高校生の子に「罰としてスマホやゲームを取り上げて」…「不登校ビジネス」に救いを求めた親が見たもの
新学期が始まって1カ月ほど経つ5月は、子どもにとって心や体の疲れが出やすい時期だ。新しい環境に慣れようと頑張ってきた反動で、ゴールデンウィーク明けをきっかけに学校に行けなくなる子どもも少なくない。だるさややる気が出ないといった状態が続くこともある。
こうした状況は、今では特別なことではない。文部科学省の調査では2024年度に不登校となった小中学生は35万3970人と過去最多になり、12年連続で増えている。
このような親子の悩みは、ドラマの中でも描かれている。4月に始まった『タツキ先生は甘すぎる!』(日本テレビ系)第4話では、タツキ先生(町田啓太)の過去が描かれ話題となった。ドラマでは、「プログラムをきちんと受ければ3〜4週間で学校に行けるようになる」と説明され、スマホやゲームなどのデジタル機器を取り上げたうえで、生活リズムを整えることで学校復帰を目指すサポートが描かれている。しかしその方法は、学校に行けない息子・蒼空(山岸想)を逆に追い詰めてしまう。
「どうしたら学校に行けるようになるのか」と悩む親は多い。そうした親子に40年にわたり寄り添ってきたのが相談員の池添素さんだ。ジャーナリストの島沢優子さんが池添さんに丁寧に取材を重ねた書籍『不登校から人生を拓く――4000組の親子に寄り添った相談員・池添素の「信じ抜く力」』(講談社)が、2025年9月に発売され、発売から8カ月経った今もAmazonでベストセラー1位をキープしている。
「これをやれば学校に戻れる」といったサポートサービスに、すがるような思いで頼る親も少なくない。この記事では、島沢さんが実際に不登校の子どもに悩み、こうしたサポートサービスを利用した親に取材した。ここからは、島沢さんによる寄稿をお届けする。
【注】本記事は、取材協力者のプライバシーに配慮し当事者の了解を得たうえで部分的な脚色を施しています。
GW明け、「もう二度と学校には行かない」
「不登校」の対義的な言葉のひとつに「再登校」がある。学校に行けなくなった子どもが再び学校に通い始めることを指し、教室復帰だけでなく別室登校や段階的な登校再開も含めて用いられる。子どもが不登校になった親のほとんどが望む姿だろう。
大手企業に勤務するハジメさん(仮名)も同じだった。
ある年のこと。小中学時代は休まず通っていた娘が不登校になった。様々な苦労をして第一志望の高校に合格したが、ゴールデンウィーク中に「勉強が難しい」「英語がついていけない」「課題が多すぎる」とつらそうだった。2日間の中日(なかび)に登校する際「なんで学校行かなきゃいけないの」と不満そうだった。休み明け1週間ほど経った月曜日、ベッドから出られなくなった。
ハジメさんも、妻も「休んでいいよ」と子どもの気持ちを尊重した。なぜなら娘が中学3年の受験期に子育てで大きな失敗があったからだ。大手の集団塾に入れたら勉強に挫折。塾に行かず、勉強しなくなったため、妻がWi-Fiのルーターを壊したり、娘のパソコンを隠したりした。娘は仕方なく以前とは違う個別指導の塾に行き始めたが、他にも様々な母親とのもめごとがあり関係性は決して良くなかった。そのような経緯もあって反省した妻はそれ以降、強く言わなくなったのだ。
月、火曜と2日休んで、3日目に登校した。ああ良かったと夫婦で喜んだのも束の間、学校から帰ると「もう二度と学校には行かない」とつぶやいた。LINEでは待っているからがんばれと言ってくれた友達が話しかけてくれなかった、体育の先生に怒られたことなどが理由だった。本人からすれば勇気を振り絞って登校したのに、いいことは何もないと落胆したようだった。それが最後になった。
ハジメさん夫婦は「好きなだけ休めば」とここでも理解を示した。ところが、ひと月経っても行こうとしない。休んでよいと言ったものの「このままずっと引きこもりになってしまうのでは」と夫婦は不安を募らせる。
「〇日で再登校できます」
7月の声が聞こえたある日。妻が「このまま1年も2年も引きこもられたらどうしよう。もう耐えられない」と言い始めた。そこでハジメさんは不登校について調べ始めると「〇日で再登校できます」と謳うサイトが現れた。胡散臭いなと感じたハジメさんは「こういう話もあるみたいだよ」と、情報共有のつもりで妻に伝えた。
サイトに紹介されていた本を妻はむさぼるように読み始めた。こうすれば再び登校できるという方法が書かれた本を読み、成功事例として子どもが学校復帰した保護者のインタビュー動画が数多く掲載されたサイトを観た妻は「これをやりたい」と言う。業者側からの提案は以下のルールを設けることだった。
★徹底的にデジタル機器を子どもの生活から排除すること。スマートフォン、ゲーム、パソコン、テレビも全部撤去すること。
★ただしやるべきことをやれば、それらは使ってもいい。だが、できなかった日は使用できない。
「うちの子の生きがいは当時アニメやゲームだったので、取り上げたら逆効果になるんじゃないかとちょっと反対はしたのですが、妻のほうも諦めなくて」(ハジメさん)
結局妻と一緒にオンラインで面談を受けた。先方から「デジタルは禁止しなくても(再登校)できるかもしれませんねっていうような話だったので、ちょっと僕も揺れてしまって、じゃあやろうかという話になった」
一度面談すると、他にも様々な動画や資料を閲覧できるようになった。ハジメさんは「わが家はこんなふうにして学校行けましたみたいな動画がたくさんあって6本ぐらいは観ました」と明かす。インタビュー動画は親らしき人物のみで、当事者である子どもが書いたとされる親宛の手紙やカードの文言を読んだ。一字一句同じではないが、ハジメさんの記憶ではこのように書かれていたそうだ。
「お父さん、お母さん、ありがとう」
「学校に行けなかったけど、今こうやって学校で生徒会長をやっていて、充実しています。毎日が楽しいです」
ハジメさんは「うちの子もと、わずかですがやはり希望を持ちました」と吐露する。すぐに支援業者と契約を交わした。1家庭にひとり担当者がつくようで、その人に逐一メールで相談するやり方だ。金額は約30回のサポートでおよそ50万円だった。
家庭に持ち込まれた様々な「ルール」
当初は主に妻が相談してはアドバイスを受けた。業者からメールで言われた「ルール」は以下のようなものだ。
★夏休み期間中は生活リズムを整え、学校に通っていたときと同じ時間に起床し、同じ時間に就寝すること。守れなければ、デジタル機器は撤去。
★夏休みが終わるまでに、今後の進路を決めること。(元の学校に戻る・通信制高校に通う・就職する、など)
★2学期以降は、決めた進路に沿って行動すること。登校(または通学・就労など)ができない日がある場合はデジタル機器を撤去。
これらのルールは、一見すると子どもへの威嚇に映る。しかし業者は直接子どもとリアルでもオンラインでも面接はしないため、親に対する威嚇にならないだろうか。保護者に「こうしなさい」と命じ、子どもができなかったらデジタル撤去という罰を与えさせる。ハジメさんの妻が塾に行かない娘のパソコンを隠したり、Wi-Fi機器を壊したことと同様の子育て観ではないか。ハジメさんも「そこのところの価値観が合うので飛びついてしまった。そして私もそれを止められなかった」と声を絞り出した。
その一方で子どもに守らせるルール以外に「一日最低5回は“質のいい声掛け”をしてください」と言われた。質のいい声掛けとは、つまりは褒めることだった。褒めるのは自己肯定感を上げるためですという説明を受けたが、子どもがやるべきことをやっていないのに何か要求してきたら「毅然とした態度で断ってください」と言う。そして、子どもが暴れたときは「躊躇せずに警察を呼びましょう」。これもルールのひとつだった。
今日は何回褒めましたか? どんな褒め方をしましたか? それに対して子どもはどういう表情をしましたか? わがままを言ってきたことはどんなものですか? 暴力はありましたか? そんな質問に答えるメールを妻が送ると「この場面ではこう褒めてくださいとアドバイス的なものが送られてきました」(ハジメさん)。
では、ルールを課された娘はどんな反応を見せたのだろうか。
最初に「こういうルールでやるからと紙を見せて宣言してください」と言われたため、その通りにしたら、娘は目を吊り上げ紙をビリビリに破った。破られてもいいように何枚も用意しておくよう言われていたため、破られるたびに次の紙を出し、ルールの説明を繰り返した。
学校に戻るか、通信制高校に行くか、就職するかを聞くと「なぜそんなことを決めなきゃいけないの」と激高した。部屋にこもり、両親と口をきかない生活が始まった。
◇後編【高校生の子が「もう死んでやる」警察が家に…50万円超 の「不登校ビジネス」を経て、家族がたどり着いた答え】では、不登校サポートサービスにより娘さんにどのような変化が起きたのか、そしてハジメさんが池添さんと出会ったことで起きた変化をお伝えする。
