【A4studio】自由が丘は再開発で「どこにでもある街」になってしまうのか…「おしゃれな街」が迎えた分岐点

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長年、人気住宅地として支持されてきた東京・自由が丘で、初となる本格的な再開発が進んでいる。東急東横線・大井町線「自由が丘」駅の正面口に、新たな複合施設が今秋開業する予定だ。

かつて自由が丘は、雑貨店やスイーツ店といった個人店が集積する“おしゃれな街”の象徴だった。代官山と並び、多くの女性客を引きつけてきたが、近年はトレンドの発信地が渋谷や下北沢へ移行し、その存在感は相対的に低下している。

では今回の再開発は、自由が丘のイメージをどこまで刷新できるのか。街のブランドは現在どのような位置にあり、かつての“おしゃれな街”のイメージはなぜ弱まってしまったのか。そして、この再開発の先にあるのは“復活”なのか、それとも別の姿への転換なのか。

都市ジャーナリストの谷頭和希氏に解説していただいた。(以下、「」内は谷頭氏のコメント)

記事前編は【自由が丘はもう「おしゃれな街」じゃない…若者は祐天寺や学芸大学へ、ブランド価値が低下したワケ】から。

再開発でどう変わるのか

今回の駅前再開発は比較的コンパクトなものにとどまるが、この再開発で自由が丘はどこまで変わるのだろうか。

「駅前に今秋開業の複合施設の公表されているパース(完成イメージ)を見ましたが、他の再開発物件との違いがわかりづらく、街としてのビジョンが見えにくい印象です。住民の声を聞くと、これまでの自由が丘のイメージとは異なる風景になることへの懸念も少なくありません。この複合施設が地上15階建てということもあり、駅を出た瞬間の“威圧感”を心配する声もあります」

そもそも自由が丘の魅力は、低層の店舗が連なり、自然と歩きたくなるような街並みにあった。今回の開発は、確かにそうした特性を損なう可能性もはらむだろう。

「新施設には、この地を支えてきた『自由が丘 モンブラン』、『そば処 自由が丘 薮伊豆』『自由が丘 一誠堂』といった老舗の出店も予定されています。こうした店舗が入ることで、街の魅力を“補強”する側面はあるでしょうが、重要なのは、その位置づけ。単にテナントの一部として組み込まれるだけでは、街全体の魅力向上につながらないかもしれません」

では、新たに誕生する施設はどの層をターゲットとしているのか。

「認可外保育園や幼児教室、民間学童、小児科クリニックなど、子育て・教育系の施設が入る予定とされています。全体としてはファミリー層を意識しており、“子育て拠点”としての機能を強めようとしている印象です」

『ニュウマン高輪』になりきれない

近年の都市開発では、JR山手線・高輪ゲートウェイ駅に完成した『ニュウマン高輪』のように、歩き回る楽しさやその場での体験を重視した施設が注目を集めている。では今回の自由が丘の再開発も、同じような方向を目指しているのだろうか。

「現時点では前述のパースからの判断になりますが、ニュウマン高輪のように回遊性を意識している可能性はあります。ただ、単に回遊性を高めれば成功するというものでもありません。

ニュウマン高輪は、もともとJRの広大な用地があったからこそ、いわば“テーマパーク的”に振り切った開発が可能でした。一方で自由が丘は土地の制約も多く、周辺住民の意見も無視できない。どうしても中途半端になりやすい条件にあります」

そうした前提を踏まえると、今回の再開発は別の事例に近いと谷頭氏は指摘する。

「むしろ近いのは、JR埼京線・十条駅の駅前再開発でしょう。低層部に商業施設『J&MALL(ジェイトモール)』を配置し、その上に住宅を組み合わせた複合開発ですが、テナント集客には苦戦しているようです。とはいえ自由が丘にはこれまで培ってきた知名度やイメージ、ネームバリューがあるため、テナント誘致の面では十条駅より優位に働く可能性が高いでしょう」

「普通の街」になるか否かの分岐点

再開発によって街が活性化する一方で、個人店や小規模店舗との共存は、多くのエリアで課題となってきた。自由が丘も例外ではないという。

「今回の再開発は、基本的には地価を上げることが目的にあります。そのために東急が関わっているわけで、当然ながらテナントの賃料も上がっていく。“再開発は地元の個人店との共存が重要”とはよく言われますが、ブランド価値が上がれば上がるほど賃料も上がり、個人店は存続しにくくなる。その結果、空いた場所に経営体力のある有名チェーン店が増えていく流れがほとんどです」

自由が丘の魅力は、センスのある個人店が点在し、街全体でそれらを回遊する体験にあった。しかし皮肉なことに、現在の都市経済の構造では、街のブランド価値が高まるほど、その担い手である個人店は存続しにくくなってしまうのかもしれない。

「自由が丘はそうした矛盾に直面しています。だからこそ、もし、かつてあった“自由が丘らしさ”を残したいのであれば、自治体が補助金を出す、賃料を抑えるといった政策的な対応が必要です。

今後も再開発は段階的に進んでいく可能性がありますが、その結果として“どこにでもある街”になってしまうリスクも高い。現状を見ると、地元住民の声が十分に反映されているのか、街の将来像をめぐる意思決定のあり方にも疑問があります。

再開発は、立場によって評価が分かれるテーマです。それぞれの事情がありそれぞれの意見や想いがある。だからこそ、開発側だけでなく、地域に関わる人たちと一緒に街のあり方を考えていくことが重要なのです」

――再開発は街を変える力を持つ。しかし、その舵取りを誤れば、積み重ねてきた個性は失われかねない。自由が丘はいま、“自由が丘らしさ”をどう定義し直すのかという難問に直面していると言えるだろう。

(取材・文=逢ヶ瀬十吾/A4studio)

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