敗戦後、ピッチにひざまづくブラジル代表選手 (写真:フォート・キシモト)

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 人材不足。駒不足。2010年南アW杯のブラジルもそうした意味で、大したチームだとは思わなかったが、今回は、その前回さえ大きく上回っていた。脚光を浴びていたネイマールにしても、ロマーリオ、リバウド、ロナウド等々、それ以前のスター選手たちには遠く及ばない。
 
 開幕戦。ブラジルはクロアチアに3─1で逆転勝ちした。だが、試合内容は怪しかった。1─1で迎えた71分。西村主審がブラジルにPKを与えていなければ、ブラジルはこの試合に勝っていたかどうか怪しい。ブラジルが内包する問題点は、もう少し早い段階で明らかになっていたはずだ。
 
 チリ、コロンビアは、多少乱暴に言えば、南米サッカー界のヒエラルキーに自らはまり込んでくれた。ブラジルを大したチームだと必要以上にリスペクトしてくれた。ブラジルの脅しに、多少なりともびびってくれたが、ドイツはそうはいかない。こけ脅し、ハッタリが世界で一番通じない相手と言っていい。
 
 無遠慮というか、冗談が通じにくい人たちでもある。大抵のチームは4点目を奪ったら社会通念上というか、暗黙の了解事として、5点目を奪いに行こうとしないものだ。適当なところで攻撃を止めるものだ。
 
 その昔、トルシエジャパンが、パリのスタッド・ドゥ・フランスで0─5で大敗したことがあるが、その時も後半21分に、ピレスが前に行こうとしたところ、フランスベンチから「行くな!」の声が掛かっている。それ以上点を取るなという司令が出たわけだが、ドイツはそうした「気配り」ができる国ではない。隣国でライバルのオランダ人のある記者はこう言った。
 
「我々はここ何百年も、戦争で人を殺したことはない。オランダ人は人を殺せない気質なんだ。息の根を完全に止めようとはしない。W杯で優勝できない理由、大きな一番に弱い理由はそこにあります。それと対局に位置するのがドイツ人です。彼らは本気で殺しに来る。息の根を完全に止めようとする。だから勝てるんです」
 
 ブラジルはそうしたドイツの怖さを甘く見ていたようだ。前半0─0で推移していたある時、マルセロにドイツの主将、ラームがペナルティエリア内で正当なタックルを入れた。演技なのか、我を忘れたのか、マルセロは「PKだ!」とすかさず激しく審判に詰め寄った。
 
 これがドイツの怒りを誘ったことは間違いない。中途半端な高さで構えるマルセロの裏にドイツは狙いを定め押し寄せた。
 
 ブラジルの4バックは、その左サイドバック、マルセロが、一人高い位置を取る3人(ダンチ、ダビド・ルイス、マイコン)+1人(マルセロ)の関係になっていた。そこにトーマス・ミュラー、ラーム、シュバインシュタイガーらがコンビよく圧力を掛けた。ドイツの凄さは、そうした狙いが忠実に実行できるところにある。やりきる力があるのだ。
 
 ブラジルは、相手の弱点に狙いを定めるようなことはしない。よく言えば受けて立つサッカー。作戦というものは存在しない。選手の能力に掛けるサッカーとも言えるが、だとすれば、個人的な技量に優れていなくてはならない。だが、冒頭で述べたように、いまもブラジルは、人材不足であり、駒不足だ。ネイマールがいたコロンビア戦までは、ネイマールの魅力によって、他の選手の地味さはカバーされたが、ネイマールがいなくなると、途端に平凡なチームに見える。ドイツの選手の方が数段巧く見える。
 
 こういうことはかつてあっただろうか。ブラジル対ドイツで思い出すのは、2002年日韓共催W杯決勝戦だ。この時、優勝したのはブラジルで、スコアは2─0だったが、それはもう10回戦っても、せいぜい1、2回しかドイツに勝ち目がない、順当な結果だった。それから12年後、ブラジルがまさかドイツに、しかも自国開催のW杯で、1─7で敗れようとは誰が想像しただろうか。