Photo: 田中宏和

突然ですが、キーボード好きですか? 私は大好きです!

ここのところギズモード・ジャパンのスタッフも、自作キーボードとか新機軸トラックボール「Nape Pro」で盛り上がっていますし、ガジェット界隈では、自分用にカスタマイズできる入力デバイスが話題を呼んでいますね。

というわけで、“乗るぜ、このビッグウェーブ!” と、私が最近チャレンジしたのが、日常的に長文タイピングしている人のためのキーボード論理配列「薙刀式(なぎなたしき)」です。

ナニソレ?って人が大半だと思いますので、サクッと、ご紹介させてください。

日本語入力するときの “常識” って?

Photo: 田中宏和
よくあるキーボードの配列(文字の並び)はこんな感じ。

最近では音声入力もけっこう使えるレベルになってきましたけど、PC(タブレット、スマホ)に文字を入力するときに必要なものといえば、キーボードですよね。

でも、英語と違って日本語をタイピングする場合、ちょっと変わったところがあるって気付いてましたか?

・英文は頭に浮かんだ文字をストレートに入力できる。

頭の中 = wordタイプするキー = w, o, r, d画面に表示される文字 = word

コンピュータ・サイエンスはアメリカで大きく発展したものなので、人間がPCと対話(コマンド入力)するとき、英語との親和性が高いのは、ある意味で当然のこと。

使われている用語も含め、英語話者は、日本語話者よりずっとストレートにPCを使うことができます。

ちなみに、AIにコマンド入力する場合も、英語を使ったときと日本語を使ったときでは、レスポンスもトークン消費量も無視できないレベルの差があると言われていますね。

Photo: 田中宏和

・一方、日本語(ローマ字)入力にはちょっとした手間が...

頭の中 = ことば(言葉)タイプするキー = k, o, t, o, b, a画面に表示される文字 = ことば漢字変換 = 言葉

まあ、日本語入力に漢字変換が必要になるのは、とりあえず仕方ないとして。ローマ字に一旦寄り道してから、また仮名に戻す作業を挟んでいるローマ字タイピングって、よく考えてみたら変な話ですよね。

3文字入力するのに6回キーを押さないといけないのも、ホントにこれでいいのかと...

ローマ字入力とかな入力の違い

今回ご紹介する「薙刀式(かな配列)」は、日本語が入力しやすいように考えられた(一般的なキーボードとは異なる)キーボードのキーの並び+入力のシステムです。

日本ではメジャーとされる「QWERTYローマ字(標準配列)」 を使って文字入力している様子を見比べてみましょう。

まずは、「QWERTYローマ字」。

Image: 田中宏和 generated with Claude

ここでは、「そう」「いう」「こと」「が」「ある」という、日本語に頻出する文字列を組み合わせて短文を作り、シミュレートしています。知らず知らず、皆さんも普段からよく押しているキーの組み合わせということになりますね。

QWERTY配列の弱点と言われる、ホームポジションから遠いキーに頻出文字が配置されているという特長も、よく表れています。

次は、「薙刀式」。

Image: 田中宏和 generated with Claude

仕組みについては後ほど解説しますので、とりあえず見比べてみてください。

どちらもピッタリ4秒で打ち終わるように調整していますが、「QWERTYローマ字」の方は、ちょっとバタバタしていますね。

「QWERTYローマ字」が14個のキーを押しているのに対して、「薙刀式」は10キーを押しているだけというのも、もちろんその理由のひとつです。

が、もう1点注目してほしいのは、リズムの違い。

「QWERTYローマ字」は、母音だけは1キーで1文字を入力できますが、他の文字は全て子音+母音の2キー(もしくは3キー)を順番に押す必要があります。このため、画像上側の入力結果を見てのとおり、母音(あいうえお)とそれ以外の文字を入力するときで、リズムが変わっています。

一方の「薙刀式」は、すべての文字が一定のリズムですね。

要するに、仮名1文字=1拍(音節)である日本語を入力するには、「薙刀式」はじめ、かな配列の方が、よりラクでストレスのないタイピングができるというわけです。

一般的な「かな配列」の弱点を克服

Photo: 田中宏和
かな入力に必要なキーの数はおよそ50個。

かな配列そのものは一般的なキーボードでも採用されていますが、ローマ字入力と比べると1つデメリットがあります。

アルファベットより文字数が多いかなは、全部の文字を1打で入力できるようにキーボードを設計してしまうと、キーの配置エリアが広くなりすぎてしまいます。そう、皆さんの目の前にあるキーボードに印字された「かなキー」を見てのとおり。

つまり、ホームポジションに手を置いたままで、ラクに、かつスマートに入力できる仕様を実現するには、それなりの工夫が必要なのです。

Image: 田中宏和 generated with Claude
薙刀式では50音を26キー+シフトキーで入力する。

「薙刀式」は、この問題をレイヤー(2階建て)構造にすることで解決しています。

スペースバーがシフトキー(レイヤー切り替え)の役割を兼ねているので、50音すべてのキーをホームポジションのまま打つことが可能になっているんですね。

キーボードの “常識” から脱却できる時代へ

自作キーボードが身近になったこともあり、もはや “事実上、英語圏で作られた配列に慣れるしかなかった” 日本語ユーザー冬の時代は、終わりを告げようとしています。

指の可動域に沿ったキー配列や、左右に分割された自作キーボードが気になるという人は、ぜひこちらとか、こちらの記事もチェックしてみてください。

Photo: 田中宏和

3Dプリンターなど新たなテクノロジーの登場や、コミュニティの発展によって、ただ与えられたものではない、自分のためのキーボードを使う(作る)という自由は、その気になれば手に入れることができる。

本当に、いい時代になったものですね。

「薙刀式」の特長

Image: 大岡俊彦の作品置き場

もちろん、自由に設計できるのは、物理配列(ハードウェア)だけに限りません。論理配列(ソフトウェア)だって、自分が使いやすいように変更しちゃっていいんです。

というわけで、いよいよ本題です。手に馴染むキーボードを追い求めてきた私も、すっかりハマってしまった「薙刀式」を見てみましょう。

「薙刀式」は映画・CM監督の大岡俊彦氏が開発した論理配列で、主な特長は以下の通り。

「アルペジオ」と呼ばれるキー連接の妙がよく考えられていて、流れるようにタイピングできるホームポジションに置いた手を動かすことなくタイピングできるので、タッチタイピング(ブラインドタッチ)しやすいよく使うキーがホーミングキー(QWERTY配列の「F」「J」)近くに配置されているので、長時間タイピングしても疲れにくい濁音(「が」等)、半濁音(「ぱ」等)、拗音(「しゃ」等)を入力するのに、文字キーを同時押しするという方法を採用しており、規則的に入力できるので覚えやすい
Image: 田中宏和 generated with Claude
キーのヒートマップ。たくさん押したキーほど濃く表示されています。

上の画像は、以下の文章をタイピングしたときのヒートマップです。ホーミングキーの近くによく使うキーが配置されているのが、よく分かりますね。

お疲れ様です。

先ほどのミーティングで決定した新事業に関して、提案営業に使用するプレゼン資料の制作をお願いしたいと思います。

議事録の概要と資料の内容については、添付ファイルをご確認ください。

とりあえずのラフが週明けのセールスミーティングに間に合えば問題ありませんので、よろしくお願いします。

不明な点があれば、折り返しご連絡ください。

私の知る限りにおいて、「薙刀式」は、現在もっとも日本語入力に適した論理配列だと言って差し支えないと思います。

バージョンが17となってなお、次バージョンのリリース準備が進行中というアクティブな状態ですし、他の新配列作者によって多くの派生配列が作られている人気配列でもあります。

とりあえず、試してみる価値大アリですよ。

新配列(論理配列)って、どうすれば変更できるの?

日本語は、キーボードとIME(日本語入力システム)が連携することで入力可能となるもの。ちなみに代表的なIMEといえば、「Microsoft IME」 や「Google日本語入力」、「ATOK」などがありますね。

新配列は、

IME(ソフトウェア)とキーボード(ハードウェア)の間に、エミュレータを挟むキーボード本体のファームウェアを書き換える

このどちらかの方法で、動作するようになります。

私が「薙刀式」の前に使っていた「大西配列」などローマ字系新配列の場合は、単純にアルファベットキーの並びを変えるだけでOK。なので、「Microsoft PowerToys」に内蔵されているキーリマッパーなどを使えば、すぐに使い始めることができます。

しかし、「薙刀式」のようにちょっと複雑なシフト操作が求められる仮名系新配列となると、やや導入難易度が上がってしまうんですね。

この点は、初心者や中級者にとって壁を感じてしまうところかもしれません。

手軽に使いたいなら、エミュレータをインストール

今の環境のままで、できるだけ手間を掛けずに導入したいという人は、エミュレータを利用しましょう。エミュレータを停止すれば、すぐ元の標準配列(QWERTYローマ字)に戻せるので、習熟し終えるまでの安心感も大きいと思います。

具体的な導入方法については、作者である大岡氏の公式サイト(ブログ)にお任せするとして、ここでは概要だけご紹介いたします。

Screenshot via DvorakJ

「DvorakJ」

現在すでに更新が停止しているため、今後のバグフィックスは期待できませんが、作者の大岡氏が実用している環境なので、とりあえず試してみたい初心者にとっては安心感あり。

「漢直WS」

本来は、漢字変換に頼らず漢字を直接入力する「漢直」という記憶力モンスターのための入力メソッドですが、「薙刀式」のエミュレータとして機能させることもできます。

「桔梗」

作者が現在進行形で更新しているので、OSの大型アップデートなどで不具合が起きても、修正対応が期待できます。

この他にもいくつかありますが、このうちどれかを使っておけば問題ないと思います。

他プログラムとの干渉を避けられる自作ファームウェア

エミュレータでも、大きな問題が起きることはまずないのですが、私が愛用している「Clibor」など、ユーティリティ系のプログラムは、一部機能がエミュレータと干渉してしまうことがあります。

そこで、すでに自作キーボードを使っている、またはこれから導入予定という人の場合は、キーボードのファームウェアを書き換えて、より安定的に動作させる手も検討してみましょう。

Screenshot via GitHub

「QMK版薙刀式」「ZMK版薙刀式」

これらは、それぞれ有線、無線の自作キーボードに「薙刀式」を導入するためのプログラムです。

ファームウェア版の場合、「薙刀式」のユニークな機能である「編集モード(小説などを執筆することに特化した機能)」が一部使えないというデメリットがありますが、同様の機能は他のユーティリティソフトや左手デバイスなどでも代替可能ですし、許容できるという人も少なくないでしょう。

私は、現状このファームウェア版で運用しています。

習熟には努力が必要。でも、割り切って頑張る価値がある

ところで、新配列を覚えるのに必要な時間(労力)がどれくらいなのか、気になりますよね。

もちろん人によりますが、配列図を確認しなくてもキーが押せるようになるまでは、大体30時間くらい。ストレスなくタイピングできるようになるまでは、約100時間くらい練習が必要だとお考えください。

習熟に2か月〜6か月という期間がかかってしまうのは、言うまでもなく新配列の大きな導入障壁となっています。しかし、スポーツ選手がフォーム改造に着手するときだって、一時的に大きくパフォーマンスが低下するのは当然のこと。

さらに高いパフォーマンスを発揮するための “山ごもり期間” だと思って、頑張って乗り切りましょう。

Photo: 田中宏和

「QWERTYローマ字」を忘れてしまうのはカンタンじゃない

また、「QWERTYローマ字」を使えなくなってしまうのが不安だという声をときどき聞きますが、心配には及びません。

私は「QWERTYローマ字」「大西配列」「薙刀式」の3つの配列が使えますが、切り替えてすぐはミスタイプしがちなものの、しばらくすれば、また元のようにタイピングできるようになります。

実際、英語と日本語のバイリンガルが、母語の方をすっかり忘れてしまうことがあるかといえば、そんなことはまずありません。皆さんの指が覚えている標準配列も、長く使わなかったとしても、ちょっと触っていればすぐに勘を取り戻すことができるはずですよ。

どうしても心配な人は、ときどき配列を変えながら運用していれば問題ないでしょう。両言語のレベルを高く保っておきたいバイリンガルが、日頃から両方を使うことを心がけているように。

Source: 大岡俊彦の作品置き場, freesoft 100, GitHub (1), (2), (3), 桔梗

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