「森保監督はチームを預けられる選手を選ぶ人」ドイツ6部で監督を務める元日本代表・岡崎慎司が考える「北中米W杯侍ジャパンの戦い」
5月15日の2026年北中米W杯日本代表メンバー発表が目前に迫ってきた。森保一監督は「ほぼメンバーは決まっています」と話しているが、気になるのは負傷離脱しているキャプテン・遠藤航(リバプール)や南野拓実(モナコ)らをどう扱うかだ。いずれにしても難しい判断になるのは間違いないだろう。
大舞台で過去最高成績を狙う今の日本代表を興味深く見つめているのが、元日本代表の岡崎慎司である。2024年5月の引退後、自らが運営するドイツ6部リーグのFCバサラ・マインツで監督業に乗り出した彼は、3月31日にイングランド戦を生観戦。聖地ウエンブリースタジアムで後輩たちが強豪国を撃破するところを目に焼き付けた。
その戦いを踏まえながら、岡崎が森保ジャパンの現状を語る。
「イングランド戦はやることがハッキリしていた」
「イングランド戦を見た率直な感想は、『相手もまだまだここからかな』と。フランスにしても、ブラジルにしても、強豪国はまだまだ模索している印象ですね。
そういう相手に対して、日本はやることがハッキリしていた。奪って早く攻めるとか、攻撃はある程度、前の選手たちに任せている感じで、特徴あるアタッカー陣が目立った試合でしたね」
イングランド戦の感想を求められて、岡崎は開口一番、こう言った。
ご存じの通り、日本は三笘薫(ブライトン)の一撃でイングランドから歴史的勝利を挙げたが、相手はエースFWハリー・ケイン(バイエルン)を筆頭に、ブカヨ・サカ(アーセナル)、ジュード・ベリンガム(レアル・マドリード)といった主力級が揃って欠場していた。しかも、岡崎の1.FSVマインツ時代の恩師、トーマス・トゥヘル監督はゼロトップ的な変則布陣にトライ。それが機能しなかったことも、日本の追い風になったのだ。
「今の日本には三笘や伊東純也(ゲンク)、堂安律(フランクフルト)といったタレントが前にいますけど、誰をどう使うかというのは、森保さんもかなり難しいと判断になるでしょう。本番になればどこかで守備を固めないといけないし、イングランド戦みたいな超攻撃的なアタッカー陣の組み合わせで行くのは難しいですからね。
もちろん見る側としては、豪華なメンバーを並べてほしいという要望はあるだろうけど、W杯を戦い抜いていくためには、誰かを温存して途中から出すような形も必要になってくる。2022年カタールW杯では三笘と堂安がその役割を担いましたよね。イングランド戦を欠場していた久保(建英=レアル・ソシエダ)も戻ってきますし、森保さんがW杯でどういう采配や選手起用を見せるのか。僕はそこに注目していますし、大いに気になるところです」
「森保さんは選考基準の線引きを明確にしている」
清水エスパルスでプロキャリアをスタートさせた後、ドイツ、イングランド、スペイン、ベルギーの海外8チームで戦い抜いた岡崎は「自分は現役である以上、代表を目指し続けます」と強調。日の丸を背負うことを目標に貪欲に戦い抜いてきた。シントトロイデンでプレーしていた前回W杯時は36歳だったが、その姿勢にブレはなかった。
けれども、今は完全に”指導者”としてチームを見ている。だからこそ、森保監督のマネージメントに自然と目が行くのだろう。
「森保さんは2018年ロシアW杯のコーチでしたし、監督になってからも2019年コパアメリカ(ブラジル)に一緒に行っているので、何度も話をしていますけど、こだわりがある指導者だなと思います。
例えば、中盤の選手に対し、『ヘディングが強くあってほしい』というように、細かい部分を強く要求しますし、選手のパーソナリティもよく見ている。『チームを預けられる選手を選ぶ人』だなと感じます」と岡崎は言う。
そういった考え方は、彼が2014年ブラジルW杯で共闘したアルベルト・ザッケローニ監督に近いのかもしれない。
「ザックさんに似ているところは確かにあると思います。ただ、ザックさんがW杯直前に大久保嘉人さんを入れたのは、今、考えるとちょっと意外でしたね。それまでベースだった選手だけで戦うと考えていたけど、『最後に自分のスタンスを変えた』と僕は受け止めたので。
でも森保さんはそういうことはしないと思います。前回W杯の時も何人も事前に外してきていますし、『この選手は使えるか使えないか』という線引きは明確にしている。そこは戦術だけではない部分かもしれないですね」
「W杯本番は我慢して戦うことが一番」
想像を絶する重圧と緊張感が押し寄せるW杯を戦い抜こうと思うなら、「この人間となら心中できる」と絶対的信頼を寄せる選手とともに戦おうとするのが監督だ。森保監督はよりその傾向が強いタイプかもしれない。長期離脱中の遠藤やベストコンディションに達していない冨安健洋や板倉滉(ともにアーセナル)にこだわり続けているのはまさにその象徴。大ベテランの長友佑都(FC東京)含め、彼らは2026年W杯に行く確率が高そうだ。
日本代表がどういう陣容になるとしても、同組のオランダ、チュニジア、スウェーデンを撃破し、ラウンド32に勝ち進まなければ何も始まらない。最新のFIFAランキングを見ると、オランダは7位、日本が18位、チュニジアが44位、スウェーデンが38位という状況だが、必ずしもその通りの順位になるとは限らない。
「日本が入ったグループは守備がしっかりしているチームが多いので、正直、相性はそんなによくないかなと感じます。日本がボールを持たされて、直近のイングランド戦や昨年10月のブラジル戦(東京)のような戦い方ができない可能性が高そうなので、我慢して戦うことが一番ですね。
相手も分析してくるんで、日本のプレスの穴をついてくるでしょうし、難易度は上がりますけど、焦れたら負け。そこで耐えられるかどうかが勝負の分かれ目になると思います」
FWの後輩・上田綺世は「もうひとつ化ける」
グループ突破のためには、手堅い守備も重要ではあるが、やはり点を取らなければ勝てない。彼が出場した3大会のうち、2010年南アフリカと2018年ロシアの両W杯はグループを突破しているが、本田圭佑や大迫勇也(神戸)らを中心に、前線アタッカー陣が結果を残したことが大きな原動力となった。
「今の最前線の軸は上田綺世(フェイエノールト)ですね。彼は僕とは違ったタイプで、体も強いし、ムリも利く。2019年のコパアメリカに一緒に行った時はまだ大学生で、あれから大きく成長しましたけど、攻守両面でチームを助けられる選手になれば、もうひとつ化けるかなという気がしています。
日本の攻撃陣は伝統的に中盤が中心になることが多いし、2014年の自分もそうでしたけど、前線で力強く引っ張れる人間が絶対に必要。ゴールも取れて、守備でも体を張れて、全部できる選手になることが今の彼には求められている。オランダのフェイエノールトでは今季、25点を取っていますけど、イングランド・プレミアリーグなどさらに上のレベルになっても同じことができるようにならないといけない。綺世はそうなれるし、W杯でも点を取ってくれる選手だと期待しています」と代表通算50ゴールという実績を持つ男は、FWの後輩に力強いエールを送る。
「生きるか死ぬか」くらいの覚悟で戦えるか
その上田を含めて今の選手たちが持てる力を結集させていくことが、躍進のカギになる。岡崎は「W杯は本当にあっという間に終わってしまう。今の世代には後悔しないような戦いをしてほしい」と切に希望している。
「代表は気持ちの部分がすごく重要。クラブでエゴの塊の選手たちが国を背負ったら一体になる。それが代表というチームなんです。
日本も今は欧州トップリーグでプレーする選手が多くて、日頃は個々の結果にフォーカスしている人間たちの集まりですけど、代表の舞台でなりふり構わずみんなで結束して戦えるかが非常に重要。ある意味、僕らの頃と比べると少し淡泊にも見える選手たちがそういうマインドになれるか。『生きるか死ぬか』くらいの覚悟を持って戦えるか。どこまで行けるかを興味深く見てみたいですね。
自分たちが『史上最強』と言われた2014年は勝てなかった。僕自身は事前合宿で体調を崩しましたけど、そのことは特に関係なくて、体も動いていた。それでも最初のコートジボワール戦からいい入りができなかった。最後のコロンビア戦では何とか1点取れましたけど、チームは惨敗してしまった。そうならないように、悔いのない戦いをしてもらいたいと願っています」
こう語気を強める岡崎はまだアメリカに赴くかどうか分からないというが、必ずどこかで森保ジャパンの戦いをリアルタイムで目に焼き付けるはず。闘争心とガッツでは歴代ナンバーワンと言っても過言ではない偉大な男を納得させるパフォーマンスを出さなければ、日本代表が過去最高のベスト8以上、そして目標の優勝に手が届くことはないだろう。岡崎の思いを今の選手たちにはしっかりと心に刻み付けながら、1ヵ月後の大舞台に立ってほしいものである。
【後編を読む→「日本代表のW杯優勝」“監督・岡崎慎司”がいま夢に向けてドイツのピッチ上で取り組んでいること】
