まじ…? 乳製品の摂取が多いほど、前立腺がんになる…じつは、ここ30年ほどで「入れ替わっているがんの顔ぶれ」。その背景にある、日本人の真相
「太り気味だから、ごはんをお茶碗半分にしているのに痩せない」「血圧が高いから塩分を控えるように家族に言われた」……こんな経験がある方、少なくないのではないでしょうか。実はそれ、日本人に合っていない健康法かもしれません。
同じ人間であっても、外見や言語が違うように、人種によって「体質」も異なります。そして、体質が違えば、病気のなりやすさや発症のしかたも変わることがわかってきています。欧米人と同じ健康法を取り入れても意味がないどころか、逆効果ということさえあるのです。
見落とされがちだった「体の人種差」の視点から、日本人が病気にならないための健康法を、徹底解説してロングセラーとなった『欧米人とはこんなに違った日本人の「体質」』が全面改訂されて、『最新 欧米人とはこんなに違った日本人の「体質」』として新たに刊行されました。本書は発売即重版となるなど、大きな話題を呼んでいます。
新型コロナの流行をはじめ、旧版刊行からのおよそ10年のあいだの医学・健康をめぐる新知見をも取り込んだ本書。今記事シリーズでは、この『最新 欧米人とはこんなに違った日本人の「体質」』から、とくに注目の話題をご紹介していきましょう。
今回は、様変わりするがんと、その背景についての解説をお届けします。
*本記事は、『最新 欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」』(ブルーバックス)を再構成・再編集したものです。
様変わりするがん…その背景にあること
先にご紹介した記事で、脳出血での死亡率が減少したことをご紹介しましたが、その他に減ってきたのが胃がんと肝臓がんです。胃がんは日本で圧倒的に多いがんでしたが、1965〜1970年をピークとして死亡率が低下し、あらたながんの発生数は、2021年には大腸、肺に続いて第3位になっています。
そして肝臓がんも様変わりしています。それまで大部分を占めていた肝炎ウイルスを原因とする肝臓がんが減少した一方で、日本人の体質に根ざした、異なるタイプの肝臓がんが増加しています。
脳出血や胃がんと入れ替わるように、1960〜1980代に増加したのが糖尿病、脳梗塞、脂肪肝などの生活習慣病、そして欧米型のがんです。図「日本人がなりやすいがんは昔と異なる」のグラフに示しました。欧米型というのは、もとは日本で少なく、欧米で多かった大腸がん、膵臓がん、前立腺がん、乳がんなどを言います。
この背後にあるのが食の欧米化です。1955〜1973年の高度経済成長期に欧米の文化が急速に普及しました。農林水産省の統計によると、1960年から2020年までの60年で、日本人1人1日あたりの肉の摂取量は約9倍に、牛乳・乳製品は約4倍に増えました。魚の摂取量が約15%減り、米にいたっては半分以下になったのとは対照的です。
自動車の普及による運動不足も相まって、日本人の体に内臓脂肪がつき、とくに男性の肥満率が上がりました。総コレステロールの平均値もぐんぐん上がり、米国人の平均より高くなっています。食生活の変化によって体質が大きく変わったのです。
本当なのか…動物性食品で前立腺がん、乳がんに
こう聞くと、長年にわたって粗食に甘んじていた日本人が、高カロリーの欧米食を食べるようになって太ったんだなと思うかもしれませんが、そうではありません。日本人のカロリーの総摂取量は1950年以降、おおむね減少を続けています。変わったのは「どれだけ食べるか」ではなく、「何を食べるか」です。
エネルギー産生栄養素バランス(PFCバランス)という用語があります。P、F、Cというのは三大栄養素である蛋白質(Protein)、脂質(Fat)、炭水化物(Carbohydrate)の英語の頭文字で、PFCバランスは三大栄養素それぞれの摂取比率を示したものです。厚生労働省は「日本人の食事摂取基準(2020年版)」で、PFCバランスは、蛋白質13〜20%、脂質20〜30%、炭水化物50〜65%が望ましいとしています。
日本人が長寿世界一になった1981年ごろは、ちょうどこの比率に収まっていましたが、食の欧米化によって脂質の割合が上がり、2019年には29%と、厚労省が提唱する摂取比率の上限いっぱいになりました。
肉や牛乳の摂取量が増えたからだけではないのです。
見えない油と動物性蛋白質の過剰摂取
現代人は、気づかないうちに大量の脂質を摂取しています。パン、洋菓子、ナッツ、スナック菓子、カップ麺、カレーのルーやパスタソース、マヨネーズからヨーグルトまで、無数の食品に「見えない油」がひそんでいるからです。厚生労働省は、日本人が摂取する脂質のうち、「見える油」は約2割にすぎず、残りの約8割が「見えない油」だとしています。
脂質と異なり、蛋白質の摂取比率はほとんど変わっていないものの、その内訳は変化しました。以前は動物性蛋白質と植物性蛋白質をほぼ同量とっていたのが、2023年には1.3対1と、動物性蛋白質に傾きました。
脳出血を減らすのに役立つ動物性蛋白質も、とりすぎれば健康をそこないます。動物性食品の摂取量が増加するにつれて男性の前立腺がんと肺がん、女性の乳がんが増えました。日本人男性4万3000人を対象に実施された調査からは、乳製品の摂取が増えるほど前立腺がんの発症率が上がるという結果が得られています。
また、大腸がんの増加には肉の消費拡大がかかわっていて、肥満の国際尺度である体格指数(BMI)が高い男性は大腸がんを発症しやすいという報告もあります。
内臓脂肪ががんを引き起こす過程
内臓脂肪ががんを引き起こす過程は少々複雑ながら、とくに注目されているのが膵臓から分泌されるインスリンがかかわる経路です。図「内臓脂肪が発がんを促すしくみ」を見ながら読んでください。
内臓脂肪が増えるとインスリンの効き目が悪くなり、ブドウ糖を細胞に取り込めなくなります。そうなればエネルギーを十分に作れなくなるため、脳が膵臓に指示を出してインスリンの分泌を増やします。
血糖値を下げるホルモンとして知られるインスリンですが、その作用は多彩で、細胞の増殖を促すとともに、体の細胞が自動的に死ぬ、アポトーシスという現象を起きにくくすることが明らかになっています。
アポトーシスは初期のがん細胞や、ウイルスに感染した細胞など、体にとって不都合な細胞を取り除くしくみです。アポトーシスが働かなくなれば、細胞のがん化を止めることができなくなって、がんの発症率が上がります。
食生活の変化が日本人の体質を変え、発症しやすいがんの種類まで変わることからわかるように、がんは広い意味で生活習慣病に分類されています。
生活習慣が原因でがんになるというのは怖い話ですが、裏を返せば、がんはかなりのところまで予防できるということです。
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今回名前のあがった、減少した現代でも日本人の罹患率が第3位のがん「胃がん」、タイプが様変わりした「肝臓がん」、そして、食生活とがんの予防については、『最新 欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」』で詳しく解説していますので、ぜひご一読ください。
最新 欧米人とはこんなに違った 日本人の「体質」
科学が示す、人種と病気の新常識
最新研究でわかった、「日本人のための健康法」とは?
長い年月の中で、欧米はもとよりアジアの他地域とも異なる独自の「体質」を育んできた日本人。体質が違えば病気のなりやすさも、発症のしかたも変わります。そのため私たち日本人は、日頃の健康法や病気の予防法も、他の国と同じというわけにはいかないのです。
本書では、見落とされがちだった「体の人種差」の視点から日本人にとって本当に有効な健康法と、病気の予防法を徹底解説。日本人がこれからも健康でいるために、守るべき習慣と変えるべき習慣が見えてきます。
