「矢印は縦方向に」全身全霊のプレーを追求し、“相馬アルディージャ”の逆襲が始まる
5月26日、クラブは霜田正浩前監督を成績不振で解任し、同時に相馬直樹新監督の就任を発表した。昨季は鹿島アントラーズを率い、川崎フロンターレやFC町田ゼルビアで指揮した経験などを買われ、天皇杯を含めて7連戦のさなかの交代劇。相馬監督はわずか2日の準備期間で、28日の5連戦目、初陣の東京ヴェルディ戦へ臨むことになった。
1−1の引き分けに終わった東京V戦の2日後、相馬監督は就任会見で、時間を割いた守備指導の重点ポイントについて言及した。
「私が代わってきたなかで、チーム全体に期待を持ってもらうためにもアグレッシブな姿勢を見せたい。無闇にただ取りに行くのではなくて、整理されなかでボールにしっかりとアプローチできる、ファーストディフェンスがしっかりと決まって、そこでしっかりと戦える。カバーがいるから思い切って行けるというような状況を作りたい」
そうやって短い時間で落とし込んだ戦術を、選手は東京V戦で体現。1点を追う後半は特に顕著で、かつ、コンパクトな陣形は攻撃にも生きた。
ペナルティエリア内に入る人数が増え、前線の選手の孤立感も減少。エースの河田篤秀は相馬監督から「守備のときも攻撃のときも選手の距離を近くする、とずっと言われている」と話す。「ボールを前に運べているときは当然、距離を近くすれば選手たちもああなる」と好影響を口にし、攻守一体とばかりに攻撃の厚みも増した印象があった。
58分の同点のシーンは、久々にスタメンに抜擢された選手が絡んだ形。“12試合ぶり”の山田将之が起点となって、最後は“8試合ぶり”の奥抜侃志が仕上げた。相馬監督の「チームが変わるためにエネルギーのある選手を使った」との起用に応え、奥抜は「ヤマ君と一緒に頑張りたいと思って、それがゴールにつながってよかった」と振り返る。
東京V戦は、“相馬アルディージャ”の所信表明だったと言える。
原博実フットボール本部長は自身が選び、早稲田大学の後輩でもある指揮官の初陣に「ファーストディフェンダーの寄せの迫力がまず違う。距離がみんな近くにいるので、誰かがミスしても、すぐカバーできる」とうなずく。その変化は練習でも見られ、「明らかに強度と激しさと運動量、切り替え、連続性は変わってきている」との手応えを得た。
確かな一歩を踏み出し、より高みへ。相馬監督は「我々のスタンダードをもう1段、2段、できれば3段と上げていこう。そこにそろえて行こうとのイメージで選手たちに話している」とチームの力に期待。就任会見では、目標を引き続きJ1プレーオフ圏内の「6位以内」と定め、残り23試合で首位の仙台と同じ1試合平均で勝点2の上積みを狙う。
今後に重視していきたいことにも触れた。
「アグレッシブな、見ている方にもそう思ってもらえるようなサッカーがしたい。矢印は横というよりは縦方向になる。後ろよりは前っていう、それは攻撃をするにしても、守備をするにしても。今の選手たちを見て十分できると思っているし、それぞれのパーソナリティがあるので、どう組み合わせていけるか」
補強についても注目が集まる。相馬監督は「本当に食らいつこうとしている彼らを信じたい」と指導者、指導法が変わっても奮闘する選手たちを信頼。「そういうなかでエネルギーを出していってくれること、それによって必要なことが変わってくる。補強かもしれないし、それ以外でも必要なことが出てくると思う。今、何か問うことでは全くない」。
相馬監督は現役引退時から思うことがある。選手を満員のスタジアムで「プレーをさせてあげたい」ということだ。
Jリーグ創設から2年目の1994年、鹿島に加入。左SBで活躍して絶頂期を知る。現在はコロナ渦で、また当時とは取り巻く環境も違うが「満員で熱量があふれるようななかで、試合が終わったらピッチで何をやったか覚えていないくらいに無我夢中になれる」瞬間を味わってほしいと願う。そのためには勝敗のほか、「地域の方々に愛される」チームづくりも意識する。
「特に大宮は(同じさいたま市内に)浦和さんがいる。J1同士で戦えない状況だが、それでも誇りを持って我々を応援していただけるように」と心掛けていく。まずは「『これぐらいでいいだろう』ではなく、『これしかない』」という全身全霊のプレーを追求。そして、「大宮アルディージャに関わる人に笑顔を届けたい」と。
それは新しい旗印となって、“相馬アルディージャ”の逆襲が始まる。
取材・文●松澤明美(大宮花伝)
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