(左から)「メルシーボークー、」「ネ・ネット」2020年秋冬コレクションより

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 エイ・ネットが、2020年秋冬シーズンをもって「メルシーボークー、(mercibeaucoup,)」と「ネ・ネット(Né-net)」の2事業を休止する。ネ・ネットの休止に伴い、ブランドから派生した猫のキャラクター「にゃー」の展開も終了する。

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 メルシーボークー、は、デザイナー宇津木えりが立ち上げたブランドで、2006-07年秋冬シーズンにデビュー。「きちんとしているけど、ちょっと笑える。主張はあるけど、気どっていない。そんな、遊び感のある、きれいな服。」というブランドコンセプトのもと、ポップで遊び心のあるデザインを提案してきた。昨年10月には東京ファッションウィークで約4年ぶりにショーを開催。ショーで発表した2020年春夏コレクションは宇津木にとっての「挑戦」と位置付けていたが、今年7月31日をもってブランドから離れたことを自身のインスタグラムで発表し、ブランドの動向に注目が集まっていた。

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 ネ・ネットは高島一精が2005年に設立。ブランド名は、立ち上げ当時生まれたばかりだった高島の娘の名前や、フランス語で「うまれる」を意味する「Né」、高島の「T」などを組み合わせた造語で、性別や年齢を問わず「『いま』を楽しむ人の日常着」を提案してきた。

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 ネ・ネットから2008年に誕生したにゃーは、オスの黒猫をモチーフにしたキャラクターで、頭が取れるなどシュールなイラストが人気。ブランドから派生する形で単独店をオープンしたほか、高島の出身地である熊本県のPRマスコットキャラクターくまモンやハローキティといったキャラクターから伝統工芸まで様々なコラボレーションや、LINEスタンプの配信など、幅広く展開してきた。

>>2018年には"にゃーとおばけが融合"した「ゴーストバスターズ」とのコラボシリーズが登場

 大鉈を振るう形となった2事業の事業休止は、事業再編の一環から決定。エイ・ネットの大滝雄一郎代表によると、新型コロナウイルスの感染拡大により経営環境が大きく変化し、改革が急務となったという。両事業で出店している国内23店舗の営業およびECでの販売は来年1月末までに順次終了。事業休止に伴い、エイ・ネットはネ・ネットの高島との業務契約を7月末までに終了している。

 ネ・ネットは15年、メルシーボークー、は14年にわたり歴史を築き、ブランドの強みである独自性のあるデザインでファンを獲得してきたが、大滝代表は「現代は"自己主張としての服"というより、心地よさや自然体を服に求める価値観が広がっており、時代とのギャップが生まれていたことも事実」と説明。同社からは「ズッカ(ZUCCa)」を立ち上げた小野塚秋良や「スナオクワハラ(SUNAOKUWAHARA)」のデザイナー桑原直らに続き、宇津木と高島が去ることとなり看板デザイナーの退社が続いているほか、2019年には「ツモリチサト(TSUMORI CHISATO)」の事業を終了している(ブランドはその後、津森千里のデザイン事務所T.Cによって継続)。大滝代表は今回休止する2事業について「私自身もブランドへの思い入れがある」と苦渋の決断だったことを明かし、「企業としては今が一番重要な時期。事業再編もスピーディーに実行していかなければという危機感から判断した」と述べた。

>>エイ・ネットは今後、「ズッカ」と「プランテーション」を強化。その詳細は?

 再編によってエイ・ネットに残るのは、「ズッカ」「プランテーション(Plantation)」「タクタク(tac:tac)」の3事業。特に、コロナ禍でも売上が堅調だったというズッカとプランテーションを強化していく。

 ズッカに関しては近年、シューズやバッグといった小物を戦略的に充実させており、売上構成比率は約30%と1年前から2倍に伸長。ブランドのボリュームゾーンは40歳前後だが、この施策により30歳前後の顧客が増え、ブランド全体の活性化にもつながったという。アパレルブランドという位置付けから変更はないが、引き続き新規顧客の開拓を視野に、小物の構成比率を拡大していく考えだ。

 プランテーションは、天然繊維を中心に独自のテキスタイルと着心地を強みとする。ブランドのものづくりや商品ラインナップがワンマイル中心のライフスタイルにマッチしたことが好調の背景にあり、横方向のシボが特徴の楊柳のシリーズ「ヨーリュウ(YOORYUU)」が特に人気だという。エイ・ネットの事業再編後もブランドの路線は変えず、引き続きものづくりを強化していく。

 また今後に向けて、自社ECサイト「ユーモア(HUMOR)」のリニューアルを計画。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う休業で店頭売上への打撃はあったものの、ECの売上は前年対比で4〜5月は約300%、6月以降も約200%の伸び率を記録したという。OMO(Online Merges with Offline=オンラインとオフラインの融合)強化の一環で実施するリニューアルの具体的な施策としては、商品カタログとしてではなく各ブランドのビハインドデザインの発信を強化し、商品への理解を深めるほか、同社の強みであるショップスタッフの着こなしや提案力を店頭だけではなくオンラインでも表現していく。

 大滝氏はエイ・ネットの代表に就任してから今年7月で5年目を迎えた。新型コロナウイルスの感染拡大は大きなダメージとなったが、「コロナ以前の経営課題が明確化された。急速に変化していく顧客ニーズに応え、ものづくりとビジネスを共創していくことが生き残っていくために必要」と捉えており、顧客情報や在庫の一元化などインフラ整備に加え、アトリエから物流、スタジオまで全職種を一社屋に集約することも検討しているという。大滝代表は「業界全体が大変な状態にあるが、今こそが改革のとき。半年から1年にかけて、企業そのものを書き換えていくという姿勢で臨んでいく」と述べた。

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