一件落着したと思われた東北道・佐野サービスエリア(SA)のスト騒動に、再び暗雲が立ち込めている。9月22日から現場復帰していた加藤正樹総務部長(45)ら従業員側が、ストライキに再突入するという“苦渋の選択”を余儀なくされようとしているのだ。

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「この数週間、ずっと耐えてきました。復帰して、しばらくすると新社長から『あなたは辞めるべきだ』と言われるようになり、夏のストライキが違法だとして組合側に1日あたり800万円の支払いを求められています。さらに、会社から取引先への支払いも滞っていて、スト前の状況に逆戻りです。このまま働き続けることは出来ません。11月1日までに状況が改善されなければ、我々は再びストライキを実施すると決断をしました」(加藤氏)


再び労使対立が明らかとなった佐野サービスエリア ©文藝春秋

 年間170万人が利用する「佐野らーめん」が名物の佐野SA(上り)をめぐっては、店舗を運営する「ケイセイ・フーズ」による加藤氏の不当解雇を発端に、岸敏夫社長(当時)と従業員が対立し、お盆休み真っ只中の8月14日に従業員がストライキをする事態に発展。労使交渉は長期化していた。

 しかし、9月下旬になって新規スタッフの募集が難航するなどした会社側の態度が急変することになる。岸社長が退陣し、代わって就任した福田紳一・新社長に乞われて、加藤氏ら従業員の復帰が決まった。39日間に及ぶ前代未聞のストは、これで解決したようにみえた。

スト終結後の売上は30%増

 復帰当初は順調だった。佐野SAの支配人、井原永治氏(51)は当時、「週刊文春デジタル」の取材に笑顔でこう明かしていた。

「たくさんのお客さんに『よかったですね』と声を掛けられて、仕事ができることに感謝しながら従業員とがんばっています。ストライキ前は近くの蓮田SAがリュニーアルオープンした影響で佐野SAの売り上げは下がっていましたし、ストでお客様にはご迷惑をお掛けしたのですから、客足が戻るには相当な時間がかかると予想していました。ところが、スト終結後、1週間の売上は30%近く上がった。お客さんには感謝の気持ちしかありません」

 10月12日から13日には、台風19号の上陸で佐野市内を流れる秋山川の堤防が決壊。周辺は甚大な被害が出て、佐野SAの従業員も自宅が床上浸水したり、車が水没するなどした。その影響で一時は従業員が足りず、軽食コーナーやレストランのエリアを縮小して営業していたほどだ。

 ただこの頃には、すでに労使関係は再び深刻化していた。

「福田新社長の良い評判を取引先からも聞いていましたし、会社側の弁護士から出されていた私への退職要求の書面についても、福田社長は『そんなこと、私が言うはずがないですよ』と言ってくれて、完全に安心してしまった。しかし、復帰に尽力してくれた仲介者が組合と会社の双方に都合が良い話していたこともあって、話がこじれていった。

 その結果、福田社長と具体的な労使の合意を進めようとすると、時間稼ぎをされているとしか思えない対応をされ、書面1枚交わせないまま1カ月が経過してしまいました。その頃には、従業員たちのいる前で『加藤の退職を要求する』と強い口調で言われるようになり、復帰当初の発言は嘘だったのだと疑わざるを得ない状況になってしまいました。

 もちろん口頭による合意だけで職場に戻ったのは『迂闊だったのでは』という意見が多くあるのは認識しています。ただ、私が供託していた組合資金1500万円が完全に底を尽き、従業員の生活を考えると、書面での確認など二の次になってしまったというのが正直な気持ちです」(加藤氏)

労組に対して損害賠償も検討

 損害賠償について、ケイセイ・フーズ側は代理人弁護士名で、労組側に通知書を送付していた。その中で、会社側は次のように主張している。

〈団体交渉を経ないストライキや事前の予告のないストライキは正当性を欠き違法なものです〉
〈不法行為によって甚大な損害を蒙り、その額は、本件ストライキが決行されている期間1日当たり少なくとも800万円を下らないと見込まれます。(略)貴組合及び貴組合の執行委員長である貴殿個人、その他本件ストライキの決行の意思決定をした者に対して、しかるべき法的手段を講じます〉

 ストライキが続いた39日間で計算すると、総額3億1200万円にもなる。事前通告なきストライキについて、加藤氏は次のように説明する。

「組合には従業員のほぼ全員が加入しており、そのほとんどがストにも参加しているので適正なストライキと言えます。労働委員会に『争議発生届』も提出しました。会社側は事前通告がなかったと指摘していますが、私たちの弁護士曰く、『通告なしでも適法とされたストライキの裁判例はこれまでに複数存在する』とのこと。会社側は我々のストライキを認めれば損害賠償の請求はできなくなり、私に対しても不利益変更はできないので元の役職に正式に戻さなくてはならない。だから認めたくないのではないでしょう」

 加藤氏はいまや「総務部長が本来持つ権限は大抵剥奪されている状態」だという。

「岸前社長は9月末に退任しましたが、岸京子夫人は今も代表取締役会長です。銀行の新規融資は凍結されたままで、取引先への支払いも滞り、我々が戻って取引を再開した業者は数えるくらいしかない。その上、複数の大口取引先からは支払いの催促もされています。今の私には、会社のお金回りを確認する権限もありません。取引業者に『本当に支払いは大丈夫ですか?』と聞かれても、『わかりません』としか言えません。

 私は福田社長からは『自発的に辞めてくれ』『あなたのやっていることは従業員の雇用を失わせるものだ』という言葉を何度か言われています。私は『身の振り方は従業員の皆に相談した上で決める。自分一人では決められない』と返答しています」(加藤氏)

加藤氏が会社に送った「要求書」の中身

 さらに会社側は、佐野SAを管轄するネクセリア東日本(東北道を管理・運営するNEXCO東日本のグループ会社)に対して“労使円満”であることを強調しているという。というのも、ケイセイ・フーズとネクセリア東日本の業務委託契約は来年3月で切れる。その契約更新の交渉リミットが迫り、現在両社は契約更新について交渉を続けている最中なのだという。

「組合と会社の労使問題は何も解決していない状況なのに、福田社長はネクセリアに『全部解決して前向きに頑張っています』と、嘘の説明しながら契約交渉を進めている。このまま業務委託契約が更新された場合は、岸前社長の夫人ら旧経営陣が来年4月以降も残る可能性があり、従業員からすれば恐怖でしかありません」(加藤氏)

 そんな状況を受けて労働組合は10月27日に臨時大会を開き、ケイセイ・フーズに対して同日付で以下のような要求書を送った。

〈2019年8〜9月に実施されたストライキ(以下、本ストライキと呼ぶ)について。
(1)本ストライキを、「各種法律で守られる正当な争議行動」と認めること。
(2)会社側は、本ストライキに関し、あらゆる損害賠償及び不利益取り扱いを行わないこと。
(3)人事と職務権限と業務内容について、本ストライキ前の状況に戻すこと。
(4)取引先と岸元社長並びに福田社長が交わした約束(特に支払いに関する約束)について、守られていない状況にあるものについては、支払いを完了させること。
(5)2019年7月20日の労使交渉で合意した従業員の過去の給与(分単位の支払い分)について、支払いを完了させること。
(6)2020年3月末日まで、岸京子氏、A氏、B氏、C氏など、いわゆる「本社組」による業務介入は一切行わないことを約束すること。
 以上、全ての条件が守られない場合、2019年11月1日から、毎日午前7〜8時、佐野SA上り線レストランに限り、ストライキを実施します〉
(編集部注:A〜C氏は原文では実名)

11月1日から早朝ストか

 10月29日には福田社長から労組側に連絡があり、取引先への支払いについての「4」、スト前の従業員への給与一部未払いについての「5」の要求については応じる旨の回答があったという。しかし、他の4つの要求については依然として回答がない。

「この1カ月間、ストライキ無しで交渉を続けましたが、書面の1枚も交わしてもらえなかった。それが最小限のストライキを通告したことで、すぐに要求のうち『4』と『5』は解決できました。今回のストライキは11月1日以降、レストラン限定で、毎日午前7時から8時の1時間のみ。お客様がゼロという日も多い時間帯で、フードコートは通常通り営業します。お客様にはできるだけ迷惑をかけないよう、最大限の配慮をした上での苦渋の決断です。ご理解いただけるとありがたいです」(加藤氏)

 この夏経験したストライキという悪夢は繰り返されるのか。緊迫した状況はいまも続いている。

(「週刊文春デジタル」編集部/週刊文春デジタル)