交流戦はパ・リーグが10年連続勝ち越しを決めた【写真:荒川祐史】

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昨季交流戦1位のヤクルトでコーチを務めた野口氏が解説、パの強さとは…

 4日に始まった「日本生命セ・パ交流戦 2019」は、パ・リーグが10年連続勝ち越しを決めた。これまで15度の開催で、セ・リーグが勝ち越したのは2009年の1度だけだ。

 なぜパ・リーグがこんなに強いのか。この時期に毎年、話題になるテーマだ。現役時代にヤクルト、日本ハム、阪神、横浜の4球団でプレーした野球解説者の野口寿浩氏は、昨年はヤクルトのバッテリーコーチとして交流戦勝率1位に輝いた。パ・リーグとセ・リーグの違い、そして、パ・リーグのチームに勝てた理由とはいったい何なのか……。

 野口氏が真っ先に挙げたのは、両リーグの打線の違い。これまでも多く語られてきたことだが、パの打者の豪快なスイングは、セの打者にはないものだという。

「やっぱりセ・リーグのチームの打線とパ・リーグのチームの打線を比較したときに、パ・リーグのほうがとにかく振る。あれだけ振られると、ピッチャーも嫌ですよね。そうなってくると、ちょっと怖いなというところでフォアボールが出てしまう。そうなると、どんどん苦しいピッチングになってきて、結局、苦し紛れに投げた球をバカンといかれてますよね」

 今年の試合を見ていても、こういったケースが多かったという。

「キャンプの練習量とかも関わってきているかもしれません。元々、能力の高い選手がパ・リーグに集まっていると言ってしまえばそれまでかもしれませんが、練習量とか、打席に立っているときの考え方の根拠とか、そういうものがないとあれだけ振れないと思います。そういうところが、パ・リーグの方がしっかりしてますよね。セ・リーグの選手でパ・リーグの選手みたいに振るのは、外国人選手を含めても、(ヤクルトの)バレンティンぐらいしかいないのではないでしょうか。やはり打線が違う。その中で常日頃から投げているピッチャーは、自然と鍛えられてくる。それだけ振り回してくるバッターに対して(ストライク)ゾーンの中で勝負できる球を持っているピッチャーも多いし、振ってくるバッターに対してどうするかという術ももっているという印象を受けます」

 豪快なスイングをする選手が、日頃からしのぎを削るパ・リーグ。そして、強打者が投手も育てる。そんな好循環があると、野口氏は言う。

ヤクルトは昨年、どのようにしてパ・リーグの強打者を抑えたのか

 だが、球団ごとで見ると、その年によって交流戦で好成績を収めるセ・リーグのチームもある。昨年のヤクルトはまさにそれだった。12勝6敗と6つの貯金を作り、勝率1位に。昨年、セ・リーグで勝ち越したのはヤクルトだけだった。1軍バッテリーコーチを務めていた野口氏は、どのようにパ・リーグの打者を抑えようとしたのかを明かす。

「去年のヤクルトが成功したのは、それ(スイング)をなるべくさせないように、バッターの嫌がるところに球を配すことができからです。どれだけ振ってもインコースが苦手なバッターはいるわけで、怖がらずにどんどん(内角を)突いていった。そうすると、インコースを意識してくれて、外角のストライクからボールになる変化球をどんどん振ってくれた。去年うまくいったのはそういう形で、ヤクルトだけは貯金を6つ作れました」

 とにかく“スイングをさせない”――。そのために、怖がらずに内角を突くことは不可欠だったという。もっとも、これがセ・リーグ勝ち越しの“セオリー”になるかといえば、そうとは限らないとも野口氏は指摘する。

「去年、ヤクルトが成功した方法は短期決戦用。例えば、ヤクルトがパ・リーグのチームになったとして、1年間それをずっと続けることができるかと言ったら、それは無理でしょう。交流戦という、1か月間しかなくて、しかも1チームと3試合しかやらないという、そういう試合だからこそできたものだと思います。交流戦の戦い方として間違ってないのかもしれないですが、全球団がそれをやったところでうまくいくとも限らないとは思います」

 もちろん、各球団にとって「リーグ勝ち越し」というのは、目標ではないかもしれない。自分のチームがしっかりと貯金を作ることが重要で、ペナントレースを考えれば、むしろ“独り勝ち”というのが理想的なのかもしれない。ただ、15年でパ・リーグが14度勝ち越しという状況は、セ・リーグにとって不名誉な記録であることは確か。それでも、昨年のヤクルトの戦い方は一つのヒントにはなるものの、セ・パの“立場”が逆転することはしばらくないのではないかと、野口氏は言う。

「去年はたまたま、バッターの嫌がることが『インコースを意識させて、外の変化球を活かす』というところでしたが、それは対戦チームにもよりますし、投げるピッチャーにもよります。バッターが嫌がる内容はそれぞれ違うので、去年のヤクルトのような勝ち方をしようと思ったら、そのやり方を各チームが毎年しっかり見つけていけるかどうか、となります。なので、(根本の解決策としては)セ・リーグ球団が同じような方向で追いかけていかない限り、交流戦で毎年パ・リーグが強いというのはしばらく続くんじゃないかなと思います」

 選手や首脳陣にとっても、応援しているファンにとっても、6月に負けが多くなるという現状は決していいものではないはず。来季以降、セ・リーグは“意地”を見せられるだろうか。(Full-Count編集部)