「いまテレビは、新型コロナウイルスのニュース一色。次々と有名人が感染していくこともあって、一緒にテレビを見ていた子どもは『コロナになったらどうしよう』『かかったら死んじゃう?』と過剰に不安がっています」(小学生の父親)

【画像】緊急事態に「親が使ってはいけない言葉」は2つある

 新型コロナウイルスの感染拡大をめぐる報道が過熱する中で、子どもたちへの影響が懸念されている。感染者数と死者数が連日増え続けるなど、大人にも心理的負担が大きい情報が繰り返し報じられる状況にストレスを抱える子どもも出てきている。

 多くの公立学校で一斉休校が延長されるなど、教育環境も先行きの見えない今、子どもたちをどう守ればいいのか。筑波大学教授で、子ども支援学が専門の徳田克己氏に聞いた。


小学校の入学式でも消毒などの対策がとられる事態に(4月4日、大阪) ©︎共同通信社

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ニュースの影響でパニックを起こす子も

 いま盛んに報じられている新型コロナウイルスについてのニュースは、子どもたちに対しても、大きな影響が及んでいると考えています。

 近年もニュースが子どもの精神状態に影響を与える事例がいくつもありました。アメリカの同時多発テロをはじめ、阪神淡路大震災、東日本大震災のときには、悲惨な映像がテレビにあふれました。

 高速道路が倒れ、ビルや家が崩れる様子は、小さな子どもの目でもはっきりと「日常とは違う」とわかる。特に、東日本大震災のときは津波の映像が衝撃的で、被災地以外でも子どもたちへの心理的な影響が長引きました。夜泣きや夜驚症(睡眠から突然起きて叫ぶなど怖がる症状)、チックなどの症状が現れて、治療を受けるというケースが多くありました。

 私がカウンセリングを担当した例では、東日本大震災から半年くらいたった後、大雨が降った際に排水溝に流れ込む水を見て津波の映像を思い出し、パニックをおこした茨城の子どもがいました。それだけニュース映像の影響力は大きいのです。

 今回の新型コロナウイルスのニュースの場合、災害やテロと違って、ウイルスの感染拡大は目に見えません。報道で流れる映像も、人のいない街の風景、病院の様子などで、映像によるフラッシュバックの心配はありません。

 とはいえ、報道に触れ続けることの心理的な負担は大きいと思います。アメリカやイギリスで10代の子どもが新型コロナウイルスに感染して亡くなったことが伝えられれば、我が事として考えてしまうでしょう。小学生くらいになれば、街に人がいない意味や人が亡くなることの意味がわかるようになる。「コロナにかかったら死んでしまうかも」と怯える子どもが出てくるのも当然でしょう。

買い占めに走る「親の姿」を見ている

 幼児の場合、新型コロナウイルスのニュースはグラフや数字が多く、簡単には理解できるものではありません。でも、ニュースを見ている大人たちの様子を見て「何か大変なことになっている」ことはわかる。トイレットペーパーを殺気だって買い占める親の姿を見たら、子どもがどう思うのか。いま一度考え、落ち着いて欲しい。

 今回は「映像による恐怖」がない分、親の言葉の影響が大きくなっています。連日伝えられるショッキングなニュースに、親の方がパニックになってしまい、興奮した親の言葉が子どもを傷つける恐れがあります。

 東日本大震災のときも、無邪気に津波の真似事をして遊んでいた子どもたちに、親が「津波が来たら家も流れてメチャクチャになるのよ」と叱って、心理的に悪影響を及ぼしたケースがありました。それが事実だったとしても、子どもにとっては一種の脅しのように聞こえてしまうのです。

 親同士の会話にも注意が必要です。家庭で咳をした父親に、母親が「パパ、コロナじゃないの? いやだ、こっちこないでよ」と言ったとします。大人同士であれば、それが他愛もない冗談で済むでしょう。

 でも、それを聞いた子どもたちはどう思うのか。次の日学校で、咳をした友達に対して「お前コロナだ、こっちくんな」と言うようになる。子どもたちは日常の出来事を、自然と遊びのなかに取り入れていきますから。

緊急事態だからこそ、使ってはいけない言葉とは?

 そして、このような緊急事態だからこそ、子どもに対して「『禁止』や『脅し』のような言葉」を使ってはいけません。

 子どもに何か伝えるとき、親の方も不安ですから、つい「エレベータのボタンを触っちゃだめだよ」「手を洗わないとコロナになっちゃうよ」と、禁止や脅しのような言い方で話してしまう。しかしこれでは、ただでさえ報道を見て過敏になっている子どもを、いたずらに怖がらせるだけです。

 また、多くの親が子どもを心配するあまり、「家から出るな」などと注意するような口調で声をかけてしまいます。子どもたちはただでさえストレス下にあるのに、加えてずっと叱られている状態になってしまいます。

 感染予防のために何かをさせたい時には、具体的にどうするのかをはっきりと提示することが大切です。「階段の手すりは汚れていることがあるから、後で手を洗おうね」のように「AだからBしようね」と教えるのです。

「親の言葉」は氾濫するニュースに負けない

 いま日本中の親が、毎日子どもに「手を洗いなさい」と繰り返していることでしょう。でも、なかなか言うことを聞かないかもしれません。それなら、親も一緒に手を洗い、一緒にできたら子どもの目を見てちゃんと褒めてやることです。それが子どもの精神安定の面でも重要になってきます。

 もし、すでに「禁止」や「脅し」のような言葉を繰り返し使ってしまっているなら、その言葉を「上書き」していくことが重要です。

 怖がる小さな子どもには「パパはこういうふうに手をちゃんと洗えば、ほとんどコロナにはかからないって聞いたんだ。だから一緒に洗おう」と言葉をかけ、一緒に手を洗う。そして子どもがちゃんと洗えたら「よく洗えたね、きっとこれで大丈夫だよ」と安心させる言葉をかけてあげるのです。

 たくさんのニュースや情報が巷に氾濫している今だからこそ、一番子どもの近くにいる親の言葉の力に気付くべきです。親の何気ない一言が子どもの遊びに影響しているのと同様に、その力はきっと子どもの心身を守ることにも役立ちます。

(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))