調教師として初のダービーに挑む福永師とアスクエジンバラ(撮影・石湯恒介)

写真拡大

 「日本ダービー・G1」(31日、東京)

 ホースマンならば誰でも憧れるのが競馬の祭典。今年も3歳馬の頂点を目指し、31日に東京競馬場に集結するが、その中には初めてダービーを経験するホースマンもいる。どんな思いで大舞台に臨むのか−。初挑戦の調教師や騎手にスポットを当て5回にわたって掲載する。第1回は、騎手として3度の勝利はあるが調教師としては初の舞台となる福永祐一調教師(49)=栗東=です。

  ◇  ◇

 開業3年目を迎えた福永厩舎が、アスクエジンバラを擁してダービーの舞台へ駒を進める。騎手として3度頂点に立った男が、今度は指揮官として競馬界最大の栄誉を獲りに行く。

 騎手としての初制覇は19度目の挑戦だった18年のワグネリアン。20年コントレイル、21年シャフリヤールと連覇も達成したが、07年アサクサキングスや13年エピファネイアで2着に敗れるなど、苦しい時期を長く味わった。「勝てていない時は本当に意識した。『今年も勝てないのかな』と。でも一度勝ってしまえば『自分は勝ったことがある』と言い聞かせられた」と振り返る。レース前夜は眠れず、メディア対応で舞い上がってしまった経験も明かしつつ、「ダービーを勝てるか勝てないかで全く違う。有馬記念を勝っていても『でもダービーは勝ってないよね』と言われる世界だから」と特別な一戦であることは誰よりも感じている。

 開業3年目の今年は勝負の年。「4歳、3歳、新2歳と、自分たちで最初から選んだ世代がそろって稼働し始める年。ここで数字を残せなければ、実力不足と評価されても仕方がない」。1、2年目は前厩舎からの引き継ぎ馬を抱えつつ、戦略的に世代交代を進めてきた。複勝率と5着内率にこだわる姿勢は、まぐれの一発よりも「毎回5番人気以内に支持される馬をコンスタントに送り出す」という厩舎像と直結。狙い通りに厩舎力は上がり、勝利数は1年目17勝、2年目29勝と増加し、今年は全国リーディングで上位に名を連ねる。

 アスクエジンバラにとって欠かせない存在が主戦の岩田康だ。デビュー前から普段の調教に深く関わっており、「走り始めてからフォームを直すのは難しい。まだ何も知らない時期にしっかりと、ベースを作っておくのが理想」と指揮官。自身が北橋修二、瀬戸口勉両元調教師の下で「自ら乗る」哲学をたたき込まれただけに、岩田康の姿はまさに理想型。「岩田君とは馬を見る上での意見の食い違いは全くない。見ているポイントが同じだから」。騎手時代にしのぎを削ったライバルの感性、技量を間近で見てきたからこそ全幅の信頼が置ける。

 担当する中西助手は厩舎の中で最も若いスタッフで、トップジョッキーの感覚を間近で吸収する日々が続く。福永師は「岩田君が伝えてくれる感覚から、めちゃめちゃ刺激を受けて勉強させてもらっている。これ以上にない貴重な経験」と目を細める。自厩舎のスタッフだけで調整を完結させる厩舎もあるが「自分たちのやり方に固執して、変な虚勢を張る必要はないと思っている。プライドは本質的な部分で持っていればいい」。この柔軟さが、厩舎を支える土台になっている。

 そんな矢先、アクシデントが発生した。岩田康が17日のレース中に落馬で右鎖骨を骨折。19日には手術を行った。しかし23日に調教騎乗を再開。福永師は「僕のために無理をするならやめてくださいと言ったら、『いや、自分のためです』と。そうなると止めたって止まらないからね。今回のダービーでもチャンスがあると思ってくれている」と信じて手綱を託す。

 福永師の父・洋一氏のファンだったという廣崎オーナーから託されたアスクエジンバラ。デビュー前から手綱を握り、強い覚悟で戻ってくる岩田康とともに、今度は調教師として頂きを目指す。