記事のポイント広告業界ではAIが中心テーマとなりつつも、企業は発言に慎重で、内実とのギャップが広がっている。AI検索企業化率が非公式に広告主と接触するなど、新興勢力による再編が水面下で進んでいる。BeRealがカンヌで広告事業をアピールし、リアル志向と安価なCPMで新たな広告主層を狙っている。
マーケティングとメディアの祭典「カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル(Cannes Lions International Festival of Creativity)」から、Digidayが最新の動向を現地よりお届けする。AIは今年のカンヌでもっとも声高に語られているテーマのひとつだ。にもかかわらず、公の場で語ろうとする者は少ない。誰もが何かしらの意見を持ちながら、その名前が発言に添えられることを避けたがる。今年のカンヌを支配するこのトピックにおいて、広告業界を揺るがしているのはAIそのものだけではない。その急速すぎる進化が、仕事の在り方やバリューチェーンの構造、そして「誰がテーブルに座り続けられるのか」という根本的な問いを突きつけていることが、静かな不安を生んでいる。クロワゼット通りで会ったある広告会社の幹部は、「AIに関するすべてのことに対して、いまは企業広報の厳しい目が光っている」と話した──ただし「オフレコで」と前置きして。こうした曖昧な公的発言と、内輪での焦燥感が、今年のAI談義の実態だ。表向きの姿勢は「慎重な楽観論」。しかしその裏では、「自分たちの仕事のどれだけが自動化可能なのか」「クライアントがそれに気づくのはいつか」といった、率直な疑問が飛び交っている。

静かに進む再編の胎動 AI企業が狙う広告市場

業界がAIにどう向き合うか、メッセージの調整に四苦八苦しているあいだにも、すでに大きな変化は進行している──しかも意外な場所で。AI企業のパープレキシティ(Perplexity)は、公式ステージには登場していないが、今年のカンヌに参加している。彼らの目的は「会議」ではなく「面談」だ。目立たぬ丘の上のヴィラで、広告主や一部の代理店と密かに顔を合わせているのは、パープレキシティの広告・ショッピング部門責任者タズ・パテル氏だ。彼の提案はざっくりとしている。「AI検索プラットフォーム上で、どんな広告を見たいか教えてほしい」という投げかけだ。しかしその意図は明確だ。パープレキシティは、サブスクリプション収入だけでなく広告費を柱とする新たなビジネス基盤を築こうとしている。「広告が彼らの主要な成長ドライバーになるまでに、あと5年くらいかかるだろう」と、ある会合に出席した広告業界関係者は語る。今週のカンヌで多く聞かれる「AIはクリエイティビティを脅かす」といった嘆きよりも、実はもっと大きな物語が静かに進行している。これは「戦争」ではなく、「秩序の再構築」だ。新旧のプラットフォームたちは、業界を焼き尽くそうとしているのではない。ただ、業界を以前ほど必要としない仕組みを構築しているにすぎない。広告主、代理店、クリエイター、アドテク企業──この変化を理解し、順応できる者だけが生き残る。そうでない者は、数サイクル前にすでに決着のついた議論をいまだに繰り返している。この「リアクティブ(受動的)」なマインドセットと、「すでに構築に着手している」勢力との間にあるギャップは、これまでになく明確になっている。そして今年のカンヌでは、その差がありありと浮き彫りになっている。

オートメーションは「脅威」ではなく「必然」

PMGやMiQのような代理店やベンダーは、カンヌの場でマーケターに新しい現実を見せようとしている。それぞれのデモが必ずしも画期的であるとは限らないが、彼らの意図は明確だ。「定型業務は自動化し、戦略領域にリソースを振り向け、高収益なポジションを取る」──それが、プラットフォームがますます主導権を握る時代において、業界が「価値を保つ」ための唯一の方法だと認識しているのだ。「いまだにAIというと『クリエイティビティ』の話ばかりが注目されがちだが、もっと大きな影響がある」と、ボーズ(Bose)のCMO兼ラグジュアリーオーディオ部門プレジデントであるジム・モリカ氏は語る。たしかに、カンヌで聞こえてくる会話は、AIによるコンテンツ生成や制作コスト削減といった表面的なトピックに集中している。しかし本質的な変化は、意思決定の仕組み、メディア配分、キャンペーンの成果を根本から変えるような「競争優位性と業務効率の獲得」にある。それは目に見えにくいが、はるかに破壊的な影響をもたらしている。そしていまだに多くの業界関係者にとって、十分に語られていない領域でもある。なぜ語られないのか? それは、この変化に向き合うことが、不都合な現実と向き合うことを意味するからかもしれない。たとえば、メディアプランニング。これまで予算とメディアオーナーのあいだに存在していたこの業務は、人脈、信頼、経験知に支えられてきた。そうした要素はいまなお重要ではあるが、AIはそれを再現、あるいは補完できる段階に来ている。

AIで「何が失われるか」から「何を築けるか」へ

とはいえ、クロワゼット通りの傍らでは、業界がようやくパニックのフェーズを脱しつつある兆しも見られた。マーケターたちのなかには、「AIに何を奪われるか」ではなく、「AIで何を創造できるか」という視点に切り替え始めている者もいる。このマインドセットの変化こそが、やがて業界全体を再構築していくことになる──ただし、その歩みは決して速くはない。「ブランドや代理店は、12カ月前に比べれば確実にAIを受け入れ、活用する方向に進んでいる」と語るのは、ソナタ・インサイツ(Sonata Insights)創業者で主席アナリストのデブラ・アホ・ウィリアムソン氏だ。「とはいえ、完全にAIで生成された広告に対しては、いまだに懐疑や不安の声が根強いのも事実だ」──セブ・ジョセフ氏

BeReal、カンヌで再浮上 「遅くて安い」ソーシャル広告の提案

「BeReal(ビーリアル)は、『今この瞬間を楽しむ』というフランス的なマインドセットのもとに設立された」と語るのは、米国マネージングディレクターのベン・ムーア氏だ。今回初めてカンヌに登場したBeRealは、広告主に対して「フィルターのかからないリアルな瞬間を共有する場」として自身のプラットフォームをアピールしている。現在、同社は一時的なユーザー数の減少を乗り越え、ようやく回復の兆しを見せている。広報担当によれば、現在の月間アクティブユーザー数(MAU)は世界全体で4000万人に達しているという。競合と比べれば規模は小さいが、ムーア氏は「CPMが5ドルと安価」である点を強調する。BeRealは、フランス発のゲーム開発会社ヴードゥー(Voodoo)による買収後、2025年4月に米国で広告事業を開始した。そのタイミングはTikTokが米国での利用禁止の危機に直面していた時期と重なる。同社は以後、Apple、リーバイス(Levi’s)、ナイキ(Nike)を含む50ブランドに向けてネイティブ広告の提供を始めた。今回ムーア氏は、BeRealのロゴ入りキャップをかぶり、トートバッグを肩にかけ、そこから取り出したブレスレットを配っていた。これは月曜夜に開催された「Bisous Bisous Club」でのBeReal主催の深夜アフターパーティ(午後10時〜午前3時)への入場パスだ。ウォルマート・コネクト(Walmart Connect)やTikTokでの経験を持つムーア氏は、アプリの新機能についても紹介した。たとえば、周囲にBeRealユーザーがいるかを可視化できる機能や、ネイティブ広告だけが他の投稿よりも鮮明に表示される設計などだ。投稿をシェアすると他のコンテンツが見られるという「報酬設計」も導入されている。同社は2025年末から2026年初頭にかけて、セルフサーブ型の広告プラットフォームを導入予定だという。「私たちは時間をかけてプロダクトをつくっている。それはユーザーを守るためでもあるし、確実に「機能する」広告商品を提供するためでもある」とムーア氏は語った。──サラ・ジャーデ(Sara Jerde)

Digiday Video Studioより現地インタビュー

カンヌ2025の3日目、DigidayはBlockboardスイートで以下の業界リーダーたちと対談を行った。

MACコスメティックスのSVP兼ゼネラルマネージャー、アイダ・ムダシル・レボワ氏

マッチングアプリ「ヒンジ(Hinge)」のCMO兼プレジデント、ジャッキー・ジャントス氏

マーズ(Mars)のグローバル・フード&ニュートリション部門CMOのマット・グラハム氏

彼らとのインタビューでは、AIに支配されつつあるマーケティング・メディア業界において「心を起点としたストーリーテリング」の重要性、ブランドのために機能するクリエイター経済の未来、情熱に突き動かされたグローバル展開、そして不安定な経済状況に対応した価格設計とマーケティング戦略について語られた。さらなるインタビューは今後も掲載予定。──Design編集長ジム・クーパー

カンヌライオンズ2025、現地からのその他ニュース

・スナップ(Snap)のアジット・モハン氏は、「パフォーマンス重視の機能を強化すれば、Snapはティア1のプラットフォームになれる可能性がある」と語った。・パネルとパーティの合間を縫って、クリエイターたちは広告主やブランドマーケター、Spotifyのようなパートナーと直接会おうとしていた。彼らは短期的な契約ではなく、長期的な関係構築を狙っている。・OMG(Omnicom Media Group)との提携により、同社クライアントはYouTube上のスポーツやエンタメ、ショッピングといった高トラフィックのライブストリームコンテンツをターゲティングできるようになった。・カンヌでは、あるテックベンダーが広告主や懐疑派を説得すべく、ブランドセーフティの改善策を提案していた。皮肉にも、そのベンダー自身が過去にブランドセーフティ問題を引き起こした張本人だという指摘もある。

現地で耳にした生の声(Overheard)

「スポーツは新たなAIだ」──スタッグウェル(Stagwell)のスポーツビーチで、炎天下の長蛇の列に並ぶ来場者の声。「どこを向いても広告業界の人間ばかりだ」──カールトンホテルのロビーで、通り抜けようとしていたフランス人観光客。「少なくとも、いま訴えられてはいないから」「この列、前からあった?」──ジャーナル・ハウスのカクテルアワーに向かう途中の女優レスリー・ジョーンズ。マルティネスホテルのエレベーター前女性:「待ってる間にひとつ質問してもいいですか?」男性:「なんでしょう?」女性:「ラテン系オーディエンスについて、どう理解されていますか?」男性:「あまり語りたくありません」「正直、今朝はちょっと酔ってたかも」「ちゃんとした食事、まだ一度もしてない気がする」「ラジャ(マスターカードCMOのラジャ・マナール氏)は、サムスンとかのCMOより、ずっと強いと思う」

本日の予定(What to do)

午前10時〜10時30分/ルミエール・シアター(パレ)「クリエイターの使命:人間の共感でテクノロジーを正当化せよ」午前10時45分〜11時15分/テラス・ステージ(テラス)「AIと人間性の交差点を探る」午後12時45分〜1時15分/ドビュッシー・シアター(パレ)「チョコレート・ガイが語る、SNSプレゼンスの築き方」
[原文:Cannes Briefing: What the ad industry isn’t saying about AI]Digiday Editors(翻訳・編集:戸田美子)