出だしから最悪の気分にさせられた旅行は盛り上がらず、彼女は終始暗い表情だった。この出来事が尾を引いてしまったのか、残念ながら恋人関係も長くは続かなかったという。

◆■数字が語る「高齢者暴走」の意外な真実

今回お届けしたエピソード。警察官の前で放った男性の「言い分」は、まさに現代社会が抱える高齢運転者の課題を象徴しています。警察庁の公式資料からは、私たちが知っておくべき実態が見えてきます。

まず知っておきたいのは、死亡事故率の高さです。免許人口10万人あたりの死亡事故件数をみると、75歳未満の運転者が3.4件であるのに対し、75歳以上の高齢運転者は8.0件と、2倍以上の開きがあります。加齢による身体の変化は、本人が思う以上に数字として表れているのです。

さらにデータを見ると、75歳以上の死亡事故は「相手を死なせてしまう」ケースよりも、「運転者本人やその同乗者が亡くなる」ケースが他の世代より多いという事実があります。感情に任せた無理な運転は、相手だけでなく、自分や大切な家族の命まで危うくする、非常に悲しい結果を招きかねません。

また、死亡事故を起こした75歳以上の運転者のうち、約半数にあたる49.2%が事前の検査で「認知機能の低下」を指摘されていました。「若者が女を連れていて腹が立った」という身勝手な動機。それは単なる性格の問題だけでなく、脳の変化によって感情のブレーキが効きにくくなっていたサインだったのかもしれません。

現在の法律では、あおり運転とみなされれば一発で免許取り消しとなります。高齢になってから免許を失うことは、病院や買い物など、生活の「足」を奪われる深刻な問題です。一時の怒りが、その後の自由な生活をすべて奪ってしまう。この男性が警察に捕まった瞬間に失ったものは、想像以上に大きかったはずです。

私たちは、いつ被害者にも、そして感情を制御できない加害者にもなり得ます。ハンドルを握るとき、「この一時の怒りが人生最後の運転になるかもしれない」という意識を持つこと。その緊張感こそが、悲劇を防ぐ唯一のブレーキになるはずです。

<TEXT/和泉太郎 再構成/日刊SPA!編集部>

【和泉太郎】
込み入った話や怖い体験談を収集しているサラリーマンライター。趣味はドキュメンタリー番組を観ることと仏像フィギュア集め