DSC09115

写真拡大 (全44枚)

マジでホントに野球場しかない!

スポーツツーリズムという言葉をご存じでしょうか。スポーツ観戦を旅の主目的としつつも、どうせならついでに周辺観光も楽しんじゃおうという楽しみ方のことです。Jリーグのアウェー観戦とか、海外の試合への遠征なんて、まさにスポーツツーリズムって感じですよね。

そういうことをキラキラした女子がやっていたものですから言ってやったんです。「西武ドームに行け!」って。都会からちょっとしか離れていないのに、圧倒的な旅行感がある我が埼玉西武ライオンズの本拠地こそ、スポーツツーリズムの終着駅って感じじゃないですか。しかし、一向に女子たちは行く気配がない。

「仕方ない、自分で行くか…」

まず埼玉西武ライオンズの本拠地・西武ドームですが、こちらは埼玉県に広がる秩父山中の入り口にあります。よくこの話をすると「アソコは秩父山中じゃないです。狭山丘陵です」って言い出す人がいるんです。人間って勝手ですよね。富士山の周辺はどこまで行っても「麓です」って顔してるのに。ということで秩父山中でいきます。

アクセス方法はクルマか電車。オススメは行き帰りに気が滅入る電車です。一般的には池袋駅から西武池袋線で急行・飯能行きに乗り、西所沢で乗り換えて西武狭山線・西武球場前駅行きに乗車というルートですが、ちょっと余裕のある方は400円で得られる旅行気分・特急レッドアロー号に乗るでしょうか。プロ野球開催日は池袋から西武ドームまで直通の特急電車が運行されており、西武球場前駅までの所要時間は約35分です。

普通の電車に乗っても40分くらいで着くので、乗る意味ってほとんどないんですけど、「西武線に乗る電車が少しでも短くて済む」と思えば400円は決して高くありません。できるだけ車窓に流れる景色を見づらくしたいですからね。見ると「ワシ、これからどこに運ばれるのやろ…」と気が滅入るので。

ただ、スポーツツーリズム的なオススメは目一杯気が滅入る別ルート。JR中央線国分寺駅から西武線多摩湖線に乗り換えて西武遊園地駅に向かい、さらに西武山口線に乗り換えるルートです。コチラのルートですと、西武遊園地周辺に漂う底知れない廃墟感と、西武山口線(通称レオライナー)の車体全体から発する「過去」の匂いによって、「ワシ、これから大変なとこに運ばれるの確定やで…」という気持ちを味わえますので。

<読む気もしないけど、客にメリットのないことが書いてあることだけはすぐわかる、入口にふさわしくない遊園地の立て看板>


<西武山口線、通称レオライナー。ディズニーランドとディズニーシーを結ぶモノレールの「廃墟版」といった存在>


<ちなみに車両を製造したのは新潟鉄工で昭和60年の製品。昭和60年ってのは1985年のことです。時、止まってるぅ!>


<開けたことないけど、窓も開くぞ!>


<レオライナーで折り返して遊園地へ向かう人向けに、気が滅入るお知らせ再び>



「西武遊園地駅からは長い階段があるので、ベビーカーと車イスは隣の駅で降りろよ!」と現場対応に解決策を求める方針!

階段を直すか、駅名を変えたい!

バブル後25年の検証 [ 竹中平蔵 ]

価格:2,592円
(2017/10/16 02:26時点)
感想(0件)



現地に到着すると、そこはもう球場の目の前。駅からの徒歩アクセスは1分もかかりません。もちろんスタジアムグルメなども充実しているのですが、今日はあえて外食を求めに行ってみます。「ダメだ!やめろ!」「何もないわよ!」「球場内が一番充実してる!」という声が聞こえますが、スポーツツーリズムは外に出ないとですよね。

まず球場に面した道路のほうに出ますと、目の前にファミリーマートと中華居酒屋「味亀」が見えます。薄い記憶では昔は焼肉屋もあった気がするのですが、今はもうありません。ちなみに今回の散策で見つけられたコンビニはこの一軒だけ。「ザ・ラストコンビニ」「地の果てのファミマ」「コンビニの北限」と心ないインターネットで呼ばれるのは、この店のことです。待ち合わせスポットにもオススメですよ。一軒しかないので。

<さすがザ・ラストコンビニ!いつ行っても長蛇の列。なので、買い物は乗車前に済ませましょう>



西武ドーム周辺の散策と言えば、通常はここまで。コンビニに行った時点で見通しのいい道路にそって、かなり遠くまで見渡せるのですが、見渡したときに「何もないな…」とわかってしまうのです。見える範囲ずーっと何もないので、みんなココで止まってしまうんですね。しかし、今回はあえて先へ進んでみようと思います!

<コンビニに向かう道路を左に折れて、「山の上のほう」へ向かう。西武鉄道ですら電車をひかなかった方角には何があるのだろうか?>


まず見えてきましたのはホテル観音閣。この付近には山口観音という観音様がいらっしゃるそうで、それにちなんだのでしょうか。東京ドームに東京ドームホテルがあり、ディズニーランドに東京ディズニーランドホテルがあるように、西武ドームにはホテル観音閣がある。遠隔地からお越しの場合は、帰りの電車が間に合わないので、一泊するのもいいかもしれません。トータル的には「間に合う時間に帰る」「来ない」のほうがコスパは高いかもしれませんが。

<ディズニーランドで言えばオフィシャルホテル相当?の西武ドーム散策にオススメのホテル>


<ホテル周辺には和風食堂なのにいきなりラーメンを推してくる飲食店兼お土産もの屋も>


<佇まいを見たら、入る気にならずスルー>


<ホテル周辺には釜飯などを提供する割烹狭山なる店も存在>


<しかし、野球客をあえて拒むように、誠に勝手ながら土日は予約制。勝手だな…>


<これら飲食店の先に進むと、球場から徒歩3分ほどで「もう行っちゃダメ」な感じの見た目に>


最後の民家らしきものを横目に、強い心で先へと進んでいきます。左手にはだだっ広い西武の駐車場。それを越えると緑の工場みたいなトタンの建物が見えてきます。壁に木の絵なんか描いちゃって、周辺の森に溶け込もうとしているその建物こそが、老朽化で知られる西武ライオンズの室内練習場です。試合をやっていない時間はカーンカーンと何かを叩く不気味な音が聞こえてきますよ。

<西武の室内練習場は、イヤというほど木なんか生えているのにあえて木の絵を壁に描く>


<腐りかけの土台>


<打ち捨てられた網戸>


室内練習場のさらに先へと進むと、周辺はじょじょに険しさを増していきます。「崩落の恐れあり」と警告する看板や、大量に積み上げられた謎の土嚢。「これはもうダメだ…」と思っても、まだ諦めてはいけません。さらに先に進んでいくと人の気配というか、民家の気配のようなものが感じられるはずです。

そうです、清宮家のお父様からも「ウチの息子を住ませる場所ではない…」という冷たい視線を向けられた、あの有名な若獅子寮があるのです。土嚢・崩落・若獅子寮。なんだか、老朽化云々とかが問題じゃないなって気もしてくるような場所に、ソレはひっそりと建っているのです。

<崩落の恐れがある道>



<積み上げられた土嚢>


<人の侵入を拒むかのように、息をひそめて建つ若獅子寮>



<ゴミを捨てていくヤツが多いのか、警察がごみ捨て禁止の看板を設置するも、残念ながらコレも老朽化してゴミのよう>


<選手の脱出を拒むかのように塀に設置された罠。錆びているので怪我すると危険>


<どうでもいいけど、このへん何もかもが錆びてる。錆びてるガードレール>


「新居」とか「新生活」ってコレで感じるのかな?

引っ越し先で竪穴式住居とかあてがわれて、「あぁ、新生活だな!」って思うかどうかというと、思わないんじゃないのかな?

お金自分で払うからワンルーム借りてそこから「出勤」したい!

都心の小さな家・マンションに住み替える コンパクトで快適、自由なこれからの暮らし [ sumica ]

価格:1,620円
(2017/10/16 02:30時点)
感想(0件)



外から見る若獅子寮は、放置された保養所か昭和の市営住宅のようでした。プレハブではないものの、いかにも設備は古く、窓のサッシや鍵、傾いたエアコンの室外機、屋根からはがれた雨どい、ひび割れた壁などに残酷な時の流れを感じさせます。今どきのマンションだと、外からサッシを破ると警報が鳴るそうですが、たぶんそういったものもありません。

この周辺のすべてが、1980年代の夢をそのまま現代に伝えているかのようです。西武帝国を支配する世界一の富豪が、何もない場所にゼロからすべてを作り上げ、夢の楽園を築いた。しかし、夢は破れ、帝国も滅びた。言うなればこの一帯は「旧・堤義明帝国跡地」なのでしょう。あのときの「最新鋭」が時を止めたまま、そこに佇んでいる。その意味では首里城とかピラミッドみたいな「遺跡」でも見る感じで歩くといいのかもしれません。30年って、何かが生まれ、そして滅びる時間なんですね…。

さて、若獅子寮を過ぎると、今度こそ本当に何も見えません。クルマは先へと走って行きますので、道と文明はあるのでしょう。しかし、ローマと中国の間に道があるからといって、ローマの端まで行ったら基本的には引き返すのが人間というもの。「つながっている」と「行く」とは別問題です。しかし、今日はあえて行きます。

<この先に行っても何もなさそうだが…>


<道端に何やらアヤしい階段を発見。何があるだろうとのぼってみると…>


<行き止まりでした。何だこの階段>


<足元に目を落とすと木の実が。山の神が「山越えは難義じゃぞ。メシはないぞ。食え」と言っているのだろうか…>


<立派な碑石!と思いきや、どこかの学者先生が死んだことを悼むもので観光関連ではない>



しばし進むと、完全にクルマ用の道へと周辺の雰囲気は変わっていきます。一応、歩ける道はあるものの、横断用の信号などはなくなり、歩行者の通行にはすこぶる不便です。それでも、ごくごく少人数の歩行者がさらに奥地を目指して進んでいます。ひるむわけにはいきません。たとえそれが「砂漠にも凍土にも住んでいる人はいるからねぇ」みたいな話だったとしても、です。

<地震時などは注意して通行せよ、という「どうすりゃいいのか」まったくわからない自己責任論を押しつける看板>


<歩行者はコッチの階段を降りて遠回りせよとのお達し>



<するとそこには薄暗い湖が広がっていた!!何これ楽しそう!!自殺者もいそう!!>


<しかし、この湖は立ち入りも釣りも禁止です。つ、つまらん…>



<ゴミの持ち帰りをうながす看板の、顔部分だけをえぐりとるという現地民の闇>


<湖を横断した先には再び階段が。この階段をのぼれば集落が見えるかも!>


<と思いきや、再び「道」>


数人の人間がさらに先へと進んでいきます。何もなさそうに見えるけれど、歩いているのだから民家くらいはあるのでしょう。ここまできたら、何か見つけるまでコチラも帰れません。カバンに詰め込んだリッツだけが僕の頼り。はたして、このわずかな食糧で、この冒険は成し遂げられるのだろうか。震える心を鎮めるように、「アッアッアッライオーンズ!」とか「ウォウウォウウォウライオーンズ!」とか松崎しげるさんのモノマネで球団歌を唄い、険しい道を進みます。熊避けのつもりです。

<クルマでも通れそうな立派な歩道は、自転車歩行者兼用とのこと>


<高山鉄道とか通ってそうな橋>


<死体が置いてあってもしばらく気づきそうにない竹林>


<本当に死体でも遺棄されてそうな警察のテープ>


<山火事に注意せよ、という「どうすりゃいいのか」まったくわからない自己責任論を押しつける看板>



<「新種発見」か「死体発見」かどちらかのニュースでしか注目されそうにない森>


やがて道は細く、暗くなり、ついには歩道がどの部分なのかもわからなくなってきました。もう進むも戻るも辛い…こなきゃよかった…深まっていく後悔。すると、日が落ちて薄暗くなっていく森のなかで、遠くに小さな光が見えてきました。このとき僕は生まれて初めて「あかりじゃぁ!あかりじゃぁ!」と昔話のセリフをクチにしていました。

あの灯りが何であっても、それをこの冒険のゴールとしよう。この道中、何ひとつ面白いことなんかなかったし、たぶんこの先にはさらに何もない。日が落ちるとリアルにクルマに轢かれそう。どうか、見どころのある何かであってくれ…できればこじゃれたカフェとかであってくれ…そう思って駆け寄った僕が見たものとは!

↓ラブホじゃねぇか!


国道沿いによくあるタイプの山ラブホじゃん!

相手どころか、人の気配すらないのにラブホだけ見つけたわ!

日本昭和ラブホテル大全 (タツミムック) [ 金益見 ]

価格:1,620円
(2017/10/16 02:27時点)
感想(0件)



こうして僕のスポーツツーリズムは終わりました。今きた道をトボトボと引き返し、再び西武ドームに向かう虚しさと徒労感(次の駅なんかないので戻らないと帰れない)。終わってみれば若獅子寮が最後の文明の香りで、次に見えてきたのはラブホという、ロクでもない散策でした。若獅子寮の選手が、夜中にこっそり抜け出してエッチするにはいいかもしれませんが、わざわざ見に行くようなものではなかった。

どうぞみなさん、球場から一歩も外に出ないでください。楽しいものは何もないし、楽しくないものも何もありません。ただただ何もありません。自転車でもあればサイクリングできるかもしれませんが、にしたって何も楽しくありません。あえて用途をあげるなら「箱根駅伝に出る大学の特訓」くらいです。

野球を見にきたら、野球だけを見て帰る。それが西武ドームにおける最善の過ごし方です。今まで本能的にそれを察知してずっとそうしてきましたが、あえて本能に逆らった僕に残ったのは疲労と後悔だけです。野球が終わったらダッシュで電車に乗り、すぐ池袋(あるいは国分寺、あるいは秋津)に帰る。それだけが正しい西武ドームとの付き合い方です。どうぞ、心に留めておいてください。

↓なので、すぐさま飲み会を始めたい西武ファンは、球場前の休憩所で飲み始めます!そして夜までそこで飲みます!



さぁ、みんな!おいでよ西武ドームへ!

西武ドームの「中」はそれなりに楽しいですよ!

どんなに豪雨の日でも泥まみれ続行にはならないし!

なお、主目的であった野球はめったくそに負けてさんざんでした!