痛い、痛い…都会の喧騒を逃れて地方移住するも、69歳妻を襲った「まさかの異変」。3年足らずで東京に帰還したワケ

写真拡大

都会の喧騒を離れ、自然に囲まれた暮らしを求めて信州へ移住した夫婦。しかし、移住後に待っていたのは、畑が凍り、車の運転すら怖くなる冬の厳しさ。寒さは生活だけでなく、妻の体にも影響を及ぼし始めます。旅行では見えなかった“地方移住の現実”とは――。

「なめていました」─地方移住、その理想と現実

都会は便利だけれど、自然は少なく、ストレスが多すぎる。「年を取ったら、もっと静かな場所でゆっくり暮らしたい」――そんな思いを抱いたことがある人も多いのではないでしょうか。

風間義男さん(仮名・69歳)も、そんな一人。遡ること3年ほど前、長年勤めた会社を定年退職した後、妻の絵里子さん(仮名・69歳)とともに信州地方のある町へ移住しました。年金は夫婦で月21万円。余生を自然の中で穏やかに暮らしたいと考えたのです。

信州には現役時代から何度か旅行で訪れていました。夏の高原は驚くほど涼しく、東京の蒸し暑さが嘘のよう。秋は朝晩の空気の冷たさを心地よく感じたものです。ところが、移住して最初の冬。その憧れは、音を立てて崩れ始めます。

「正直、なめていました。冬の暮らしを」

初めての冬が到来。気温は氷点下が当たり前。朝起きると、購入した中古戸建ての前の畑はカチカチに。水道管が凍結しないか毎晩気が気ではありません。雪下ろし・雪かきは想像以上に重労働で、放っておけば生活道路が使えなくなります。

車の運転にも難儀。アイスバーンになった道路での運転は、吉岡さん自身は大丈夫でも、絵里子さんには難易度が高すぎました。スーパーに行くにも車が必須ですが、1人では自由に外出できない日々でした。

さらに、絵里子さんを苦しめる事態が勃発。これが夫婦に大きな決断を迫ることになりました。

痛い、痛い…苦しむ妻に下した決断

厳しい寒さは体にも影響を及ぼしました。家の中はできるだけ暖めるようにしていましたが、絵里子さんは冬が深まるにつれ関節の痛みを訴えるように。

膝や腰の痛みで夜中に目が覚め、指まで痛むように。ところが、近くに整形外科はなく、通院するにも車で片道30分以上かかります。

「旅行で来たときは、空気が綺麗、食事が美味しい。冬はスキーもできるね、で終わっていた。でも、毎日暮らすとなると別物でした。年齢的に、寒さに体を適応させるのも難しかったんです」

加えて、冬は人の気配が極端に減ります。雪に閉ざされ、外出も減り、孤独感は想像以上でした。自然に囲まれた静かな暮らしは、裏を返せば「逃げ場のない静けさ」でもあったのです。

生活費も安くなると思いきや、車は1人1台、暖房・灯油代がかさみます。野菜は新鮮で安い一方、それ以外は都内と変わらないか、むしろ高いと感じることもありました。結局、移住から3回目の冬を迎える前、夫婦の間で同じ言葉が口に出るようになりました。

「戻ろうか」

すでに都内のマンションは売却済みでしたが、それでも「ここで年を重ねるのは無理だ」と感じたのです。結果的に、移住から3年足らずで信州を離れ、再び東京での生活を選びました。

地方移住が悪いわけではない。ただ、私たちのリサーチが不足していた。甘く見すぎていました」

地方移住を考える際、自然や住居費の安さに目が向きがちです。しかし、気候、とくに冬の厳しさは、暮らしや健康、移動手段に直結します。

旅行で感じる寒さと、そこで毎日を生きる寒さは、まったくの別物です。地方で働く、地方で暮らす。 その選択を後悔しないためには、「一番厳しい季節をどう乗り切るか」を具体的に想像し、できれば実際に体験してから決断することが欠かせません。

憧れだけで移住を決めないこと。 それが、地方移住を現実的な選択にするための、何よりの第一歩なのかもしれません。