ソフトバンク・ドコモ・KDDI、「5G」競う
さらに、もう一つ重要な技術がある。NTTが開発した伝送技術「Kirari!(キラリ)」だ。映像の同期技術を用いて、異なる地点の3人の映像を同じタイミングで再生した。5Gとキラリの映像表現を組み合わせることで、その場の空間を丸ごと、リアルタイムに配信できる。
スポーツでも新たな観戦スタイルを提案する。20年の東京五輪・パラリンピックの開幕まで1000日を切る中、ドコモはパラリンピック種目の一つである「車いすフェンシング」の試合で実証を行った。
競技場のようにインターネット回線が整っていない場所では、5Gでなければ大容量コンテンツを送ることはできない。場所を選ばずに新たな鑑賞・観戦スタイルで楽しめるのは5Gならではだ。
吉沢和弘社長は5Gを使ったライブ映像配信の商用化について「将来はスポーツや芝居のライブ映像を複数の会場に同時配信するサービスを検討する。入場料は(競技場だけでなく)複数の会場からもらえるようにする」と話す。
スポーツの新しい“個人視点”
KDDIはスポーツ中継などの映像の視点を、個人が自由に変えながら楽しめる技術の実用化に力を注ぐ。スマホの普及や動画配信サービスの拡大により、スポーツ中継は自由な時間や場所で楽しめる時代に入った。KDDIは次の価値として「視点の自由」を提案。最新技術と5Gを組み合わせて実現しようとしている。
昨秋開催された「CEATEC(シーテック)ジャパン2017」。会場の一角にはクライミングウォールが設置され、壁をよじ登るクライマーを16台のカメラが取り囲んだ。モニターには、クライマーを捉えた映像をリアルタイムに配信。コントローラーの操作により自由に視点を変更でき、カメラのない角度からの映像も映し出した―。
KDDI総合研究所(埼玉県ふじみ野市)が開発した「自由視点リアルタイム映像システム」で実現した映像だ。同システムは複数のカメラ映像を基に被写体の3次元(3D)映像を作成。別途作成した背景映像と組み合わせ、自由視点のリアルタイム映像を実現する。
これまでは被写体の抽出に時間がかかり、映像の即時生成は難しかった。同社はカメラの台数の増強や、人工知能(AI)を活用した被写体抽出技術の導入などで可能にした。
ただ、同システムは被写体が複数になると映像生成に一定の時間が必要になる。このため、サッカーなどの団体競技はリアルタイムの映像生成が難しい。超臨場感通信グループの内藤整リーダーは「開発したシステムを多様な現場で検証し、技術開発を積み重ねて(団体競技における自由視点のリアルタイム映像を)19年頃までに実現したい」と力を込める。
また、KDDIは自由視点映像の普及に向けて他社の技術も取り込む。昨夏には米国の「4DREPLAY」に出資した。同社のシステムは30―50台のカメラで撮影した映像をつなぎ合わせ、自由視点映像を生成する。KDDI総研のシステムに比べ、視聴できる映像はカメラ視点のみと自由度は低いが、団体競技でも5秒程度で映像を生成できる。KDDIはサービスの充実に向け、この二つの技術を連携できないか模索している。
KDDIが自由視点に力を注ぐ理由は、映像サービスが新たな価値になると見込むからだ。バリュー事業企画本部戦略推進部サービス推進グループの松村敏幸マネージャーは「今まで視聴できなかった視点の映像など顧客に新しい体験を提供できる」と強調する。
特に5Gとの融合に大きな期待を寄せる。例えば競技場でサッカーの試合を観戦しながら、手元のモバイル端末では別の視点の映像を楽しむといった体験が実現する。リアルタイムの自由視点映像をモバイル端末に配信する場合、複数のカメラ映像の配信が必要になる。容量が大きいため既存の4Gでは耐えられないが、5Gであれば可能になるという。
一方、こうした映像の商用化には需要の喚起が欠かせない。そこでKDDIは協業先のサイトで、自由視点技術を活用したサッカーの試合映像などを積極的に配信し視聴を促している。5Gが整い始める20年代に向け、消費者の自由視点映像に対する期待や関心を高めていく。
日刊工業新聞2018年1月1日
※内容は当時のもの
