「飲むのが憂鬱…」山中伸弥が語った、日本だけで売られる「悪夢を見る薬」のヤバすぎる実態

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ChatGPTに代表されるAIは日常に当たり前のように溶け込み、我々の生活を豊かにしている。一方で、AIが人間の知能をはるかに超えてしまうことの危険性も指摘されている。日々発展し続けるAIの行く末は人類の味方か、それとも敵か。“ノーベル賞科学者”山中伸弥と“史上最強棋士”羽生善治の対談集『人間の未来 AIの未来』(山中伸弥羽生善治著)より抜粋して、人間とAIの今後についてお届けする。

連載第38回

コンピュータが故人を復活させる⁉想像を絶するバーチャルリアリティの驚異の「現状」に天才二人も唖然【山中伸弥×羽生善治』より続く

「ニコニコ超会議」で

羽生先日、幕張メッセで開催される「ニコニコ超会議」というイベントに初めて行ったんですが、異様に盛り上がっていました。ネットの「ニコニコ動画」でやっているイベントをリアルで再現するコンセプトで、いつもはネットで楽しんでいる人たちが、現実の世界に集まるわけです。

アニメやゲームだけでなく、企業や政党も参加したイベントがいろいろあるんですが、わからない人が行くと、いったい何が行われているのか、何が楽しいのかまったくわからない。ある人たちにはとても楽しい世界があちこちで展開されていて、それぞれが完結しているんですよ。15万人くらいが集まる大人気のイベントです。

山中えー、15万人。

羽生一度行くと、カルチャーショックを受けると思います。

山中羽生さんは、どんな立場で行かれたんですか。

羽生将棋のコーナーで、加藤一二三先生とトークショーなどをしたんですけれども、完全に浮いていました(笑)。「ここでなぜこんなことやっているの?」みたいな感じで。

山中iPSはもっと浮きそうですね。

羽生いや、歌舞伎、大相撲から、ロボコン、先端科学までいろいろやっているので、iPS細胞をテーマにイベントをすれば、かなり人が集まると思いますよ。

山中バーチャルリアリティで思い出したけれど、僕は一ヵ月に一回、グラッドストーン研究所のあるサンフランシスコと日本を往復しているので、時差ボケ解消のため、いろいろな睡眠薬を飲んでいます。

飲むと悪夢を見る薬

山中オレキシンという覚醒作用を持つ物質があって、筑波大学の柳沢正史先生が発見しました。そのオレキシンを抑制する睡眠薬が日本でだけ販売されているんです。普通の睡眠薬は眠くなる成分を増やすけれど、その薬は目を覚ます物質を抑える。でも副作用の項目に「悪夢」と書いてあるんです。僕はそういうのを見ると、やっぱり試したくなる。

悪夢というから、ターミネーターが襲ってくるようなとんでもない悪夢を見るのかなと思ったら、マラソンのスタート前にトイレがいっぱいで使えないとか、部下に逆切れされて怒られるとか、ものすごく現実的なんです(笑)。これこそバーチャルリアリティです。

羽生ははは、普通、悪夢を見ると、目が覚めるじゃないですか。これは覚めない悪夢なんですね。

山中そんな夢は普段でも見ているけれども、明らかに頻度が増えますね。どういうメカニズムかわからないけれど、薬は夢まで変えるんですね。今日はどんなリアルな悪夢を見るのかと思うと、ちょっと飲むのが憂鬱になるんですけど。

羽生確かに悪夢を必ず見るとわかって眠りにつくのは嫌ですね。逆にいい夢を見るような薬があったら、眠るのが楽しみになるんでしょうけど。

山中確か星新一のショートショートにありました。昏睡状態にある男性が現実世界には超美人の妻や立派な家が待っているという夢を見て、「これは絶対生きなければ」と蘇生する。でも目を覚ましたら、待っていた現実は超恐妻と巨額の借金。生きる希望を持たせるために薬を飲まされていた、というオチでした。

羽生要するに脳内物質で楽しいか悲しいかが決まるんですね。映画『マトリックス』は、過酷な現実世界と安逸な夢の世界のどちらを選ぶか、という内容でした。

『環境が遺伝子を変えてしまう…山中伸弥も理解できない「記憶の遺伝」の衝撃的な仕組み』へ続く

環境が遺伝子を変えてしまう…山中伸弥も理解できない「記憶の遺伝」の衝撃的な仕組み