“メダル至上主義”は悪か…近年メディアが「五輪メダル予想」掲載に慎重になるワケ
連載「OGGIのオリンピックの沼にハマって」第1回
スポーツ文化・育成&総合ニュースサイト「THE ANSWER」ではミラノ・コルティナ五輪期間中、連載「OGGIのオリンピックの沼にハマって」を展開。スポーツ新聞社の記者として昭和・平成・令和と、五輪を含めスポーツを40年追い続けた「OGGI」こと荻島弘一氏が“沼”のように深いオリンピックの魅力を独自の視点で連日発信する。
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ミラノ・コルティナ冬季五輪が始まった。開会式は6日(日本時間7日未明)だったが、それに先立って競技が始まるのが最近の大会の通例。5日にはスノーボード男子ビッグエア予選が行われ、日本勢4人がそろって12人で争う決勝に進出。金メダルどころか表彰台独占まで期待させる勢いで「オリンピックムード」が高まる。
五輪開幕前になると「メダル予想」が話題になる。「スノーボードは男女とも期待できるね」とか「フィギュアの坂本は金メダルとれるかな」とか。メディアもそろって「メダル予想」をするのが常だったが、今回は意外なほどおとなしい。
近年の五輪では「メダルの数」に対して、慎重になっている感じがする。今大会を前にJOCは「過去最高水準の成績」という目標を掲げたが、具体的な数字は示していない。各競技団体とは入念なミーティングを行い、具体的な目標メダル数も共有しているはずだが、あえて表には出していない。
詳細なメダルの数をあげると「選手にプレッシャーをかけるべきではない」とか「メダルより大事なものがある」とかいう声も出る。「メダル至上主義」が、スポーツ界を取り巻く諸悪の根源のように言われることもある。
もちろん、メダルがすべてだとは言わないが、多くの選手の目標がメダルであることは間違いない。近年政府のスポーツ予算が急増した背景には「国際競技力の向上」がある。競技力は単純に五輪メダルの数だけで決まるものではないが、メダルの数ほど端的に競技力を表すものもない。
もう1つ、メダル予想には五輪という総合競技大会を見る側のガイドになるという役割がある。冬は夏ほど競技が多くないとはいえ、普段はほとんど見ない、知らない競技も多い。そこにメダル候補がいれば興味も湧くし「見てみよう」という思いにもなる。競技を知るきっかけにもなる。
新聞各紙が予想を避ける中、日刊スポーツは開幕まで10日に迫った1月27日の紙面で詳細な予想を掲載していた。金8、銀9、銅9の計26個。金3、銀7、銅8で計18個だった前回北京大会を大きく上回り史上最多になるという。競技日ごとの予想だったから、テレビ観戦には最適なガイドだ。
26個は、一見すると大盤振る舞いが過ぎるようにも思える。予想には期待が込められがちだし、選手との関係から忖度することも珍しくない。ただ、この数字は、意外と当たっているようにも思う。
日本はなぜメダル増の予想? 現実的には「ロシア不参加」の影響も
スポーツデータ企業の「グレースノート」は五輪前にメダル予想を発表する。こちらは米国の会社だから数字は冷静。そして、かなり現実に近い数字を出してくる。ミラノ大会の日本の予想は金メダル10個を含む26個。色はともかく、メダル数では18個を大きく上回るのは間違いない。
14年ソチ大会で海外での冬季五輪最多の8個を獲得して以来、18年平昌の13個、22年北京の18個と日本のメダル数は急上昇している。伝統的にメダルの多いスピードスケートやスキージャンプだけでなく、スノーボードなど新しい競技で量産していることが大きい。種目数の増加が、そのままメダル数増加につながっているのだ。
今回もスキージャンプ女子ラージヒルや、フリースタイルスキーのデュアルモーグルなど日本にメダルのチャンスがある種目が増えた。フィギュアスケート、スノーボード、スキージャンプなどではメダルの量産もありそうだ。
現実的な話をすれば、冬季大会の強豪国で北京大会でも計32個と国別でノルウェーの37個に次ぐ2番目のメダル数だったロシアの不参加(中立選手として出場する選手はいるが)も、日本のメダル数を押し上げるはずだ。
とここまで書いてきたが、冬季五輪は予想が難しいというのが定説だ。「何が起こるか分からない」のが五輪だが、冬季は夏季の何倍も分からない。雪や氷の上では、スキーやスケートの数ミリの操作ミスで転倒やバランスを崩すことも多い。気温や天候にも左右される。不確実で繊細な競技が多い。
過去の冬季五輪では、ライバルの自滅で伏兵が金メダルを獲得したり、優勝候補筆頭がまさかのミスをしたり、「世界選手権覇者は勝てない」「W杯の成績は参考にならない」と言われる種目もある。ただ、だからこそ冬季五輪は楽しめる。
五輪だからメダル予想は楽しいし、意味がある。とはいえ、予想通りにならないからこそ五輪はおもしろい。メダルを獲得しても、逃しても、そこにはスポーツの魅力が詰め込まれたドラマがある。雪と氷という不安定な足場から円広志の夢想花(古い!)のように「飛んで」「回る」17日間。沼にはまって味わいつくそうと思う。
(荻島 弘一 / Hirokazu Ogishima)
荻島 弘一
1960年生まれ。大学卒業後、日刊スポーツ新聞社に入社。スポーツ部記者としてサッカーや水泳、柔道など五輪競技を担当。同部デスク、出版社編集長を経て、06年から編集委員として現場に復帰する。山下・斉藤時代の柔道から五輪新競技のブレイキンまで、昭和、平成、令和と長年に渡って幅広くスポーツの現場を取材した。
