エヌビディアとの提携も ロレアル がVivaTech 2025で見せたAIマーケティング最前線

記事のポイントロレアルはVivaTechでAIと生成技術を活用しマーケティング活動を全面的に再設計すると発表した。ビューティーテインメント構想でエンタメと美容体験を融合しブランドロイヤルティを強化する。エヌビディアとの提携やセルバイオプリントなど科学技術で製品開発とマーケティングを革新する。
2025年6月、ロレアルはパリで開催されたVivaTech 2025の会場で行われたセッションで、自社のマーケティングおよびテクノロジー戦略を発表。それは単なるプロダクト発表のレベルを超えた、AI、生成技術、サステナビリティ、カルチャー、パートナーシップを横断し、美容業界のリーディングカンパニーである同社の未来を示す内容だった。マーケティング活動を再設計、最終目的はブランドへのロイヤルティ醸成(CMOアスミタ・デュベイ氏)
ロレアルグループ チーフ デジタル&マーケティングオフィサー アスミタ・デュベイ氏

VivaTech 2025内ロレアルのブース。マーケターのための生成AIツール「CREAITECH(クリエイテック)」による鮮やかな映像が壁面を彩った。
たとえば、検索段階では、ジェネラティブエンジンオプティマイゼーション(GEO)による生成AI対応検索をテストを行う。また、検討段階の消費者インサイトは、AIによるパーソナルビューティーアシスタント「Beauty Genius(ビューティージーニアス)」で把握する、といった具合だ。また、マッチング型AIマーケットプレイス「Noli(ノリ)」を展開するなどして新たな販路と新規顧客開拓にも取り組んでいる。購買段階に至っては、ソーシャルコマースと連携して最適な導線を構築し、購入後はエージェントAIによるカスタマーケアソリューションで満足度を高めてロイヤルティを強化すると話す。さらにプレゼンテーションでは「Beautytainment(ビューティーテインメント)」という新コンセプトも提示された。これは、TikTokやディズニープラス、マインクラフト、アマゾンプライムビデオといったエンタメプラットフォームと連携し、「ストーリーのあるビューティー体験」を提供するものだ。そして、これらすべての最終的な目的は「ブランドへのロイヤルティ醸成」だという。このように最適化された購入プロセスで、望む商品を手に入れた消費者には、エージェントAIによるカスタマーケアソリューションが用意される。これによりケア担当者がより迅速に多くの消費者に対応することができる。つまり、AIを活用しこれまでになく強化された一連の活動が、消費者満足度に大きく貢献するというわけだ。AIの活用によりロレアルはマーケティング全体のバリューチェーンにも変革をもたらそうとしている。マーケティング活動はより知的にパーソナライズされ効率的になっていくのだと彼らは語る。「我々はマーケター自身とマーケティングそのものを『拡張』しようとしているのだ(デュベイ氏)」。ブランドは「ストーリーの一部」になれるか?
「ビューティーテインメント」のコンセプトに次いで、デュベイ氏が示したもうひとつのキーワードが「カルチャーとの共創」だ。NYX(ニックス)はTikTok上で5人の独立系女性アーティストによるアルバム「NYX TAPE(ニックステイプ)」をリリース。マインクラフトのゲーム世界とも提携し、ゲーミング領域での美容体験を創出している。さらに、ロレアル・パリが提供する「ビューティージーニアス」は、メタと連携してワッツアップにも展開。女優エヴァ・ロンゴリアが出演するプロモーションでは、自宅でリラックスした女性に扮するエヴァが「ねえ、ビューティージーニアス。時差ボケしてるけど元気に見える方法は?」と問いかけ、即座にパーソナライズされた提案を得られるという使い方を動画で示した。私に合うコスメをAIが選んでくれる、AIマーケットプレイス「ノリ」
AIによるパーソナライズを象徴する取り組みのひとつに、ロレアルが支援するビューティーテックスタートアップ「ノリ」のアプリがある。これは、ユーザーの肌タイプ・悩み・めざす仕上がりをもとに、数百万通りの組み合わせから最適なコスメのレコメンデーションを得ることができ、オンライン購入までワンストップで行えるサービスだ。現在は英国のみで展開中だが、今後はグローバル展開も視野に入れている。このデータベースにはロレアルが100年かけて蓄積してきた製品や成分の知見が活用されており、アクセンチュアやマイクロソフトアジュールと連携したエンタープライズAI基盤の上で稼働している。生成AIでマーケターの「創造力」を拡張するクリエイテックの実力
マーケターのための生成AIツール「クリエイテック」についても言及された。このツール上では、Googleイマジェンスリーやアドビファイヤーフライ、ステイブルディフュージョンなど複数の生成AIが統合されている。このツールを用いることで、製品画像、背景、成分ビジュアル、テクスチャ表現までを自動生成可能で、すでに数千点のビジュアル制作に利用されている。展示ブースでも、ときに近未来的、ときにはリアリティあふれる画像が次々と出現する様に注目が集まった。エヌビディアとの提携も。AI開発スピードを最大化するインフラとして
このようなAI施策を支える基盤として発表されたのが、エヌビディア(NVIDIA)との戦略的提携だ。ロレアルは、ノリやモディフェイス(ModiFace)、ビューティージーニアスなどの開発基盤にエヌビディアAIエンタプライズ(NVIDIA AI Enterprise)を採用。高精度かつ高速な計算力により、R&Dとマーケティングの一体化を加速させている。ギーヴ・バルーチ氏が描くプロダクトと科学の未来

ロレアルグループ グローバルマネージングディレクター、オーグメンテッドビューティー&オープンイノベーション担当のギーブ・バルーチ氏。
ロレアルのグローバルマネージングディレクター、オーグメンテッドビューティー&オープンイノベーション担当のギーブ・バルーチ氏も登壇。「美容がプロダクトからサイエンスへと進化」する流れを象徴する3つの技術を紹介した。
VivaTech 2025の同社ブースではセルバイオプリントに関連する展示も。
セルバイオプリント(Cell Bioprint)は肌を綿棒で軽くこするだけで、その成分からたったの5分でタンパク質バイオマーカーを解析。生物学的年齢や肌の未来状態を可視化するというツールで、同社が今後の戦略の軸として掲げるコンセプト「ロンジェビティ」を、いわばデバイスの形で支えるプロダクトだ。エアライトプロ(AirLight Pro)は美容メーカー発想で作られたヘアドライヤーだ。赤外線を利用して髪を素早く、かつダメージレスに乾かす。水分量アップ、ツヤ改善、エネルギー消費19%削減という成果もあるという。Google Maps連携スキンケアは、居住地域の大気汚染や紫外線、気温、湿度などに基づき、肌や髪への影響を可視化。外部サービスと連携し、環境要因込みのレコメンドを実現。同氏が語るテクノロジーと美容の融合という考えを具現化したアプリだと言える。マーケティングは「魔法と論理の融合」へ

美とテクノロジーの融合を可視化する、VivaTech 2025会場内のロレアルのブース。
ロレアルが描く未来のマーケティングは、科学と創造性、プラットフォームとパーソナルケアの融合である。最後にデュベイ氏がセッション内で披露した「マーケティングを拡張させるための3つの前提条件」を紹介しよう。彼女によると、1つめの条件は「ロジックとマジックという2つの筋肉」。2つめは「強固なデータ基盤」。そして3つめが「ビッグテックとのオープンイノベーションエコシステム」だそうだ。曰く、創造性とテクノロジーを駆使した他に類を見ない消費者エンゲージメントは、この3つの基盤の上に成り立つのだとか。
何度足を運んでも「満員御礼」状態のロレアルブース。美とテクノロジーの融合、次世代マーケティングというテーマへの関心の高さが伺われる。
AIがもたらす効率化だけでなく、カルチャーへの感度、ストーリーテリングの巧みさ、サステナビリティやインクルーシブネスへの責任。すべてを包含したロレアルの戦略は、我々の手のひらから始まる「マーケティングの未来」を描き出している。取材・文/遠藤祐子