「神への信仰を利用」して約200人から約37億円を投資詐欺でだまし取ったテキサスの牧師とは何者だったのか?

ドック・ギャラガーはアメリカのキリスト教系ラジオで司会者も務めていたテキサスの牧師で、キリスト教徒の高齢者から10年にわたって約2400万ドル(約37億円)をだまし取った疑いで2019年に逮捕されました。ギャラガーという人物やギャラガーの働いた投資詐欺に関する詳細を、Bloombergがムービーにまとめています。
The Texas Preacher Who Used God to Steal | Bloomberg Investigates - YouTube
https://www.sec.gov/enforcement-litigation/litigation-releases/lr-24420
ギャラガーはキリスト教系のラジオで「マネー・ドクター」を自称して司会をしており、ラジオ内や書籍で自身の投資ビジネスを宣伝していました。結果として、ギャラガーのビジネスは実際には出資してもらった資金を運用せずに投資家をだまし取る投資詐欺の一種であるポンジ・スキームであったため、2019年に逮捕され、2020年には有罪判決が下され終身刑となりました。テキサス州タラント群の地方検事局で高齢者金融詐欺チームのチーフを務めたロリ・ヴァーネル氏は「『マネードクター』ギャラガーは、私が見た中で最悪の犯罪者の一人です」と語っています。

ギャラガーはAMラジオやキリスト教系のラジオ局で枠を購入し、自らを元牧師のクリスチャンであると名乗って自身が経営する投資ビジネスを宣伝していました。ギャラガーは「Jesus Christ, Money Master」という本も出版しているほか、普段から神や信仰について語り、教会に通うことで、善良で親切な社交性の高い人物だと周りに信じさせていたそうです。

Bloombergの取材に答えた当時の被害者であるジェイムズ・ハーマン氏とキャロル・ハーマン氏は、「ギャラガーが自分をクリスチャンであると述べたため、彼を信頼しました」と述べました。ハーマン氏は夫婦でクリスチャンであるため、車のラジオで聞いたギャラガーの「最高の退職生活を送り、最高の人生を送れるように手助けしたい」というメッセージを信じて、投資することを決めたとのこと。ハーマン氏は投資に際して、ギャラガー氏が信頼に足る人物なのか慎重に調べたものの、インターネットで検索しても悪い情報などはまったく見つからなかったと話しています。

ハーマン夫妻は自宅に訪れたギャラガーから直接案内を受け、貯金のほぼすべてにあたる75万ドル(約1億円)をギャラガーに預けることを決めました。ハーマン夫妻は浪費家であったため、ギャラガーに預けることで浪費を抑え、将来の葬儀費用などを貯蓄したい意図もあったそうです。そして、その後は毎月5000ドル(約77万円)の小切手を「配当」として受け取ります。これがポンジ・スキームのワナであり、実際に配当を受け取るため序盤は信じやすいものの、実際には投資などしておらず出資された資金を横流ししているだけのためどこかで破綻し、最終的には誰も元の出資金を回収することができません。

投資から数カ月後にハーマン氏がケガにより看護師を退職したことで、毎月の配当による引き出し額を増加する必要がありました。そのため、残額がいくらなのか確認したところ、支払った75万ドルから投資によって増えたわけでも失敗して減った様子もなく、数カ月たっても残高がセント単位まで変わりませんでした。そこでハーマン夫妻は「ポンジ・スキームなのではないか」と気付いたそうです。そのころ、改めてギャラガーに会ったところ、かつてはハーマン夫妻の体調もしきりに気にしてくれた優しさを見せていましたが、投資を疑うハーマン氏の態度を受け、ビジネスを守ることしか考えていないような攻撃性をギャラガーが持つようになったとハーマン氏は話しています。

テキサス警察の保険部門で警部補を務めたスティーブ・リチャードンソン氏は、認知症を患った老人の代理人を務める孫から相談を受け、老人の保険金に疑わしい関与をしていたギャラガーの捜査を開始しました。そこで銀行記録を調べたところ、ポンジ・スキーム特有の預金額の推移が見られたそうです。

本格的に捜査が始まり、ギャラガーのポンジ・スキームは約10年継続していたことがわかりました。しかし、銀行が記録として残すことを義務付けられているのは7年までであり、すべての詐欺記録を証明できなかったとリチャードンソン氏は述べました。被害者はすべて62歳から91歳の高齢者であり、命の危険がある病にかかって急にお金を取り戻す必要があった人もいました。ギャラガーの詐欺行為が確定したことで、警察はギャラガーのオフィスを占拠し、従業員を含む全員を摘発しました。

またギャラガは警察用語でスタッシュ・ハウス(物資を保管した隠れ家)も保有しており、逮捕後の捜査ではそこで金庫も発見されました。しかし、金庫を空けたところ中身は完全な空であり、被害者に投資分を返すこともまともにできませんでした。

ジャーナリストのクリス・ポモルスキー氏は、逮捕され終身刑が下された後のギャラガーにインタビューを行いました。そこでポモルスキー氏が「なぜラジオやセミナーであなたは人々を魅了することができたと思いますか?」と尋ねたところ、ギャラガーは「私が十分な資金を持っていないことを知って、後にショックを受けたかもしれないが、私が彼らのことを気にかけていたことを理解していたはずだ(だから私を信頼した)」と回答しました。ポモルスキー氏は「ギャラガーは、実際には投資詐欺にかけていただけにもかかわらず、自分が人々を真剣に気にかけていたのだと信じ続けていました」と述べています。

ギャラガーは判明しているだけで約2400万ドル(約37億円)、取材によるとさらに多い約3800万ドル(約60億円)を投資詐欺でだまし取りました。そのうち、少なくとも2100万ドル(約33億円)はどこかに消えたままで、被害者に返金されていません。2025年にギャラガーは6年の刑期を経て、仮釈放される予定です。
