【ゴルフ場運営最大手】田代祐子・アコーディア・ゴルフ会長「ゴルフ人口はまだまだ増やせる!」

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「コロナ禍で年配者の需要が減っても女性や若い人たちが増えた」─。このように語るのはゴルフ場運営大手のアコーディア・ゴルフ会長の田代祐子氏だ。これまで男性が接待をするというイメージが強かったゴルフ。それをカジュアルなスポーツに変えようとしている田代氏は「見方を少し変えれば、ゴルフ人口はまだまだ増やせる」と強調する。米国の大手会計事務所でキャリアをスタートさせ、米GEなどでリーダーとしての経験も積んだ田代氏が見据える同社の今後の姿とは。

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破綻したゴルフ場を買収し設立

 ─ アコーディア・ゴルフは全国170以上のゴルフ場を運営する業界最大手ですが、田代さんが同社の経営に参画した経緯から聞かせてください。

 田代 当社は2003年にゴルフ場の運営事業を開始したのですが、もともとの始まりは、1990年代の後半から預託金問題で日本のゴルフ場が破綻し始めたことにあります。そんなときに米投資会社のゴールドマン・サックスが経営難に陥ったゴルフ場を90カ所ほど買収して当社を設立しました。

 同時に、米企業再生ファンドのローンスターが同じように日本のゴルフ場を買い集めてPGMさんを設立。日本では当社とPGMさんという2つのゴルフ場グループが形成されました。どちらも設立から数年で東証一部上場企業になりました。上場を機にゴールドマン・サックスが株を手放し、大きな株主がいなくなりました。

 その後は、一般の方々や機関投資家などが株主となったことで、幅広く当社の株を保有する方たちが出てきました。そして2012年頃、アコーディアではいろいろとスキャンダルが起きるなど経営が不安定になったので、コーポレートガバナンスの強化のために社外取締役を招聘しようとなりました。そこで、女性でゴルフ業界に携わった経験があり、かつ国際ビジネスが分かる人を探しているということで、お声を掛けていただきました。

 ─ 白羽の矢が立ったのですね。来てみてどうでしたか。

 田代 私がアコーディアの社長に就任したのは4年後の16年だったのですが、12年の株主総会は大変でした。日本でも大変珍しく総会を2日間行い、PGMさんの親会社が株主提案を行い、アコーディアと対立。さらにはPGMさんが敵対的TOBを仕掛けてきました。

 結果的にこれらの提案は全て拒否され敵対的TOBは失敗に終わったのです。当時、大きな問題を色々と抱えていましたが、社外取締役だった私は、アコーディアは絶対良い会社になれるという確信を持っていました。

 ─ 田代さんがそう思った具体的な理由とは何ですか。

 田代 もともと日本のゴルフ場は絶対にビジネスモデルを変えなければならない節目を迎えていました。それをアコーディアであれば実現できると。アコーディア設立当初、アメリカンなプレースタイルや雰囲気、セルフサービスなどを導入しました。新たなサービスはアコーディアが業界でも先駆けて行っていたのです。

 この頃のスローガンは「イッツ・ア・ニューゲーム」。ゴルフをカジュアルで楽しいものにしようという意味で、もともと新しいことに挑戦するカルチャーがあったのです。日本のゴルフ業界を変えられるのはアコーディアしかない。そんな思いを最初から持っていました。




社長就任時の役割は非上場化

 ─ 16年に社長に就任したわけですが、どんな経営改革から始めたのですか。

 田代 まずは、混乱の原因となった、上場会社であるために大株主が当社の経営に関与できるという問題を解決しないと経営が安定しないと思い、非上場化するためにスポンサーを探しました。そこで手を挙げてくれたのが、ある外資系投資ファンドでした。そして私が社長に就任した翌年、非上場化しました。

 その後、経営が安定し、業績は、順調に改善しました。もちろん、コロナ禍の当初、2020年の3~5月は売り上げが激減し、会社が潰れるかもしれないというほどの危機感を持ちましたが、その年の8月からは前年以上にお客様のご利用が増えたのです。

 それも女性や若い方たちが増えました。これまではどちらかというと、年配の方たちが多かった。この層の人たちはコロナに対して慎重だったので、戻りは少なかったのですが、その減った分を埋めたのが女性と若い方たちだったのです。その後も徐々に増え続けています。

 ─ 女性が増えたことをどのように解釈していますか。

 田代 そもそも日本のゴルフ場は接待や会社の集まりといった、いわゆるビジネスの延長線で男性が多かった。しかし、ゴルフというスポーツを考えたとき、敷居を低くすれば女性も若い方も自分の人生の中のスポーツとして楽しめるのではないか。

 私自身、米国でゴルフをやっていたので、アメリカ式のシンプルかつカジュアルなゴルフ場であれば、ちょっと時間ができたからとゴルフ場へ行ったり、女性同士でゴルフを楽しむことがあってもおかしくはないと。ですから、ゴルフのあり方を変えるべきだと思っていました。

 その中で当社の強みだったのが、ゴルフ場のカジュアルさとコストパフォーマンスが良い点。自分でお金を払う場合に、やはり安くラウンドできることはとても重要な要素になります。

 ─ 敷居を下げることで女性や若者を引き付けることにつながると考えたのですね。

 田代 ええ。ですから、先ほど申し上げたように、コロナ禍でジムや屋内レジャーに行けない方たちがゴルフの練習場やゴルフ場であれば、密も避けられると考えて足を運んでくださった。しかも、プレー代は安い時期には昼食付5000円程度でできるからです。平均単価も8000~9000円ですから、とにかくリーズナブルだと。

 ─ ゴルフ場もそれぞれでグレードが違うわけですね。

 田代 はい。例えば「アコーディア・ゴルフ習志野カントリークラブ」のようなプロトーナメントで使われるコースもあります。また、顧客の需要に応じて料金を変動させるレベニューマネジメントも導入しているので、お客様の需要が高いゴルフ場のプレー代は高くなります。

 ただ、当社のゴルフ場の9割がカジュアルなゴルフ場になっており、徹底的にシンプルサービスを貫いています。ですから当社のゴルフ場に来たら基本的なことは自分でやっていただく。その代わりプレー代は安いですという仕組みなのです。

 車でお越しになったお客様には自分のバッグやクラブは自分で降ろして運んでいただく。また、当社は自動チェックインシステムを導入しているので、お客様はフロントに行かずにチェックインとアウト、更には精算もできるようになっています。



女性や若者、シニアの開拓

 ─ いろいろなアイデアや工夫が浮かんでくると。

 田代 ええ。そういうことを徹底的にやっています。他にもマーケティングではLINEなども使うことで若い方たちを取り入れています。やはり女性や若い方たちにはLINEなどのソーシャルメディアが効果的です。近年、皆さんの生活が多様化している中、どの業種でもマーケットが激変しています。それに合わせて様々な業界が変わりましたが、ゴルフ場だけがあまり変わっていないのです。

 かつては取引先のお客様をゴルフに連れていくことが普通でしたが、今は接待などができない世の中になってきています。そうすると、一般の方たちに自主的にどんどんゴルフをしていただかなければ、ゴルフ人口は増えません。そして、この一般の方たちのニーズはこれまでのお客様とは全く違うわけです。

 ─ ゴルフ場自体が変わればニーズは掘り起こせる?

 田代 はい。私もそういったところに新しいニーズがあるのではないかと、ずっと思っていました。自分のお金で1日楽しくゴルフをするというニーズは必ずあるはずだと。

 30代のサラリーマンや大学生、女性でも20代から60代の方など、いろいろな状況の消費者が、ターゲットとしてはいるわけです。そういった人たちにいかにゴルフをしてもらうか。それが今後のポイントになってくるのではないでしょうか。

 そういった新しいゴルファーを獲得するという意味でも、もともと私たちが考えていたビジネスモデルが非常にうまくマッチしたと思っているんです。

 ─ シニアも多い?

 田代 もちろんです。60代や70代のリタイア世代もコスパの良いゴルフ場を求めるでしょう。かつては会社の接待でゴルフをしていたという方も、定年退職されたら自分のお金でゴルフをするしかありません。できるだけ安くたくさんゴルフをしたいという方たちに当社のゴルフ場にもっと来ていただく。そのマーケットもあります。

 ─ ゴルフは健康というニーズにも合致しますね。

 田代 はい。ゴルフをする人の方がやらない人に比べて健康寿命が長いという調査結果もあります。週に1回、長い距離を歩いたりするからです。しかもゴルフは、どんなに歳をとっても自分のペースでできます。その意味では年配の方でも続けることができるスポーツになります。ここが他のスポーツとは違うところではないでしょうか。

 ─ 女性ならではの盛り上がり方はあるのですか。

 田代 実は女性にとっての楽しみはファッションなんです。ゴルフ場ではお年を召した方でもピンクのミニスカートも穿けます(笑)。いろいろな年代の女性たちが集まって「今日のウェアは素敵ですね」といった話をしたり、おやつを食べたり。

 彼女たちはスコアをあまり気にしません。女性は競争したいわけではないのです。むしろ皆で一緒に楽しく1日を過ごし、「今日は楽しかった」という気持ちになれれば良いのです。若者たちも互いにおしゃべりしたり、ワイワイと遊ぶという感覚でゴルフをしています。



「日本一女性にやさしいゴルフ場」

 ─ 生き方・働き方改革に伴いゴルフライフも変わってきたわけですね。

 田代 そう思います。私はいろいろな楽しみ方があって良いと思うのです。人に迷惑をかけないことだけがポイントで。あとは自分たちで、どんな楽しみ方をしても構わない。それをゴルフ場がうまくサポートしてあげればお客様も増えます。

 例えば、2019年に千葉県の「四街道ゴルフ倶楽部」をリニューアルしたのですが、コンセプトは「日本一女性にやさしいゴルフ場」。当初は男性社員が考えたのですが、全然女性向ではないよと。そこで女性ゴルファーの生の声を聞きました。


「日本一女性にやさしいゴルフ場」をコンセプトにする「四街道ゴルフ倶楽部」

 すると、女性視点で様々なニーズが出てきました。それを基に、お風呂場の化粧台をホテルのような本格的なものにし、ヘアドライヤーもダイソン製にしました。ヘアドライヤーが女性にとっては大事だという感覚は男性では分かりませんからね。

 現在でも、女性従業員を中心に、女性のニーズに合った改善を積み重ねています。今では同ゴルフ場の女性比率は25~30%になりました。女性が来れば男性もついてきますからね(笑)。このように見方を少し変えれば、ゴルフ人口はまだまだ増やせる。そういう意味では遣り甲斐がありますね。(次回に続く)