月の岩石を分析したところ定説に疑問を投げかける異質な物質が発見される

1972年にアポロ17号が採取した月の岩石サンプルをアメリカのブラウン大学の研究者らが約50年越しに分析したところ、月の形成過程に関する定説に影響を与えるほど驚くべき結果が確認されました。
Endogenous, yet Exotic, Sulfur in the Lunar Mantle - Dottin - 2025 - Journal of Geophysical Research: Planets - Wiley Online Library

Scientists Cracked Open a Lunar Rock And Found a Huge Surprise : ScienceAlert
https://www.sciencealert.com/scientists-cracked-open-a-lunar-rock-and-found-a-huge-surprise
1960年代から1970年代初頭にかけて、NASAのアポロ計画によって月から数多くのサンプルが持ち帰られました。NASAによると、アポロ計画の6回にわたる月面着陸で2196個、合計382kgの月の物質をサンプルとして持ち帰ってきたとのこと。サンプルの一部は、当時からより進歩した技術がはるかに詳細な分析を可能にすることを見越して、密封して保存されていました。
ブラウン大学の惑星科学者であるジェームズ・ドッティン氏らの研究チームは、保存してあったサンプルの1つを50年ぶりに取り出し、「質量分析法」を用いてサンプル内の硫黄の同位体比を精密に測定しました。硫黄は天体の地質学的歴史を理解する上で重要な元素であり、硫黄の同位体比を測定する事で、サンプルの起源や形成メカニズム、年代を追跡することができます。

岩石サンプルには、宇宙で最も一般的に見られる鉄と硫黄の化合物であるトロイライトの破片が含まれていました。研究チームがトロイライト中の硫黄同位体比を分析したところ、硫黄の同位体である「33S」がわずかに高くなっていることが分かりました。これは火山のガス放出と一致する同位体パターンであり、研究チームが月の火山岩の分析として期待していたものと一致していたそうです。

しかし、サンプルの他の部分では33Sの同位対比が驚くほど減少していました。研究チームによると、このような同位対比のサンプルを観測したことは初めてとのこと。ドッティン氏は「最初に思ったのは、『なんてことだ、そんなことはありえない』でした。私たちは分析が適切に行われたかを確認するために再度調査を行いました。そして、結果に誤りがないことが確認されました。これは本当に驚くべき結果です」と発見の衝撃について述べています。
分析結果は、2つの興味深い可能性を示唆しています。1つは、従来は地球型惑星のマントルから獲得されたと考えられていた硫黄が、月自体で形成されたというもの。誕生したばかりの月はマグマの海に覆われていたと考えられていますが、この海が冷えて結晶化する過程で、硫黄が大気中の紫外線と相互作用し、同位体が変化した可能性があります。
また、月の形成に関する有力な「生まれたばかりの地球が火星サイズの天体『テイア』と衝突したことで月が誕生した」という説があります。本来月が持ち得ない33Sの同位体は、「テイアから月に残されたもの」というシナリオが2つ目の可能性として考えられています。ドッティン氏は「地球ではプレートテクトニクスが表面からマントルへの物質の交換を行いますが、月にはその働きがありません。そのため、初期の月に何らかの交換メカニズムが存在し、それが硫黄の変化をもたらしているというアイデアは刺激的です」と語りました。
この発見は、月の起源や地球との関係性を再検討するきっかけとなるほか、「地球と月はほぼ同じ材料からできていた」という定説にも疑問を投げかけるものです。今後より多くの月や火星、その他小惑星のサンプルを分析することで、月の初期形成や硫黄の謎について、さらなる理解を得られることが期待されています。
