『劇場版 それでも俺は、妻としたい』©「それでも俺は、妻としたい」製作委員会

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 リアルサウンド映画部の編集スタッフが週替わりでお届けする「週末映画館でこれ観よう!」。毎週末にオススメ映画・特集上映をご紹介。今週は、妻を愛して10年目の石井が『劇場版 それでも俺は、妻としたい』をプッシュします。

参考:風間俊介&MEGUMI、『それでも俺は、妻としたい』の大胆さ語る 「ここまでさらけ出すのか」

●『劇場版 それでも俺は、妻としたい』

〈チチクリあってくれてありがとう~ チチクリあってくれてありがとう~〉

 いきなり下ネタのような一文からの開始となりましたが、これは下ネタでもなんでもありません。どぶろっくの楽曲「ずっとずっと、ありがとう。」のサビ歌詞であり、愛を噛みしめる一文なのです。字面だけを見ると危ないとしかいいようがないのですが、彼らの歌唱力と何よりもこの曲が流れるシチュエーション、『それでも俺は、妻としたい』のエンディングに重なると、涙なしには聴けません。よくもこんな名曲をこの歌詞で生み出したのかと改めて感じますが、『それでも俺は、妻としたい』を観た方ならこの思いに共感いただけるはずです。

 「それでも俺は、妻としたい」。この切実さがにじみ出るタイトルだけで喰らう人は喰らってしまうと思います。内容もある意味タイトルそのままではあり、売れない脚本家で人としてもかなり残念な夫・柳田豪太(風間俊介)が、妻・チカ(MEGUMI)にひたすら性生活の改善をお願いし続けるという物語です。2025年1月期にテレビ大阪で放送されたテレビドラマ版を再編集して繋げたのが今回の映画となります。

 私はテレビ放送時にリアタイしていたのですが、改めて劇場版を観るとより重く、深く突き刺さりました。基本的なエピソードは頭に入っていたのに、2時間の映画として1本の作品として観ると、そんじょそこらのホラー映画、サスペンス映画よりも胸が痛みました。人によっては、一切刺さらない方もいると思いますし、嫌悪感を抱く人もいると思います。あるいは、大笑いできる人もいると思います。でも、あまりに残念ながら、主人公・豪太のダメダメな部分は、私が持ち合わせている要素が多過ぎました。

 豪太は年収10万円という、まったく売れない脚本家。家事・育児をしていること、「やりたい仕事を俺はやる」というプライドのもと、バイトもしなければ、脚本家として成功を目指すという気概もありません。あるのはひたすら性欲で、ほぼ1人で家族を養っているチカの気持ちもおかいまいなしに、ひたすら求めます。ハッキリ言ってクズです。さすがに自分はここまでダメ人間ではないと思いたいところではあるのですが、豪太のプライドだけは一人前、自分が被害者ヅラするところ、ご近所さんには見栄を張るところなど、随所に思い当たることがチラホラ……。だからこそ、チカから飛んでくる言葉「本当にクズだな」「ウ◯コみたいなプライド」にグサグサです。

 しかし、それでも豪太が最後まで本当のクズ男だけにならず、この物語が夫婦の失敗を描くだけにならないのは、そこには確かに愛があるからです。チチクリあってくれてありがとうです。劇中のチカから豪太への「愛ではなくただの執着」という言葉はキツく、その線引き自体は非常に難しいところはありますが、一緒に居続けることで確かに存在する愛があるのも事実だと思います。

 本作は脚本・監督・原作を務めている足立紳の“ほぼ実話”とのことで、豪太=足立紳ということになります。「脚本家・足立紳」は紛れもなく成功者であり、国民的番組の朝ドラまで手がけているだけに、本作のその後の物語があるとするならば、豪太は成功することになります。成功することができたのは、100%チカの存在があったからです。その意味では、本作も足立紳から実際の妻への感謝のラブレターともとれなくはありません。

 とはいえ、「めでたしめでたし~」とするには、あまりにもチカに負担がかかり過ぎているし、豪太が甘やかされ過ぎてもいます。その点では、本作を通して、「イライラしかしなかった」という方もいると思います。それでも、それでも自分は本作の描いたファンタジーともいえるリアルを、自分も実体験として経験していることもあり、本作を愛さずにはいられませんでした。そして、より一層、妻を愛したいとも思いました。

 それにしても、風間俊介の演技力が恐ろし過ぎます。NHK大河ドラマ『べらぼう~蔦重栄華乃夢噺~』ではあんなにも知的なイヤな奴なのに、『監察医 朝顔』(フジテレビ系)では本当に優しいよきお父さんなのに、どうしてここまでクズ男になりきれるのでしょうか。風間俊介、そしてMEGUMIの素晴らしい演技を堪能する意味でも、『劇場版 それでも俺は、妻としたい』オススメです。

(文=石井達也)