母の期待を裏切らず、父への感謝も諦めたくない…「ふたり同時に呼べない」結婚式当日の「極秘15分」の全貌

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近年の結婚式は、新郎新婦の価値観や個性を反映したスタイルが主流になりつつある。過去の定型や慣習よりも、「自分たちらしさ」が重視されるようになり、演出や形式も自由度を増している。かつて当たり前とされてきた前提の意味が問われ、結婚式の在り方そのものが問い直されている。

しかし現実には、自由であるはずの結婚式が、かえって選択の難しさを生むこともある。家族ごとに事情は異なり、呼ぶべき相手でも呼びたくない、呼びたいのに呼べないといった矛盾は少なくない。例えば大切な両親であっても、不仲でどちらか一方しか選べない状況に直面したら、どうしたらよいのか。

無料で結婚相談を受けたり、式場選びを手伝ってくれる「トキハナ」の、現役プロデューサー渡辺優子さんが教える、後悔のない結婚式にするための連載の後編。

シングルマザーに育てられた「理想の娘」

前編「母の期待に応え続けた『自慢の娘』が結婚直前に葛藤。『母には言えない』不仲で離婚した父に見せたいもの」では、シングルマザーの母に育てられ、「理想の娘」として期待に応え続けてきた30歳の新婦・麻央さんの背景を紹介している。厳格な母のもとで空気を読みながら生きてきた一方、離れて暮らす父は唯一、自分を肯定してくれる存在だった。

同じ会社で働く新郎の涼さんとの結婚が決まったとき、母を喜ばせたい気持ちと同じくらい、父にも花嫁姿を見せたいという願いが芽生えた。しかし両親は不仲で離婚しており、父と連絡を取り合っていることすら秘密にしているため、ふたりを同時に式に呼ぶのは不可能。板挟みのなかで、麻央さんと涼さんは「後悔しない方法」を模索し、「トキハナ」の現役プロデューサー・渡辺優子のもとを訪れた。

プロデューサー歴11年、これまで数多くのカップルの悩みを解決してきた渡辺さんは、今回、ふたりの願いを叶えるためのある方法を提案した。渡辺さんの寄稿でお伝えする。

「絶対に母親に隠したいこと」

「父にも、母にも、感謝を伝えたい。でも、ふたりを同じ場に呼ぶことはできない」矛盾する願いに悩む麻央さんに、涼さんは「一生後悔するよりは、なんとかやろう」と、ふたりで秘密の計画を一緒に考え始めました。

そうして私のところへ相談に来てくれた時、ふたりは結婚式をやる目的も、守りたいものも、すでにはっきりとしていました。結婚式についても入念に調べていたようで、「叶えたいこと」と「絶対に母親に隠したいこと」については、箇条書きにしてあり、綿密な準備は、相談というより、むしろ実現のための会議、という様相でした。そしてふたりの話を聞きながら、私は「できる」と思いました。

母親の束縛にときどき息苦しくなりながらも、母の責務と愛情の重さを誰より知る麻央さんの母に対する気持ちは、痛いほどよくわかります。そして、手は出せずとも、遠くから娘を守ろうとしてきた父親の気持ちも。誰も悪者はいない。それぞれが自分の立場で精一杯だったんだろうと思いました。

だから、涼さんの「一生後悔するよりは、一緒にやろう」という言葉に、私も全面的に賛成しました。ふたりの希望を守ること、そしてこの先の家族の形が壊れないこと。その両方を軸に、一緒に形を作っていくことにしました。

3つのパートに分けた結婚

提案したのは、一部に親族だけでの家族婚をし、二部に友人とのパーティを開く2部制でした。

麻央さんの希望を整理してみると、父親を「挙式に呼ぶ」ことより、「ドレス姿を見せたい」「自分を支えてきてくれたことへの感謝を直接伝えたい」という思いの方が強いことがわかりました。であれば、挙式そのものに呼ばずとも、父親と母親が鉢合わせないタイミングで、ドレス姿のまま父と会える時間を作れればいい。

けれどもそれは、母親が帰った後でないとなりません。

また、二部目の友人とのパーティには、麻央さんにとって、大切な意味がありました。麻央さんは、涼さんと出会い、ともに過ごすことで、少しずつ自分の感情や希望を取り戻すことができた。

母からの評価が気になって、緊張していた肩の力が、涼さんと一緒にいることで抜けたのだと思います。

第二部の友人たちとのパーティは、そんな麻央さんが自由に振る舞える場所にしたいというのが涼さんの願いでもありました。そして間に父親との時間を挟む。

ふたりの希望を叶える、3つのパートに分かれた結婚式、それが私からの提案でした。

涼さんのご両親への挨拶で、2部制にしたいと伝えると、すんなり賛成してくれました。大勢の前で謝辞を述べるような場は得意ではなかったこともあり、こぢんまりとした家族だけの場はかえって心地よく感じられたようです。

ただし、麻央さんの父親と対面する時間を設けることは、涼さんの家族にも伝えませんでした。万が一のときに「知っていたのか」という話になることを避けたかったからです。父親との時間は、麻央さんと涼さんのふたりだけの計画として進めることにしました。

「一部は母への感謝の会にしたい」

こうして進めた第一部は、女手一つで麻央さんを育ててくれた「母への感謝の会にしたい」麻央さんはそう言って、ドレスを試着するたびに、母に写真を送っていました。

「マーメイドは体のラインが出すぎるから麻央ちゃんが着るのはやめた方が良い」

「パールのイヤリング以外は軽く見える」。

細かすぎる母からの返信も、母親の扱いに慣れた麻央さんは、口答えすることなく、じゃあと、プリンセスラインのドレスを選ぶ。

第一部は、母親が思い描く「完璧な花嫁」の姿でいることを最優先にしました。もしかしたら、それをする最後の機会と決めたのかもしれません。

プリンセスラインに、胸元も露出を控えたロングスリーブ。ヘアはおくれ毛のないクラシカルなシニヨン。アクセサリーはパール。

「母ならこれを選ぶ」と判断して決めたものでした。

結婚式は、滞りなく行われました。親族紹介のあとは挙式を行い、親族だけで余興もサプライズもない、シンプルな形の会食。結びには母親への感謝の手紙を読み上げ、おひらきとなりました。

引き出物は記念品・引き菓子・縁起物の3点セット。最近は持ち帰りやすいカタログギフト1点にまとめる方も増えていますが、ふたりは形として残るものを一人一人に丁寧にお渡ししていました。

一部終了後、極秘ミッション開始

第一部がおひらきとなり、母親がタクシーに乗り込んだのをスタッフのインカムで確認。そのサインを合図に、極秘ミッションの開始です。

裏動線から父親を誘導し、麻央さんの待つ控え室へと向かいました。父娘の対面時間は、たった15分間。けれども、この15分のために、準備は入念に行いました。

当日の進行表は実際の時間が書かれているものとダミーの2パターンを準備しました。

サプライズ演出などでダミーの進行表を使うことは現場では珍しくなく、スタッフたちも慣れた様子です。

また、当日のオペレーションに直接関わるスタッフには、おふたりの了解を取って、家庭の事情を細かく伝えました。

背景を知らないまま動くと、万が一のときに判断を誤ることがあるからです。

一方で、進行に直接関わらないサービス担当のスタッフには詳細は伝えませんでした。ふとした一言が思わぬところへ漏れることもあります。情報を渡す範囲は、慎重に絞りました。

父親と過ごせる時間は15分と限られているため、麻央さんは事前に手紙を書いていました。そして万が一控え室に家族が入ってきても見つからないよう、手紙は金庫に保管しました。

父親が控え室に入ると、ウェディングドレス姿の麻央さんが待っていました。

涼さんはずっと控え室の外で祈るようにして立っていたそうです。

父親はドレス姿の麻央さんを見て、声をあげて泣き始めました。ゆっくり近づき抱擁していましたが、何を話していたのかは全く聞こえません。ふたりだけの秘密です。

対面の映像と写真は、麻央さんの端末にだけ、直接納品しました。

あっという間の15分が過ぎ去り、父親が帰ったあと、麻央さんは涼さんはすぐに二部の準備に移りました。スムーズな移行のため、ヘアメイクにも工夫をしていました。

第一部のシニヨンを仕上げる段階で、第二部のダウンスタイルを想定した「仕込み」を入れておく。あらかじめ内側にウェーブをかけておき、ピンを外して巻き直すと流れるようなダウンスタイルに切り替えられるようにしました。父との15分を1秒でも長くするための、ヘアスタイリストとの細かい打ち合わせでした。

気になる費用とふたりの分担は…

第二部が始まると、麻央さんはくすみの入ったコーラルピンクのふわふわとしたドレスに着替えて現れました。ダウンスタイルに、プリンセスラインとは正反対の軽やかなシルエット。ハイライトとチークをはっきりめに入れ、夕方のパーティーでも明るく可憐な印象に。第一部とはまるで別人のようでした。

友人たちの前では、母親の前では見せない麻央さんがいました。片手にワインを持ちながらよく笑い、よく話し、カメラに向かいポーズを決めていました。

二部制を検討する方にとって、気になるのは費用です。

今回は同じ会場で時間をずらして行い、挙式自体は1回だけ。会場の延長使用については応相談となり、延長料としての支払いになりました。

それ以外にも、衣装が2着必要になること、カメラマンへの延長料金、ヘアセットの追加料金なども発生します。ヘアメイクは会場や契約によって、挙式までの1セットのみの場合と、追加料金でヘアチェンジに対応できる場合があります。2部制を選ばなくても、お色直しなどで雰囲気を変えたい希望がある場合は事前に確認しておくと安心です。

結婚式の費用は、麻央さんが多めに負担し、代わりにハネムーン費用は涼さんが多く出す形で落ち着いたといいます。

式後、麻央さんのお母様は少し穏やかになったといいます。「お嫁に出すまで」と責任を背負っていたのかもしれません。

「麻央ちゃん綺麗だったね」といつも写真を見ているそうで、その姿を見て麻央さんと涼さんはこの形にして本当によかったと話してくれました。

「両親が不仲で、どちらか一方しか呼べない」という状況は、決して珍しくありません。どちらかを切り捨てなければならないのかと悩んでいる方に、方法は必ずありますとお伝えしたいです。それには、何を一番大切にしたいかを整理することが、最初の一歩です。

もし行き詰まることがあれば、ひとりで抱え込まずに相談してください。

【最終総額:第1部 6名、第2部 40名/最終総額:350万円)】

*トキハナへの相談料は無料です。

【前編】母の期待に応え続けた「自慢の娘」が結婚直前に葛藤。「母には言えない」不仲で離婚した父に見せたいもの