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次の世代の幕開けを表現する小さなバス

例えば、クルマの連想ゲームをしてみる。サーキットという言葉には、フェラーリやポルシェといったメーカーが結び付く。アウトバーンなら、BMWやアウディだろう。逆にロールス・ロイスやベントレーなら、高級リムジンかもしれない。

【画像】次世代の小さなバス フォルクスワーゲンID.バズ 日本でも販売が始まったID.4 3と5も 全95枚

それでは、サマー・フェスティバルとイメージが重なるクルマは? 恐らく、1960年代に人気を博したフォルクスワーゲン・タイプ2、通称ワーゲンバスがその1台へ該当するはず。


フォルクスワーゲンID.バズ(英国仕様)

2枚に別れたフロントガラスに、観音開きのサイドドア。ベンチシートを展開すれば、ベッドになる。ファンキーな音楽を聞きながら湖畔でバーベキューを楽しむような、夕暮れのアウトドアがこれほど似合うクルマは他にあるだろうか。

第二次大戦後の荒廃したドイツで1950年代に誕生したタイプ2は、新たな時代の自動車として世界中で支持を集めた。反戦や自由主義、ロックフェスの元祖といえるウッドストック・フェスティバルといったイメージを織り交ぜながら。

そして化石燃料からの脱却が進む今、フォルクスワーゲンの小さなバスが、次世代の幕開けを表現するかように登場した。ディーゼルエンジンの不正問題など、近年の同社には好まくないニュースも少なくなかった。最近のモデルも、どこか個性が薄い。

フォルクスワーゲンのCEOに就任したトーマス・シェーファー氏は、「再び愛されるブランド」を目指すと発言している。バッテリーEV(BEV)の小さなバスは、その旗振り役だ。

エモーショナルなブランド像をカタチに

現在、自動車業界は大きな変革期にある。BEV戦略に駆動用バッテリーの確保、インフォテインメント・システムとタッチモニター、人工知能に自律運転。ID.バズは、これらを網羅した再発明といえ、ブランド・アイデンティティを自ら再認識する役目も担う。

ただし、称賛すべき新技術を搭載していても、必ずしもクルマへ愛着を抱けるわけではない。シェーファーが目指すブランド像を醸成することは、簡単とはいえない。


フォルクスワーゲンID.バズでコーンウォール州ニューキーを目指した旅の様子

デザイン部門のチーフ、ヨゼフ・カバン氏は次のように話す。「わたしたちは、ブランドをエモーショナルなものにする必要があります」。それは、ID.バズに落とし込まれているだろうか。

英国の冬は、1年で最も辛い季節だと思う。乗り越えるために、生きる活力が必要な季節でもある。フォルクスワーゲンのキャンパーで楽しむ真夏のアウトドアを想像し、数か月をしのぐことも手段の1つだ。

グレートブリテン島の南西部、グラストンベリーでのロックフェスが待ち遠しい。カスタム・フォルクスワーゲンとダンス・ミュージックの祭典として1987年にスタートした、ラン・トゥ・ザ・サンというイベントも、2023年5月に復活するという。

とはいえ、英国の冬はまだ長い。この辺りで筆者は休暇を取る必要がある。新しいID.バズは、空冷フォルクスワーゲンのような気持ちを生み出してくれるだろうか。海岸線の雰囲気との相性はどうだろう。実際に、走ってみるしかない。

最も幸福に満ちたBEVでのロングドライブ

あいにく、日取りは1年でも最も悪かったといってもいい。鉄道はストライキで停まっており、ロンドンの道は普段走らないクルマが加わり大混乱だった。空は分厚い雲に覆われ、最高気温はマイナス1度。路面には凍結防止剤が巻かれている。

ライムイエローのピカピカ・ボディは、撮影前に薄汚れてしまった。ところが実際は、これまでで最も幸福感に満ちた、BEVでのロングドライブになった。欲求不満で旅を終える、なんてことはまったくなかった。


フォルクスワーゲンID.バズ(英国仕様)

目指したグレートブリテン島の南西部は交通量もまばらで、ラジオからは陽気なロックが流れていた。筆者の旅をお膳立てしてくれるように。そして、航続距離の心配ともほぼ無縁で済んだ。BEVでの旅では、最も気がかりなポイントになり得る。

ID.バズの駆動用バッテリーは、77kWhのリチウムイオン。近年のモデルとしては平均的な容量といえ、急速充電能力も最大170kWで、驚くほど速いわけではない。ロンドンのオフィスを出発した時点で、337kmの航続距離がメーターパネルに表示された。

当初は、西へ150kmほど走ったウィルトシャー州で、念のため充電しようと考えていた。英国の場合、人口の少ない小さな町では、充電インフラの整備はこれから。電欠は避けたい。そもそも、英国全土で遅れ気味ではあるけれど。

下道で偶然発見した120kWの急速充電器

だが今回は、交通量のまばらな下道を利用した。路面の塩分は少なく、トラックも少なく、道路工事も殆どなかった。時間は多少かかっても、穏やかに効率的に西を目指せた。必然的に、航続距離にも有利に働いた。

恐らく、110km/h程度で高速道路を飛ばしていたら、ここまで電費は伸びなかっただろう。ドーセット州の小さな町、セムリーで居心地の良いカフェと設置されたての120kW急速充電器を、偶然発見することにもつながった。


ドーセット州セムリーで発見した120kWの急速充電器に繋がれるフォルクスワーゲンID.バズ

英国のサービスエリアは、気分が良くなる場所とはいえない。トイレは混んでいるし、ゴミ箱は溢れかえっている。友人の結婚式の翌日でも、妻と喧嘩しそうになる。その農家が営むカフェは、筆者の望み通りの場所だった。

好奇心旺盛な地元の人との会話を楽しみながら、充電をこなす。走行で汚れたID.バズは、年代物のT4ヴァナゴンより、年季が入っているように見えた。

カフェでは、焼きたてのソーセージロールと熱々のスープ、地元の果物で作られたジャムが待っていた。ID.バズが満たされるのを待つのに、理想的なラインナップだ。

珍しくないコーヒーチェーンで、休日の時間を潰すのはもったいない。暇つぶしに眺める、スマホのバッテリーが急激に減る心配もない。

54kWhぶんの電気代は、40.4ポンド(約6500円)。筆者と同行するフォトグラファーの胃袋に入った料理の値段も考えれば、サービスエリアより高く付いたことは事実だが、旅行のイベントの1つとして考えれば支払う価値はあるだろう。

この続きは後編にて。