仕事のできるリーダーは部下へ仕事をどのように任せているのか。リーダーズクリエイティブラボ代表の五十剛さんは「『自分がやったほうが早い』と任せなかったり、『適任者がいない』と嘆いていては部下は成長しない。適任者を探すという発想自体をまずは捨てなければならない」という――。

※本稿は、五十剛『任せる勇気』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

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■自分一人で抱え込むか、時間がかかっても人に教えるか

2人の農夫がいました。

それぞれ、未開拓の広大な畑を耕そうとしています。

1人の農夫は、まず、黙々と1人で鍬を振り続けました。やがて、疲れてきたところで「誰か手伝ってくれ!」と叫びます。

しかし集まってきたのは、鍬の持ち方すら知らない人たちでした。

「結局、自分でやるしかないのか……」と、彼は途方に暮れます。

もう1人の農夫は、違いました。

彼はまず、周囲の人に畑を耕すためのノウハウを教えることから始めたのです。その結果、彼は頼もしい農夫に育った仲間たちとともに、効率的に畑を耕すことができました。

このように、最初の準備を怠ってしまうと、リーダーは「任せられる人がいない」と悩み続けることになります。

■「任せられる人を探す」こと自体が間違い

リーダーがよく頭を悩ませる問い。

「誰に任せるか」

ここに苦戦し、結局「任せられる人がいない」と嘆く人が後を絶ちません。

私自身も、かつてはそうでした。

「自分ばかりが忙しくて、メンバーは成長しない」
「結局、誰に任せても期待以上の成果が出ない」

このように「任せたくても任せられない理由」は、メンバーの能力不足のせいだと思い込んでいたのです。

しかし、あるとき、気づきました。

「任せられる人を探す」こと自体が、根本的な間違いである、と。

あなたが新入社員だった頃、あるいはまったく経験のない分野の仕事を任されたとき、最初から完璧に、誰の助けも借りずに成果を出せたでしょうか?

そんなことは、決してありませんよね。誰もが先輩やリーダーから教わりながら、助け舟を出してもらっていたはずです。一人前に仕事がこなせるまで、サポートを受けて育てられた経験があるはずです。

そして、あなたのメンバーも、当然ながら成長の途中。だから、今あなたが期待するほどの成果を出せていなかったとしても、それは当たり前のこと。

「任せられる人」とは、最初から完璧な「適材」としてチームに存在するわけではありません。

リーダーが育てるからこそ、「適材」となるのです。

「適任者を探す」という思考は、捨ててください。

■リーダーがすべきはメンバーへの「初期投資

もしも、あなたが来年からパン屋を始めようと思ったら、最初に何をしますか?

店舗の契約はもちろんですが、店舗の規模によっては、数名の店員を雇う「人への投資」も必要です。また、パンを焼くためのオーブンや食材を保存する冷蔵庫など「設備への投資」も欠かせません。

実際にどれだけ繁盛できるかは、やってみなければわかりません。しかし、お金をかけて「準備」をしなければ、そもそもお店を始めることすらできないのです。

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組織やチームも、まったく同じです。

仕事を任せるためには、まずは「任せられる人」を準備する必要があります。

とはいえ、それは「任せられる人」を外部から探してきたり、呼んできたりする、という意味ではありません。

リーダーがするべきは、メンバーへの「初期投資」です。

時間をかけて仕事を教えたり、相談に乗ったり、うまくいかないときはフォローをしたりと、手間暇かけてメンバーを「任せられる人」に育てていかなければならないのです。

■毎週30分の「時間の投資」を行ったリーダー

私の知り合いのリーダーの例を紹介しましょう。

彼のチームには、企画力は高いものの、資料作成に時間がかかりすぎるメンバーがいました。

そこで彼は、通常業務の合間を縫い、そのメンバーに自身の資料作成のノウハウを毎週30分ずつ、約2カ月間かけて徹底的に教え込んだそうです。これは、リーダーにとっては決して小さくない「時間」という名の資源の投資です。

その結果、そのメンバーは以前の半分以下の時間で質の高い資料を作成できるようになり、自信を持って企画提案に臨めるようになりました。さらに、その企画が通ったことで、プロジェクト全体が一気に加速し、予想以上にチームの成果につながったと言います。

繰り返しますが、リーダーは「任せられる人を探す」のではありません。

「任せられる人に育てる」ことを、常に意識しなければならないのです。

■「自分でやったほうが早い」はいつか限界を迎える

「任せるより、自分でやってしまったほうが早い」
「自分がやる以上の結果を、メンバーが出せると思えない」

これらは一見もっともらしく聞こえるものの、リーダー自身の単なる主観にすぎません。

ただ、どうしてもこのように考えてしまう人もいるでしょう。

今はまだ、そんな「自己完結型」のやり方で、何とかなるかもしれません。

しかし、仕事が増えてきたり、チームの人数が増えて規模が大きくなってきたりすると、とても1人では抱え込めなくなる「限界点」が必ず訪れます。

そうなってから「そろそろ任せよう」と思っても、もう遅い。

なぜなら、「任せられる人」が育っていないからです。

あなたが仕事を大量に抱え込んで忙しそうにしている間、メンバーはその仕事による技術習得の機会を奪われ続けていました。

「任せられる人がいない」のはメンバーのせいではなく、メンバーへの初期投資を怠り、成長機会を奪った「リーダーの自業自得」なのです。

また仕事を抱え込んでいる限り、あなた自身が新しいことにチャレンジする時間も機会も失われ、リーダーとしての成長停滞も招きかねません。

結果として、チーム全体が硬直してしまうことにもなります。

「忙しくなったら任せる」のではなく、「忙しくなる前から任せる」。

これを忘れないでください。

■「部下の失敗の責任を取りたくない」という保身を乗り越える

それでも誰かに任せることを躊躇してしまうリーダーの心の中には、こんな本音が隠れているのかもしれません。

「メンバーの失敗で、自分の評価を落としたくない」
「自分が責任をとるのだから、簡単に任せられない」

いわゆる「保身」ですね。

実際、私自身も仕事を上手に任せることができなかった当時、こうした気持ちが心に渦巻いていました。だからこそ、当時の私はメンバーの気持ちなどは一切お構いなしで、厳しく細かな指示を出し続けました。手順書やチェックシートで「ルールでがんじがらめ」にしていたのです。

それらはミスを出さないための、完璧な防衛策のはずでした。

しかし、「今日だけは絶対にミスしないで」と祈るほど大事なときに、思わぬミスが起きてしまったのです。ルールで「許可なく触らない」と決められていた業務用サーバーを、メンバーが自己判断で操作してしまい、重要なディレクトリを誤って削除してしまいました。

その結果、200以上の業務処理が一斉に異常終了……。

パソコンに映った真っ赤な警告画面を見て、私は完全に自信をなくしました。

■「コントロール」から「エンパワーメント」へ

背に腹は代えられなくなった私は、思い切って考え方を180度改めました。

現場のことを一番知っているのは、紛れもなくメンバーです。

ですから、「成果を出してくれそうな適任者を探し、いなければ指示を出す」という考え方を捨て、まずはプロジェクトにおいてメンバーと「目指すべき目標」を徹底的に共有することにしました。

そして、その目標達成のためにメンバー自身が考えて行動し、メンバー同士で対話できる環境を整えることに注力しました。

言わば、「コントロール」から「エンパワーメント」へのマネジメントの大転換を図り、「人への投資」「設備への投資」に本格的に焦点を当てたわけです。

■「任せられる人がいない」はウソ

最初は、私の急な方針転換にメンバーたちは戸惑っていました。

五十剛『任せる勇気』(三笠書房)

しかし、日常的に対話を重ね、ざっくばらんに意見を交わし合える場を作り続けたことで、次第にメンバーの仕事への姿勢が変わっていきました。

3カ月もすると、その変化は「個の成長」という形で成果にも現れてきました。そして6カ月後には、クライアントのマルチベンダーの中で、品質や納期、クライアントとの協働関係において、なんとトップの成績を収めるに至ったのです。

「任せられる人がいない」というのは、本当にウソです。

「人に任せられるリーダーがいない」というだけのこと。

こんな私でさえ、どん底から「任せられる人を育てる」ことにシフトすることができました。だから、あなたも、決して今からでも遅くありません。

まずはメンバーを信じ、初期投資に徹しましょう。

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五十(いがらし・つよし)
リーダーズクリエイティブラボ代表取締役CEO
長野県東御市出身。上田高校卒。東海大学卒業後、長野市のNECグループ会社に入社し、NEC本社に逆出向。実績を認められて移籍。中央官庁の大規模システムプロジェクトを担当するなど、リーダーとして多様な現場を経験。年間売上600億円、メンバー1000人超のプロジェクトを率い、NECグループ12万人の中から年100人しか選ばれない社長賞を前代未聞の4度受賞。しかし、その裏で「指示型リーダー」として任せられない苦悩を重ね、突発性難聴を発症。孤独の中で「任せる勇気」こそがチームを動かす原点だと痛感し、トップダウンとボトムアップを融合させた独自のマネジメントスタイルを確立。すると、わずか半年で危機的プロジェクトをV字回復へ導く。2023年にNECを定年退職。株式会社リーダーズクリエイティブラボ代表取締役CEOに就任。チームを自律に導くリーダーの育成や、結果を出すチームビルディングを支援している。著書に『結果を出すチームのリーダーがやっていること』(すばる舎)がある。
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(リーダーズクリエイティブラボ代表取締役CEO 五十 剛)