日本のインフラ問題をどうするか……「長寿命化」を目指して実物大の橋をつくってみた

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日本はこのまま崩れ去ってしまうのか? 道路、鉄道、水道、インフラ、橋……なぜ全国各地で次々に事故が起きるのか? お金も人も足りない……打つ手はあるのか?

注目の新刊『日本のインフラ危機』では、私たちの暮らしを揺るがす「大問題の正体」を豊富なデータと事例から解き明かす。

(本記事は、岩城一郎『日本のインフラ危機』の一部を抜粋・編集しています)

ロハスの橋プロジェクト

「本当に長持ちするものであることを実物大のモデルで証明してください」と言われ、立ち上げたのが実物大の橋のモデルを造り、長持ちするインフラが実現することを立証するためのプロジェクト、通称「ロハスの橋プロジェクト」です。ロハス(LOHAS)とはLifestyles of Health and Sustainabilityの略で、健康で持続可能な生活スタイルと訳されます。

私の所属する日本大学工学部では「ロハス工学」、すなわち工学により健康で持続可能な生活や社会を実現することを研究教育のスローガンに掲げています。ロハスの橋プロジェクトとは、まさに健全で持続可能な橋を実現するためのプロジェクトです。そのため、キャンパス内に実物大の橋のモデルを建設し、そこでさまざまな実証試験をおこないました。

具体的には鋼製の2本の桁の上に、コンクリートの材料や配合、施工方法を変えた6種類の床版を施工し、その品質や耐久性を比較するというものです。実際の橋ではたとえば5本の桁の上にコンクリート製の床版が施工されますが、研究上は2本の主桁に囲まれた部分を取り出せば実物大モデルとして十分に検証可能であると判断し、国土交通省にも了解をいただきました。

床版を対象にしたことにも理由があります。東北地方では冬季に凍結防止剤として塩が大量に散布され、それがコンクリート床版内に浸透することで、凍害や塩害、アルカリシリカ反応などを促進させる恐れがあり、さらに交通車両が繰り返し走行することによる疲労を受けると複合劣化により、早期劣化に至ってしまうことが懸念されるためです。

コンクリート床版内に塩水が浸透しないようにするためにはまず床版上面に塗装やシートによって防水を施すことが必要ですが、それだけでは十分ではないため、コンクリートそのものを緻密にし、コンクリート内部へ塩水が浸入することを抑える必要があります。さらにコンクリートに大きなひび割れが入ってしまうとそこから塩水が浸入してしまうため、ひび割れを抑制する必要があります。

そこで、塩害やアルカリシリカ反応に特に効果が高いとされながら、これまであまり広く使われてこなかった「フライアッシュ」という材料を、セメントと一緒に使うことを第一の柱としました。フライアッシュとは、石炭火力発電所で石炭を燃やすときにできる灰の一種で、ボイラー内を浮遊している微細な球状の粒子を集塵器で集めたものです。これまでもセメントの原料の一部として使われてきましたが、これをコンクリート製造時の付加価値の高い材料として活用することに着目しました。

さらに、従来のコンクリートよりもセメント(やフライアッシュ)に対して混ぜる水の割合を減らすこと、コンクリートにひび割れができにくくするため、これまであまり使われてこなかった「膨張材」という粉末を加えること、鉄筋の表面にエポキシ樹脂を塗ってさびにくくした鉄筋を使うこと、そして凍害を防ぐために「AE剤」を使って従来よりも多くの微細な気泡をコンクリート内部につくること、といった複数の対策を組み合わせました。

その結果、従来に比べ、コンクリートの組織が緻密で、ひび割れがほとんど発生せず、さらには塩害、凍害、アルカリシリカ反応に対する耐久性が極めて高い床版を造ることに成功したのです。

実験・計測(日大)と解析(東大)の融合

しかしながら、これらの結果は郡山市にある日本大学工学部のキャンパスにおけるわずか1年間の検証結果にすぎません。そこで登場するのが、コンピュータシミュレーションです。

郡山における1年間にわたる温度や湿度といった環境条件やコンクリートの諸物性などを入力し、シミュレーションをおこない、コンクリート床版の1年後のさまざまな挙動をピタリと再現できたら、そのプログラムは信頼性・妥当性に優れたものと評価されます。

そうなれば、そのプログラムを使って100年にわたる解析をおこなうことで、100年後の構造物の姿を予測することができますし、北海道や沖縄といった他の環境条件における構造物の姿も予測することができるのです。

日本大学工学部の学生は実物大のモデルから粘り強く計測したり実験したりして、信頼性の高いデータを収集するのが得意です。一方、東京大学の学生は高度なプログラミングにより、精度の高い解析をおこなうことを得意としています。

このように両大学の強みを生かしたコラボによりプロジェクトを推進した結果、先に示したコンクリートを用いることで凍結防止剤散布下においても極めて優れた耐久性を発揮することが立証されたのです。このように二つの大学の研究機関ががっちりとタッグを組んで研究を進めることは当時珍しく、ビッグプロジェクトを進めるためにはこうした斬新な手法が功を奏することを実感しました。

さらに、「日本はこのまま崩れ去ってしまうのか…意外と気づかない「インフラ危機」本当の実態」」では、いま大問題として迫っているインフラ老朽化問題をひきつづき見ていく。

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