タイミー集団訴訟で見えた「スポットワーク」の限界、それでも企業が活用をやめてはいけない本当の理由

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かつてスポットワークといえば、学生向けの単発アルバイト紹介というイメージが強いサービスでした。しかし、現在は副業したい社会人や定年後も働き続けたいシニア層など、利用者層のバリエーションは大きく変化しています。
職場にとっては迅速に必要な人員を確保できる利便性、働き手にとっては空いた時間を活用して柔軟に働けるといった魅力があり、すでに労働市場の一角を占める存在です。登録者数が1000万人を優に超えるスポットワーク事業者もあり、今後も広がっていきそうな気配があります。
一方で、事業の急激な拡大とともにさまざまな課題も指摘されるようになってきています。直近では、休業手当を巡り、業界大手のタイミーに対して集団訴訟が提起されたことが話題になりました。
多くの人がサービスの存在を認知しニーズを感じているからこそ、世間から注目を浴びているとも言えます。課題を指摘されながらも成長を続けるスポットワークに秘められた、可能性と限界について考えてみたいと思います。
タイミー訴訟と注目されるプラットフォーマーの法的責任
まず、タイミーに対する集団訴訟については、休業手当支払いの責任所在を踏まえると、訴える相手が違うようにも感じられます。なぜなら、スポットワーク事業者は雇用主ではなく、あくまで求職者と求人企業を仲介するプラットフォーマーに過ぎないからです。
訴訟ではプラットフォーマーとして、出勤するまで雇用契約が成立しないといった見解を示していたことの影響力の強さや、給与の支払い代行まで担っていたことなども考慮して、スポットワーク事業者にどこまで責任が問われることになるのかが注目されます。

表:共同通信社
ただ、原則として雇用責任を負っているのは採用した会社側です。労働者派遣のようにサービスを提供している派遣事業者側が雇用責任を負うわけではありません。また、求人企業側に給与+交通費の30%など一定の手数料もかかります。それでも会社がスポットワークを利用したいと考える大きな理由の一つは、その利便性の高さです。
急な欠員が出た場合でも求人を出せば短時間で穴埋めできたりしますし、手続きも基本的にネット上で完結し、給与の支払いも代行してもらえます。極めて使い勝手の良い採用ツールに違いありません。
その上、一時は掲載ミスなどでも就労開始時刻の24時間前以前であれば休業手当なしでキャンセルできると認識されていました。後に業界団体が認識を訂正したものの、他にも闇バイトの求人掲載疑惑や求職者への不当な利用制限が問題視されるなど、利便性を追求しようとするスポットワーク事業者のスタンスには行き過ぎを感じたケースも見られます。
現在は後手に回っている印象を受けますが、今後行政の指導やルール整備が進められていくかもしれません。これまで度々勇み足が見られたスポットワークの利便性追求ですが、限界が見えつつあるということです。
雇用のミスマッチを防ぐ「お試し就労」の価値
しかしながら、これらの法的論点や事業スタンス上の課題があるからといって、スポットワークの価値そのものが失われるわけではありません。むしろ、ルール整備を前提にすれば、会社にとってスポットワークには単に便利な採用ツールという位置づけで収まらない、秘められた可能性さえ眠っています。大きく3点指摘したいと思います。
まず、人材採用時のミスマッチ防止です。
通常、正社員など長期雇用を前提とした人材を採用する会社は書類選考だけでなく面接を行います。しかし、面接だけでは見抜けない部分も少なくありません。中には、面接対応は非常にうまいものの、入社後の働きぶりに問題がある“面接番長”もいたりします。
実際に働いてみると印象が変わって「採用に失敗した」と感じても、会社は簡単に解雇することなどできません。しかし、採用前にスポットワークを通じて仕事をしてもらえば、働きぶりを直接確認できます。たとえ1日でも、30分や1時間程度の面接だけで判断するよりはるかに精緻な選考が可能になります。
同じことは、働き手側にも当てはまります。実際に働いてみなければ分からないことは、数多くあるからです。
事前にスポットワークを通じて仕事の現場を経験してみれば、職場の雰囲気や人間関係、業務の進め方、会社のスタンスなど「想像と違った」といったミスマッチを回避できるかもしれません。逆に、関心を持てなかった仕事の思いがけない魅力に気づいて、想定外の就職につながることもありえます。
「実務経験」という壁を突破するリスキリングの新潮流
次に、実務経験を積む機会を提供できることです。
例えば、簿記やウェブ、AIなどの知識は座学でも学ぶことができます。しかし、実務で技能を使った経験がなければ、会社から戦力として見なされにくいのが実情です。資格を取得できたとしても、いざ採用となれば実務経験という壁にぶつかります。
その点、スポットワークの仕組みを利用して、短期間でも座学で得た知識を使う仕事に携われば、十分とはいえないまでも実務経験がゼロではなくなり就職活動においてプラスとなります。会社が求めているのは知識そのものより、知識を用いて仕事の成果につなげる実務能力に他ならないからです。
これまで経済産業省などがリスキリング支援を行ってきましたが、座学とキャリア相談が中心で、最も肝心な実務経験を積む機会は十分に提供されていません。
今後はAI・半導体などの「戦略17分野」の人材育成を目的とする省庁横断の会議体を内閣官房に設置すると報じられていますが、座学一辺倒の仕組みになってしまうと、戦力確保を促す取り組みとして機能するか疑問です。
スポットワークに限らず、派遣社員から直接雇用へと切り替える紹介予定派遣のような仕組みなどをうまく活用して実務経験を積む機会を提供できれば、リスキリングや会社の垣根を越えた労働移動は実現しやすくなります。
「ジョブ・カービング」がもたらす組織の解像度向上
最後3つ目は、業務切り出しに付随する価値です。
スポットワークの求人を出すには、未経験者でもすぐに戦力化できるよう「ジョブ・カービング(Job Carving)」などと呼ばれる業務切り出しや研修体制の整備などが必要になります。そのためには、まず仕事を細かくタスク分解し、業務の詳細がくっきり見える状態にしなければなりません。
この取り組みを会社内に存在するあらゆる仕事に対して実施すれば、スポットワークで対応できる業務を切り出して人員確保しやすくなるだけではなく、社内業務の全体を把握する際の解像度が格段に上がります。業務の性質とは、実に多種多様なものです。
飲食店で食器を洗うといった業務であれば、社会に出て働いた経験がほとんどない人であってもどんなことをするのか概ねイメージできます。事前に決められた手順や注意事項などをレクチャーすれば、特別な知識はなくてもすぐ業務に入れるでしょう。
一方、法人相手に営業電話をかけてアポイントを取得するような業務だと、相応の社会人経験があるか、しっかりとした研修を受けなければ務まりません。少なくとも最低限のビジネスマナーは必要ですし、会社や商品の知識なども求められます。
しかしながら、経験や知識が必要な業務でも、実力が伴っている働き手であれば週5日フルタイム勤務でなく短時間勤務や副業といった形で、求める成果を出せる可能性は十分にあります。
営業アポイント業務で実績がある人なら、「今月中に10件獲得する」といった形で目標と納期を設定して業務進行を任せることで、週3日や1日5時間などでも勘所を押さえて活動し、求める成果を出してもらうイメージです。
週5日フルタイム勤務という硬直的な前提があると、高い技能を持つ副業人材や主婦層、シニア層などを戦力化しづらくなります。鍵を握るのは、精密に分解された業務整理です。「どの仕事なら短時間化できるのか」「どの業務なら柔軟な働き方でも成果を出せるのか」などを明確にすることは、多様な働き手が活躍しやすい組織構築に欠かせません。
また、社内業務の解像度が上がれば、会社として強化しなければならない技能・機能もタスク単位で明確になります。「営業力を高める」といったざっくりした括りではなく、「AI活用を業績につなげるコンサルティング能力を高める」など、より具体的なイメージを持った上で人材の能力開発に投資することは、人的資本経営の観点においても重要です。
社会インフラとしてのスポットワークの未来
冒頭で示したように、スポットワークはさまざまな課題が指摘されています。ルール整備が不十分なだけに、これからもトラブルが起きる可能性は否定できませんし、利便性の追求には限界があります。
しかし、先手を打って課題改善に努め、規制強化されるような事態を避けられれば、スポットワークはこれからも便利なサービスであり続けるはずです。
日本では、同じ日雇い仕事を紹介するサービスでも日雇い派遣については労働者派遣法によって原則禁止となっています。一方、求人企業と働き手が直接雇用契約を結ぶスポットワークは合法と認められているだけに、今後も広がって社会インフラの一つとして定着していくことは十分考えられます。
スポットワークサービスが持つ機能の有用性は、単発人員確保のツールとしての便利さだけではありません。採用のミスマッチ防止、実務経験機会の提供、業務切り出しによる柔軟な働き方や効果的な人的資本経営の実現など、もっと幅広い可能性を秘めています。
目先の利便性だけにとらわれず、スポットワークが有する価値を掘り下げてうまく機能を生かすことができれば、働き方や組織運営の未来を変えていく可能性を秘めたサービスとさえ言えるのではないでしょうか。
筆者:川上 敬太郎
