習近平の「一対一路政策」が、東南アジアの「詐欺拠点」を生んだ…「中華暗黒ベルト」の起源をたどる

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世界最大級の台湾系チャイナマフィア・竹聯幇の大幹部である張安楽(白狼)。近年は中国の統一戦線工作への協力が話題になりがちな彼だが、実は東南アジアの中華系特殊詐欺拠点との人間関係も深い。

前回記事『世界最大の「チャイナ・マフィアのボス」張安楽が語る、台湾の「黒い裏側」と「中国の特殊詐欺」』では、2023年に彼がカンボジアの特殊詐欺拠点に拘束された台湾人の救援を“相談”され、5人をひとまず釈放させた話を取り上げた。

この一件の後、台湾人の間では「特殊詐欺拠点に行った人を取り戻せる」と口コミが広がり、彼のところにその手の“相談”が続々と持ち込まれるようになった。張安楽いわく「200人以上の被害者を特殊詐欺拠点から救った」のだという。

さっそく、その具体的なエピソードを見ていこう……。と言いたいところだが、ここからは張安楽本人をはじめ、張明光、クンサー、趙偉、白所成というさまざまな人名や、竹聯幇とか国民党残党(泰北孤軍)とか金三角経済特区とかコーカン軍閥といった怪しい集団の名前がたくさん出てくる。

これらの人たちはいずれも、東南アジアに広がる中華暗黒ベルト(中華系のアングラ社会)では超がつくほどの有名人で、現地の中国人たちは名を聞くだけで姿勢を正す。とはいえ、日本人の大部分はさっぱりピンとこないはずである。中華暗黒ベルトの現地事情も含めて、先に解説しておこう。

怪しい組織たちの「パラダイス」

私がこれまで現地ルポを書いてきた中華暗黒ベルトは、カンボジアからラオス、タイ北部、ミャンマー北部の中国国境地帯、ミャンマー東部のタイ国境地帯(ミャワディ)にかけて広がる、中華暗黒兄貴たちのパラダイスだ。特殊詐欺をはじめ、銃・薬物・賭博・未成年売春・殺人・人身売買・マネロン・スパイ工作その他、この世の悪事は大概おこなわれている世界である。

なぜこんな場所ができてしまったのか。その背景は、前近代から20世紀末ごろまでの前段階の事情と、今世紀の中国大陸や台湾の事情の双方が関係している。

もともと、中国と東南アジア北部との境界はあやふやで、明(みん)の滅亡、国共内戦、文化大革命などの動乱が起きたときは、中国大陸の敗残勢力がこの地に逃げ込むのが常だった。特にミャンマー北部は、前近代から流入した中国人たちが「コーカン族」という少数民族(いちおう「少数民族」だ)になり、軍閥や独立勢力を形成してきた。

また、1949年の国共内戦に負けた国民党の残党もミャンマー北部に流入し、中国共産党への復讐を誓いながら軍閥化(緬北孤軍)。一部はやがてアヘンを売って麻薬王クンサー(1934〜2007)の私兵に変わったり、タイ領内に移り住んだりした(泰北孤軍)。

現在、その末裔はタイ北部で国民党の落人村を作っており、現地でクンサーは英雄だ。タイやミャンマーの中華世界の底流にも、国民党系の勢力は隠然たる影響力がまだ残っている。

マフィア対策と一帯一路が生んだ闇

いっぽう、そんな社会が20世紀末からさらに変わる。まず、1996年に竹聯幇の創設者・陳啓禮が台湾での取り締まりを避けるためにカンボジアに移住した。陳啓禮は張安楽の兄貴分にあたり、現地でシアヌーク国王と昵懇の仲に。個人用の戦車まで所有していた。こうして、まず90年代から台湾マフィアが広範な人脈を築きはじめる。

いっそうのカオスをもたらしたのは、中国の経済発展と習近平体制の成立だ。習近平は2013年ごろから一帯一路政策を提唱し、東南アジアの小国を実質的に属国化。中国式の経済都市や工業団地を各地に建設した。なかでも、中国系企業がラオスの土地を99年期限で租借した金三角経済特区は有名で、中国の情報機関やマフィアとのつながりも囁かれる趙偉という人物が支配者となっている。

だが、コロナ禍で正業の商売が難しくなると、カラになったビルや工業団地に詐欺集団が次々と入居、特殊詐欺の拠点が各地で誕生した。彼らはミャンマーでは地元の軍閥、カンボジアでは地域有力者や政府と結託し、やりたい放題をするようになった。

加えて習近平体制下では、中国の監視社会化や治安維持の強化、コロナ禍による経済疲弊などもあって、「悪い人」や生活困窮者が中国国内で暮らしにくくなった。結果、彼らは陸続きの東南アジア各地に大挙して流入。100万〜数百万人単位の中国人(不法滞在者含む)が移り住み、特殊詐欺拠点や闇ビジネスを活性化させることになった。

もともと怪しげだった土地に、先進国化してクリーンになった社会を嫌がった台湾や中国のアウトローが流入したことで、最悪の暗黒地帯が成立してしまったのである。それでは張安楽の話に戻り、中華暗黒ベルトの主役たちの人間関係に迫っていこう。

クンサー勢力の名士と金三角の支配者

──特殊詐欺拠点に捕まっている台湾人を「救った」他の事例を教えてください。

張:ラオスの金三角の件がある。ある日、2人の女性から「弟が金三角(のカジノ詐欺拠点)で捕まっている」「数千USドルの身代金を要求されている」との“相談”を受けた。そこで私が連絡したのが、タイの満星疊という村にある大同中学の張明光校長だ。

──国民党の落人の村にある学校ですね。張明光校長はたしか、クンサーのボディーガード部隊出身の方で、地元の名士です。

張:そうだ。さらわれた2人の救出の件は彼が動いてくれて、金三角経済特区の趙偉主席に話を通した。すると趙偉は「張校長の頼みだから」と、その2人を無償で釈放してくれた。この一件から、金三角の特殊詐欺拉致問題は張校長に頼めば解決するようになった。相談先の趙偉は金三角の治安を預かる立場でもあるし、彼本人は(直接)特殊詐欺には関わっていないから、話が通りやすいのだ。

──張安楽氏は台湾の親中国共産党派のボス、張明光校長は反共的なクンサー勢力の末裔、趙偉氏は金三角の支配者ですが、政治的立場は違っても人間関係はつながるわけですね。

張:みな顔が広い。人を介すると誰かしらとつながる世界だ。特に張明光校長は緬北孤軍の末裔だから、歴史的な縁であのへんでは顔が利くのだろう。ミャンマー東部のミャワディの拠点から人を救うときも付いてきてくれた。

「友達」が死刑になった

──他にあのあたりの地域でのお知り合いは?

張:ミャンマー北部の(コーカン軍閥の親玉だった)白所成だ。あの地域の被害者の救援は中国の公安に頼むことが多いが、白所成も頼みを聞いてくれた。それで仲良くなってね、彼が台湾に遊びに来てくれたことがある。

非常におもしろい人物でな。明朝の末期にあのあたりに逃げ込んだ兵士の末裔らしく、中国西北部訛りの言葉を喋っていた。昔気質の男で、会ったときにわしに金一封を渡そうとしてきたんだ。「いやいや、それはわしがあんたに渡すべきものだ」と言ったがね(笑)。

白所成は実にいい男だったが、軍閥内の抗争に破れて中国に引き渡され、死刑判決を受けて死んでしまった。実に残念だ。かわいそうに。

──張安楽さんは台湾で大学生だった1970年代、地元のゴロツキとの抗争で銃をぶっ放していますが、この銃は台湾にいた緬北孤軍のコミュニティから調達したといいます。コネクションは学生時代からですか?

張:いや、それはさすがに昔すぎる。わしが若い時の件とは関係がないよ。

経営者は過去を消した福建マフィア

──ミャンマー東部のミャワディには、KK園区(2025年1月、日本人の高校生が拘束されていて話題になった特殊詐欺拠点)などがあります。現地の様子はどうでしたか?

張:あそこは山の上と下で状況が違う。山の上は現地の軍閥の民主カレン仏教徒軍(※現在は分裂し、それぞれ別の名前の組織に)のナワバリだ。もっとも、仏教徒軍と言っても連中が拝んでいるのは仏様ではなく米ドルだがね。

あちらの特殊詐欺拠点はあまり知り合いがいないから、人を救出するのはすこし大変だ。タイ側の民兵によると、彼らが突入することは可能だが、死傷者が出るので1回につき2000万ドルはかかるそうだ。それでもツテをたどって数人は助けたが。

──別の軍閥が支配する、山の下のほうの特殊詐欺拠点は?

張:現地の園区もいろいろだ。管理がちゃんとしているところは、従業員(詐欺従事者)の敷地外への出入りも自由だし、仕事(詐欺)の業績が悪くても殴ったり拷問したりはしない。罰則があるくらいだ。同じ中国人や香港・台湾・マカオの人間は詐欺のターゲットにしないという内規を持つ拠点もある(※逆に言えば日本人や英語圏の人は狙っていいわけである)。

リゾート地みたいな場所もあった。レストランもなかなか質がよくて、ムスリム向けの食堂まである。マレーシアからムスリムも働きにきているからな。カラオケもあるし、ホステスの女もいる。

──ミャワディの特殊詐欺拠点はどういう連中が経営しているんでしょうか?

張:いわゆる福建幇(福建省系マフィア)、正確には福建省の龍岩市あたりの連中をよく見た。彼らの多くは、中国大陸ですねに傷があって海外に逃げた者たちだ。ミャンマーでは現地の身分を簡単に買えるので、経歴をロンダリングしてな。カンボジアのほうも、基本的には同じだ。

──台湾マフィアが関与する特殊詐欺拠点は?

張:ミャワディにはすくない。カンボジアのほうが比較的多いだろう。

日本にも魔の手が忍び寄る

特殊詐欺拠点と中華暗黒ベルト人脈について、張安楽に聞いた話は以上である。ちなみに中華暗黒ベルトの暗黒紳士では、昨年10月に国際制裁を受けたプリンス・グループ(太子集団)の陳志(今年1月に逮捕され中国に送還)も有名なのだが、張安楽いわく竹聯幇とは直接の関わりがないらしい。

カンボジアの特殊詐欺拠点については、昨年12月に福岡県の大学生が「無料の海外旅行」とのうたい文句に誘われて拉致された可能性が浮上するなど、日本でも被害者が出ている。また、中国や台湾のマフィアと結託した日本側の暴力団や半グレ組織を通じて、若者に対して闇バイト的にスカウトがおこなわれていたりもする。

昨年、日本国内における特殊詐欺(架空投資なども含む)の被害金額は、過去最多の約3241億円以上を記録した。若者の拉致や闇バイトも含めて、社会問題としての深刻さは増し続けている。中国と台湾のアウトローが支配する東南アジアの暗黒地帯の危なさが、世間で周知されることを望みたいところだ。

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