「日本人よりハードワークの外国人」「チームで浮かないスピードスター」平畠啓史さんが今季J2で気になる選手を紹介
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日本屈指のJ2ウォッチャーである平畠啓史さんの、シーズン途中での中間報告。ここでは平畠さんが今季気になっている、リーグを盛り上げている選手たちを紹介してもらった。
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平畠啓史さん注目のひとり、水戸ホーリーホックの前田椋介
前田椋介
(水戸ホーリーホック/MF/170cm、61kg)
体はそんなに大きくないんですが、まずボールを取られない。スムーズにボールを運んでくれます。
大卒で福島ユナイテッドFCに入った時は、右サイドをやっていました。しばらくやっていたので、僕のなかでサイドの選手のイメージがありましたが、昨年テゲバジャーロ宮崎に行って、千布一輝選手と一緒にボランチで組んでやっていました。その時に「前田選手こんなにうまかったんだ!」と気づいて自分の眼力のなさを感じました。
昨年のパフォーマンスを見たら、今年カテゴリーをあげるのは当然。水戸のようにアグレッシブで縦への力が強いチームのなかで、横に行ける選手。みんなが前に行こうとするからこそ、横に行ったり、斜めにボールを運べたりできる選手が中央にいるのは大事なことだと思います。
試合を見ていると、1試合のなかで何回も「うまい!」と思える瞬間がありますね。小さい選手が大きい選手を翻弄しているのって見ていると気持ちいいじゃないですか。相手の大きいボランチがガツンとつぶしにきたのを、ヒョイってかわしたりする瞬間っていいですよね。そういうプレーが見られる選手です。
水戸らしい戦うプレーも見せてくれるんですが、それだけじゃない選手です。
チームのなかで浮かない速さ太田修介
(FC町田ゼルビア/FW/176cm、70kg)
サイドの選手で、ただ速いとか突破できるとかそういうレベルじゃなくて、プレーをやりきってしまうすごみがありますね。
今年は本当に強烈ですね。これまでは途中出場でピッチに変化を与える役割が多かったと思うんですが、今は試合の頭から出て縦も中も斜めもあってコンビネーションもしっかりしている。
足の速い選手のなかにはコンビネーションを使いきれない選手っていると思うんです。自分ひとりで行く時はいいんですが、周りの選手と絡んだ時に化学反応を起こせない選手。でも、太田選手は周りをうまく使いながら、自分のスピードも殺さずに活躍できる。
だから、チームのなかで浮かないんですよね。足の速い選手ってたまに浮いてしまう時があるじゃないですか。「10人と速い人」みたいな。太田選手は『11人のなかの速い選手』になっている。周りを生かしながらのプレーもできるし、ひとりでの打開もできる選手ですね。
左サイドで魅せるアタッカー沼田駿也
(レノファ山口/FW/173cm、67kg)
ひとりで左サイドを崩していける選手。左サイドを自分の持ち場に変える空気感を持っていますよね。僕と同じ大阪府高槻市出身で、関西大学出身なので応援しています。
太田選手とも重なるところはあるんですが、ひとりでも突破できるし、周りとの連携でも突破できます。うしろの橋本健人選手と横の田中渉選手とのコンビネーションがすごい。
周りがいる時はしっかり生かして、自分が周りのためにドリブルのコースを作ってあげることもできる。今の時代のサイドアタッカーにとって大事な要素を持っています。
あとレノファって両サイドがライン際に張り出すんですが、チャンスの時にはゴール前の中央にも顔を出しているんですよね。しっかりゴールの嗅覚も持っています。
試合に出ていないけど、ゲームに加わっている
藤嶋栄介
(モンテディオ山形/GK/186cm、80kg)
阿部航斗
(アルビレックス新潟/GK/186cm、82kg)
ふたりとも試合に出ていないんですけど、ベンチからめちゃくちゃ積極的にゲームに加わっている。個人的には、これはすごく大事なことだと思っているんですよ。
キーパーって特殊なポジションで、鉄板の第1GKが生まれてしまうと第2GKは仕事がないじゃないですか。プロだから、ある意味拗ねてもしょうがないと思うんですよ。『なんだよ』ってなっちゃいがちだと思うんですが、阿部選手も藤嶋選手もピッチに向かってめちゃめちゃ声出したりしてるんですよ。
この前山形で面白かったのが、選手交代の時に監督が交代選手を呼ぶじゃないですか。その時になんでかわからないですけど、藤嶋選手もその交代選手のうしろについていくんですよ(笑)。同じように監督の指示を聞いて「うん、うん」って話聞いて、「よっしゃ行ってこい!!」って送り出すんです。
それを見て、この選手すごいなと。プロの選手たちって個人事業主の集まりですから、人のことなんて知らんっちゃ知らんじゃないですか。だけどこういうキャラクターの選手がいるチームって絶対強いんです。
新潟の阿部選手も、チームがなんか元気ない時に、ピッチ脇からものすごい声出しているんですよね。ゴールシーンやちょっと微妙な判定の時とかも一番反応が早い。サブなんですが、ちゃんと試合に加わっているんですよね。
GKってフィールドプレーヤーよりもその日試合に出られない可能性が高いじゃないですか。だけど試合にちゃんと加わっているのは大事なことだと思います。そういうシーンが中継のカメラに映った時は、うれしくなるんですよね。ちょっと僕がサッカーを見すぎてるのかもしれませんが(笑)。
そういうシーンを見られた時、勝手に「この人はいい人に違いない」って決めつけてます(笑)。
※本記事取材後の7月24日に藤嶋選手は左ヒザの大ケガを負い、クラブより全治6カ月との発表がありました。回復をお祈り申し上げます。
"こてこて"にやらないけどうまいチアゴ・アウベス
(モンテディオ山形/MF/177cm、72kg)
この選手うまいんですが、"こてこて"にやらないんですよね。「俺うまいでしょ」みたいなひけらかす感じはなくて、普通に技術を出す。あまりわがままな感じも出しません。
ベガルタ仙台とのみちのくダービーでは、最前線のワントップで使われた時も変わらずうまさを見せていました。前からいい選手だと思っていましたが、その試合でよりうまさを感じましたね。
組織のなかで浮かずに、自分の技術を活かせる選手。山形はケガ人が多く出た時期があり、選手構成が大変になっていましたが、そのなかでチアゴ・アウベス選手は、使われるポジションを変えながらもうまさを出していますね。
チームカラーに合った外国人選手ミッチェル・デューク
(ファジアーノ岡山/FW/186cm、84kg)
体が強くてハードワークできる選手。岡山に来る前から、岡山に合っている選手だとずっと思っていたんですよ。
そのチームのカラーに合った外国人選手を連れてくるというのは、本当に大事なことですね。どこのリーグで何点とったとか、ブラジルの有名なクラブにいましたとかじゃなくて、そのクラブに合う外国人選手。
デューク選手は、チームのやり方もそうなんですが、岡山のお客さんが"ファジアーノ岡山で見たい選手"という感じがします。泥臭いけど頑張ってプレーするとか、ぎりぎりだけど体を張って飛び込むとか、走って守備に戻ってアタックするとか。
清水エスパルスの時も、外国人選手っぽい圧倒的な技術で黙らせるというより、日本人選手よりもハードワークする泥臭さを見せていました。90分バランスよく戦うというより、80分で力尽きても頑張って走って守備をするみたいな。お客さんも感情移入して「頑張れ!」ってなってましたよね。
だから岡山に入ると知った時は、絶対合うと思っていました。いい選手が来て、本当にウィンウィンの関係だなと思います。