足利で55年続く屋台カフェ『アラジン』|夕暮れに灯るランプとネルドリップコーヒーの魅力
ごく普通の日常にも、小さな旅心はある。たとえばいつもの道の植え込みに花が咲いたとか、なんだか今日は鳥の鳴き声が違うとか、日々の小さな変化にも、心ときめく。あるいは、日没の頃にランプの灯りで現れるカフェがあったらどうだろう……?ようこそ、おとぎの国の旅へ。
宵闇に浮かぶランプの灯りが目印『カフェ アラジン』@足利市
人を引き寄せ、出会わせるアラジンのマジック!
「1日に天気予報何十回見るかわからないよ。今日は温かいね」。
『カフェ アラジン』。足利市で55年めになる屋台のカフェだ。基本は無休だが、冬は北関東特有の空っ風が吹き荒れればお休みとなる。
開店は16時前。店主の阿部兄弟、弟の次郎さんが1時間ほど前から用意を始める。年代物の大きなコーヒーミルでゴリゴリと本日の豆を挽くと、途端にいい香りが漂う。傍らの灯油ストーブの上にはコーヒーカップの入った鍋が温められている。夕暮れが近づき、ひとつふたつとランプに火が灯されていけば、間もなく今日もスタートである。
開業は1971年。戦前は外国航路の料理人だったというおふたりの父、阿部弥四郎さんが65歳のときに始めた。
「親父がヨーロッパや中東で見かけたオープンカフェに憧れて始めたんだ。たとえば、絨毯1枚の上でチャイを出す店とかね。それで店名も『アラジン』。」
味のある屋台も看板も初代の手作り。中近東のオイルランプが下がり、傍には弥四郎さんが描いたイスタンブールの夕景画があったり。そういえばどこかエキゾチックな雰囲気でもある。開店後まもなく次郎さんが手伝うようになり、初代が亡くなった1985年から兄・哲夫さんも加わった。

『カフェ アラジン』初代の作だ
「最初は恥ずかしくていらっしゃいませも言えなかったんだよ」なんて語る次郎さんに、一杯目のコーヒーを淹れてもらう。
何杯でも飲めるまろやかな味わいを片手に
メニューはホットコーヒー一択。昔から変わらない3種類のブレンドで、ネルドリップで淹れる。このコーヒーが、香り高くもなんともまろやか。実際、3〜4杯飲む人もざらというおかわりしたくなるヤツである。不思議と。
ホットコーヒー500円

『カフェ アラジン』ホットコーヒー 500円 ネルドリップでコクがありまろやかな味わい
そんなこと言うけれど、次郎さんは飾りもなく、話題の宝庫だし、哲夫さんは何気にやさしい。居心地が良く、みんなふたりに会うのが楽しみなのに違いない。そして実際、ここにはほんと引き寄せられるように多種多様な人が訪れる。
「年齢も国籍も職業も、住む場所もさまざま。だけど、ここで出会って仲良くなる人は多いんだよ」と次郎さん。
取材に来たこの日も三々五々にいろんな人が訪れた。次郎さんの中学校時代の同期だったというご婦人。人懐っこい犬を散歩させながらやってきたUターン組のTVプロデューサー。広島からほぼ月イチで夜行バスでやって来るという遠方からのご常連……。そう言えば金沢から通って、ここ『アラジン』をテーマに卒論を書いた学生もいたという話だ。
で、ほどよく暗がりで、夜のしじまの中、ランプに照らされていると、なんか不思議と距離感が近くなっていくような気がするのだ。熱いコーヒーを片手に、自然体で、ぽつりぽつり語り込んでしまうような。もちろんひとりもの想いに耽るもよし。思い思いに訪れて、ここだけの時間を過ごして帰っていく。
なんか通いたくなる気持ち、とてもわかるなあ。

『カフェ アラジン』5年前まで場所は近くの足利女子校北西角の歩道上だったが、再開発の影響で移転。現在は50年来の常連さんが経営する塾の駐車場で営業している。リヤカーを改造した屋台は変わらずに健在
[店名]『カフェ アラジン』
[住所]栃木県足利市旭町847-12
[電話]090-7009-0188
[営業時間]16時〜22時(夏季は〜24時頃)
[休日]暴風雨など悪天候の日
[交通]JR両毛線足利駅から徒歩約20分、足利市コミュニティバス「蔵王様前」から徒歩1分
撮影/浅沼ノア、取材/池田一郎
