韓国ではスターバックスの不買運動が起こっている韓国(写真・共同通信)

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 韓国で、米大手コーヒーチェーンのスターバックスが“政治闘争”の渦に巻き込まれている。発端は、5月18日から始まったスターバックス韓国法人のタンブラーの販促企画「5・18タンクデー」。2個購入で21%割引などの特典がついていた。

 ところが、この何気ない販促が、韓国世論を爆発させた。

「というのも5月18日は、韓国現代史に残る『光州事件』の発生日だからです。1980年、チョン・ドゥファン政権下で、民主化を求める市民デモに軍が発砲し、多数の死傷者を出したこの事件は、韓国では『民主化運動の原点』として半ば“聖域視”されています。

 そのため、『タンク』という単語が、当時市民を蹴散らした戦車を連想させるとして、批判が噴出しました。さらに、『21%割引』が軍の本格発砲が始まった5月21日を示唆している、『机をドン』という宣伝コピーが1987年の民主化運動時に警察幹部が記者会見で机をたたき、記者を威圧した事件を揶揄しているなどと、次々に“政治的意味”が読み込まれていったのです」(現地記者)

 韓国内では、SNSで有名俳優や文化人まで不買運動への参加を表明し、炎上は瞬く間に全国規模へ拡大していった。事態を重く見たスターバックス側は、代表が退任。現地法人の親会社である新世界グループのチョン・ヨンジン会長までが謝罪会見に追い込まれる事態となった。

 だが、それでも火は消えなかったようだ。同社の過去の販促企画まで検証され始め、今度はタンブラー容量の「503ml」が、パク・クネ元大統領の受刑者番号「503」と一致している、との指摘まで飛び出した。韓国事情に詳しい関係者は苦笑する。

「503mlなのは、単に約17オンスだからというだけ。アメリカの企業ですから、容量基準がオンスになるのは当然です。正直、かなり無理筋な批判も多いです」

 この騒動には、韓国政界の思惑が色濃く絡んでいるという。

「イ・ジェミョン大統領はXで『市民たちの血が流れた闘争を侮辱している』と、スターバックスを批判しました。現職の大統領が、民間企業をここまで激しく糾弾するのは異例中の異例です。与党内からも『さすがにやり過ぎでは』との声がささやかれています。

 背景には、韓国政界を揺るがす“SNS戦争”があります。韓国では近年、生成AIを利用した政治的フェイク投稿が深刻な問題となっているんです。とくに、保守派陣営によるSNS攻勢はすさまじく、2024年の総選挙では『選挙不正』を訴える投稿がネット空間を席巻しました。結果として、ユン・ソギョル前大統領までもがフェイク投稿を信じ込み、非常戒厳宣言へ傾斜した一因になった、との見方すらあるんです」(前出・現地記者)

 つまり現政権にとって、SNS空間は単なる世論形成の場ではなく、政権を揺るがしかねない“武器”でもあるようだ。そのため与党内では現在、AI生成による偽情報投稿への規制強化論が急浮上している。しかも、そこへ統一地方選挙が重なった。韓国情勢に詳しいジャーナリストの辺真一氏はこう語る。

「6月3日に投開票を迎える全国自治体選挙では、与党苦戦の情勢も伝えられています。民主化運動出身を自負するイ・ジェミョン大統領にとって、『光州』は最大級の政治資産。その“聖域”を利用し、支持層結集を図る狙いが透けて見えます」

 一方、保守派は逆襲に出た。「スターバックスでコーヒーを飲もう」と野党議員らがSNSに投稿するなど、スタバ通いを「表現の自由」の象徴として打ち出し始めたのだ。

 企業の販促キャンペーンが、いつの間にか韓国社会を二分する“政治闘争”へと変貌し、コーヒー1杯を飲むだけで、左右どちらの陣営かを疑われる――。いずれにせよ、6月3日の投票日までは、両陣営の政争の具にされるスターバックスは、気の毒というものだろう。