ロシアに政治亡命した米中央情報局(CIA)元職員のスノーデン容疑者が、ドイツ誌「シュピーゲル」に提供した資料で、米国が開発中のステルス戦闘機「F−35」の情報を、中国が“サイバースパイ”によって盗んだとの報道について、中国政府・外交部の洪磊報道官は19日の定例記者会見で「根拠なし」などと反発した。(イメージ写真提供:123RF)

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 ロシアに政治亡命した米中央情報局(CIA)元職員のスノーデン容疑者が、ドイツ誌「シュピーゲル」に提供した資料で、米国が開発中のステルス戦闘機「F-35」の情報を、中国が“サイバースパイ”によって盗んだとの報道について、中国政府・外交部の洪磊報道官は19日の定例記者会見で「根拠なし」などと反発した。しかし「盗んではいない」とは断言しないなど、歯切れの悪さも感じさせた。

 F-35は米航空機メーカーの、ロッキード・マーティンが中心となり開発を進めている多用途性を備えたステルス戦闘機。報道によれば、中国はレーダー装置、エンジン配線図、ジェット排気煙冷却方法などを含め、多くの情報を盗んだとされる。

 洪報道官は同報道について「何の根拠もない非難」と反発。「インターネットの安全性の問題について、われわれは一貫して中国側は攻撃の被害者と強調している」、「インターネット攻撃はもとをたどるのが難しい。国境を越える性格が強いという複雑さがあり、攻撃者を特定するのは非常に困難だ」、「どのような根拠で、(中国を)非難し、いわれなく攻撃するのか分からない」と主張。

 さらに、「ある国家にとって、自らが受けたネット攻撃の記録は不名誉なものだ」などとつけ加え、「われわれはネットの安全問題で、理由なく他国を非難し、でっちあげたりすることがないよう希望する。協力の姿勢をとり、共同でハッカー攻撃を防止する行動をすることを希望する」と述べた。

 これまでに中国国内でも、自国が開発したステルス戦闘機「J-31(殲-31)」は、F-35の“パクリ”という見方があった。さらに、「パクったからには、米国はJ-31の欠点を熟知している」として、J-31で米国に対抗しようとしても「原則的に無理がある」との主張も出た。

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◆解説◆
 洪報道官は「中国がF-35の情報をサイバースパイで盗んだ」との報道に猛反発してみせたが、「していない」ではなく、「根拠がない」との言い方に終始した。その上で、「サイバー攻撃には各国が一致して対応を」と、“だれにも反論できない正論”を展開した。報道が事実でないならば「事実でない」とだけ述べればよいのに、いかにも歯切れの悪い回答だった。

 中国で軍事関連の行動について意思決定をするのは中国共産党の中央軍事委員会だ。中央軍事委員会は中国中央政府(国務院)とは別系統の存在で、政府の指導を受けるわけではない。まして、外交部(外務省)は中央政府の一部門にすぎず、軍からみれば「ずっと格下」の存在だ。そのため、外交部が軍の動きについて、逐一知らされるとは限らないとされる。

  F-35の情報を盗んだ問題についても外交部は情報を持っておらず、そのために洪報道官は「きっぱりと否定」ができない状態だったと理解するのが自然だ。軍は外交部に対して「やった」とも「やっていない」とも説明しない。したがって「サイバースパイはやっていない」とも断言できない。断言する権限もない――状態だったと推測できる。

 中国は「共産党がすべてを管理する国」だが、江沢民政権時からは、共産党トップの総書記、中央軍事委員会主席、国家主席は同一人物が兼任することが慣例となった(現在は習近平氏)。権力構造に整合性を持たせる「知恵」と言ってよい。

 しかし、共産党指導者が「ポスト革命世代」になってからは、「共産党による軍の指導」を旨とする体制はゆるぎないものの、共産党の指導者であるというだけでは、プロ集団である軍をコントロールすることが以前に比べて難しくなったとされる。

 文民高官の考えとは独立して行動しやすい中国軍の体制は、「統帥権は天皇陛下にある」として、内閣や国会の意向と関係なく軍が行動を進めた戦前の日本の体制に類似する面があると言える。(編集担当:如月隼人)(イメージ写真提供:123RF)