ワールドカップブラジル大会の日本代表23人が決まった。

 年齢構成という点を考えたとき、ベテランばかりだと落ち着きすぎてしまい、若手が多いと、勢いはあるが、落ち着きがなくなる。選手として成長し、働き盛りとなるのが27歳前後なので、ザッケローニ監督は就任当初から常にバランスと言っているとおり、今回選んだ23人についても本田圭佑や長友佑都らを中心にバランスをとって選んだのだと思う。

 これまでの選考の流れを考えると、2年間呼んでいなかった大久保嘉人が入った点はサプライズといえる。ただ、私は、前線の選手は調子のいい選手を入れるべきだとずっと思っているので、大久保は入るべき選手だったと思う。

 大久保は結果を出し続けて、自分の力で代表の座をもぎとったと言うべきだろう。昨年はJリーグ得点王になり、今季も好調を維持。代表メンバー発表直前のリーグ戦では2ゴールを決めた。ザッケローニ監督が求める複数ポジションもこなせる。

 何よりも気持ちをコントロールできるようになっている。川崎の風間八宏監督や、中村憲剛らチームメイトの影響もあるだろう。これまで、不必要な警告が多い印象のある選手だったが、昨シーズンもらったイエローカードは3枚のみ。さまざまなストレスがかかるなかで、自分を見失うことなくプレーして、自分自身にプレッシャーをかけすぎず、自分の力を出すことに集中できている。

 大久保以外の顔ぶれは、常連といえる。もちろん、伊野波雅彦ではなく塩谷司になった可能性もあるし、青山敏弘ではなく、細貝萌、中村憲剛という選考も十分ありえることだった。また、大久保ではなく、豊田陽平、工藤壮人を選ぶこともザッケローニ監督は考えていたかもしれない。

 今回、豊田を入れなかったということは、攻撃での「高さ」を捨てたということ。世界の強豪と戦うために、高さ、強さで互角に近い勝負はできても、上回ることはほとんどできない。日本の武器になるものが何かを考え、機動力とパスを主体とした地上戦、コンビネーション、ハードワークを続ける運動量、パスワークで勝負するという監督の決意の表れと見ていい。パワープレーには頼らず、どんな状況でも、これまで積み上げてきたスタイルを貫くということだ。

 ボランチを5人にするかどうか悩んだと会見で言っていたのは、ケガから復帰したばかりの長谷部誠のコンディションの問題があったからだと思うが、長谷部の回復具合を見て、行けると判断した結果、4人になったのだと思う。

 4人のうち、長谷部、山口蛍はどちらかというと守備担当。遠藤保仁は攻撃担当。そしてあとひとりを、守備的な役割の細貝ではなく、青山にした。これは、守備的にならず、主導権を握って攻撃的なサッカーをするという監督から選手へのメッセージだと思う。もちろん、バランスを重視する監督なので、攻撃偏重にならずに、守備とのバランスを考えていることは言うまでもない。

 ケガから復帰した長谷部、吉田麻也、内田篤人のコンディションがどうかという懸念材料はあるが、この3人への監督の信頼の厚さと、これまで築き上げてきた実績を重視したということだろう。

 私は、前線の選手は調子のいい選手を選ぶべきと思っているが、後ろの部分、つまり守備の選手については、まとまりと連係、コレクティブに戦えることを重視すべきと考えている。同じメンバーで継続して戦うことで成熟度を上げて、組織で守る。今回の顔ぶれはそれを考えての選考になっている。

 長谷部は前回大会の経験があり、キャプテンとして守備に落ち着きと安定感をもたらす。内田は4年前の南アフリカ大会で試合に出場できなかった悔しさがあるはずで、モチベーションが高いだろう。守備については、ドイツで経験を積むことで、球際の強さも身についてきた。もともと備えている攻撃力も強化されている。吉田もプレミアリーグでの経験を生かせるはずだ。

 大会までに3人のコンディションを戻すためにも、不必要な競争、ポジション争いはいらない。監督がやるべきことは、選手に安心感を与えて、焦らずにコンディションを整えさせること。競争が激しくなると、個々の選手が監督にアピールするために早めにコンディションを上げすぎて、大会本番前にピークになってしまう危険性もある。

 競争がないことでマンネリになる危険性もあるが、その点、前線については大久保がいい刺激になっていると思う。大久保もまた前回大会の出場経験があり、さきほど言ったように、選手として、人間として成熟して、自分の気持ちをコントロールできるようになっているので、過度な競争にはならないはずだ。

 また、23人全員がW杯本番のピッチに立てるわけではない。どの国も、いいチームであればあるほど、あまり先発メンバーを変えない傾向がある。だからこそ、競争ということに関して、ベンチの選手は不平不満を持たずに、チームのまとまりを考えてふるまえるかどうかが重要になる。

 団結すると言葉で言うのは簡単だが、これはとても難しい。控えの選手は、不協和音を生まない、協調性のある選手でなくてはいけない。それがチームの秩序を保つことにつながる。ザッケローニ監督はそうした部分の選手のパーソナリティも見きわめて選考しているはずだ。

 また、メンバー発表の会見で「インテンシティ」という言葉が出ていたが、これは、相手を恐れないで、堂々と戦う姿勢を持つこと。ファイティングポーズをとって、勇気を持って踏み込んでいく。ひるまずに立ち向かう。それが「インテンシティ」ではないかと私は思っている。

 腰が引けた状態でパンチを出しても威力はない。相手を恐れたり、リスペクトしすぎることは避けなくてはいけない。その点、海外組は自分が所属するリーグでW杯に出場する外国人選手と日々対戦をしているので、相手の強さを知っている。そのため、相手を必要以上に恐れることはないし、相手の弱点も知っている。経験値があり、過信はなく、自信を持っている。

 そして、勇気を持ってラインを高くして守り、コンパクトさを保ってポゼッションをして、守備の時間を減らし、攻撃の時間を増やす。そうしたザッケローニ監督の哲学とでも言うべき姿勢が表れているメンバー選考になったと思う。

 大会本番前のトレーニングマッチは5月27日のキプロス戦、6月2日のコスタリカ戦、6日のザンビア戦。これについては、ザッケローニ監督は「強豪国とやる必要はない」という判断なのだろう。格上とやることで、メンタルとフィジカルのコンディションを崩すよりも、調整を最優先にして初戦に照準を合わせているのだと思う。本番までの日本代表チームの動向に注目したい。

福田正博●解説 analysis by Fukuda Masahiro