでいた若い女性はその音にあわせて“ペイペイ”と呟いていました。すでに洗脳は始まっているのかもしれません」

──1/40の確率で支払額の全額が無料になるキャンペーン(Yahoo!プレミアム会員は確率が1/20、ソフトバンクとワイモバイルのスマホユーザーは確率が1/10の確率にアップ)もありましたが、結果はいかがでしたか?

辛酸「残念ながら抽選には当たらず、20%還元の5000円分ほどのポイントをもらいました。早速、使ってみようとファミリーマートでアイスを買ったのですが、ポイントをお金に換金するというアプリ内作業が必要だったことを全く知らなくて……。

 結局、ただクレジットカードでアイスを買ったおかしな人、という結果になってしまいました。あとで調べたところ、そもそも来年の1月からしか利用できないポイントだったみたいです。どの道、簡単には使わせてくれない仕組みになっています」

──サービス終了直前に買い物に急ぐ『駆け込みPayPay』の様子や、この盛り上がりぶりを『PayPay狂騒曲』と報じるメディアもあったりと、大きな話題になりましたよね。

辛酸「全額キャッシュバックが当たった画面のスクショをTwitterにアップしているのを多く見かけましたね。中には2回、3回と全額キャッシュバックが当たっている人もいたそうです。それを見ていると、“もう一回やろうかな……”という気になってしまいました。ちょっとしたギャンブル性があって怖いですね。

 たまにビックカメラやヨドバシカメラで10%を超える還元キャンペーンをやっていますし、“それくらいで満足しておくべきだったのかも……”と、踊らされた後に気づきました。それだったらポイントもすぐ使えますし」

──しかし、祭りの後はすぐ『クレジットカードの不正利用』が相次ぎ、「身に覚えのない請求」がくる人が続出する騒動になってしまいました。クレジットカード情報を登録する際、セキュリティコードの入力回数に制限が設定されていなかったことも大きな原因だったみたいです。

辛酸「3桁のコードなので、単純に1000回入力したら当たるということですよね。なかには数十万円もの被害にあったりという方もいました。クレジットカードを持っている全ての人が不正利用されている可能性があるというのは大ごとです。

 テレビで“サービス終了ギリギリになってコンビニに駆け込む人”のニュースが放送されていましたが、その狂乱ぶりを冷たい目で見ていた人も不正利用される可能性があるという、運命共同体のような状況になっているのが不思議です。

 また、Twitterなどでも話題になっていましたが、公式サイト内の【身に覚えのない請求がきたら】といった注意喚起のページには、《お客様の携帯電話やクレジットカードを知りえるご家族様や知人のかたの利用の可能性についてご確認ください》とありました(現在、該当箇所は削除)。

 これは“当社を疑わず家族や知人を疑ってみてください”と言っているようなものですよね。ユーザーの人間関係にも影響を与えかねない表現はすごいです。家族や友人も信用できない時代がきたのかもしれません」

──今、日本でもキャッシュレス化が推し進められていますが、キャッシュレスについていかがお考えですか?

辛酸「個人的にはやはり現金のほうが金運的にありがたみがあるというか、お金のエネルギーを実感できそうです。そして何より、お財布からお金を出す感覚がないと、どんどん使ってしまいそうな気も。あの“ペイペイ♪”の音によって、軽い気持ちで支払ってしまう部分もあると思います。

 はじめに登録したときに500円分のボーナスをもらえるのですが、これには“有効期限2年”との制約がありました。今回のデジカメを買ったときのキャッシュバックにも有効期限があったりするのでしょうか……。お金に寿命が生まれるといった感覚ですね」

──今回のPayPay騒動でネットも炎上してしまっています。

辛酸「キャンペーンのキャラクターに選ばれた宮川大輔さんも災難ですよね。『イッテQ!』の祭り企画でヤラセ疑惑が報道されたことでも度々名前が取り上げられたかと思えば、また巻き込まれて……。やはり本物の祭りじゃないと“開運効果”は得られないのかもしれません。

 また、今回のクレジットカードの不正を見ると、炎上を安全なところから見ているつもりの人も、決して安全ではないということです。新しいサービスを楽しむくらいの感じで適度に使うのがいいのかもしれません。“タダ”や“キャッシュバック”のウラにはこのような罠や危険性がつきものと心得たほうがいいのかもしれないですね」

辛酸なめ子/漫画家・コラムニスト。
東京都生まれ、埼玉県育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。近著は『大人のコミュニケーション術』(光文社新書)『おしゃ修行』(双葉社)『魂活道場』(学研)、『ヌルラン』(太田出版)など。