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株や債券と異なり、「実物資産」は基本的には売買を繰り返さず「持ち続けること」で資産の質的分散を図る商品です。ライフプランの変化などで換金が必要になる例外的なケースを除き、その最終的な出口は「相続」に行き着きます。本記事では、田中徹郎氏の著書『資産運用の視点からみた 決定版 アンティーク・コイン投資のすべて』(日本実業出版社)より一部を抜粋・再編集し、アンティーク・コイン投資の出口戦略について解説します。

「あらゆる投資には出口がある」の真偽…ペーパーアセットと実物資産の違い

よく「あらゆる投資には出口がある」と言われます。投資というものの本質がおカネ儲けにあるならば、たしかにこの考えは正しいと思います。なぜなら、最後はおカネに換えることによって儲けが実現するからです。

たとえば、私たちが株式に投資をする場合はどうでしょう。株は上下動が激しいですし、地域の紛争や戦争などによって急落することもあります。逆に、経済的な好環境に恵まれて驚くほど値を上げることもあります。

これに対して実物資産はどうでしょう。実物資産も世界の景気や金融ショックなど、環境の変化によって大きく値動きすることがありますが、少なくとも株や債券などと違った動きをしやすいと言えるでしょう。

実物資産投資の目的は人それぞれですが、一般的に私たちが実物資産に求めるのは、安定した値動きと、株や債券、現預金などペーパーアセット(=紙の資産)への偏りの回避──言い換えれば「資産の質的な分散」ではないでしょうか。

コインを含む「実物資産」には出口がない理由

では、さらに一歩進めて、資産の質的な分散を目的とした保有に出口は必要なのでしょうか。

たとえば、経済危機や紛争や戦争、財政破綻などはいつやってくるか予想できません。つまり、私たちは“一寸先は闇”の世界で生きていると言えるでしょう。であれば、私たちは常に一定の実物資産を保有しなくてはならないはずです。

もし、みなさんがいったん手持ちの実物を売ったとしても、その売却によって保有資産に占める実物資産の比率が下がった分、むしろハラハラ感は大きくなるはずです。その結果、かえって実物資産の必要性は高くなり、みなさんは実物資産を買い戻すことになるはずです。

このように考えるなら、「実物資産投資に出口はない」と言えます。

不動産を持っていた人は再び不動産を買い直し、金やプラチナを持っていた人は金やプラチナを買い戻し、コインを持っていた人はコインを買い戻す──。こういうことになるはずです。

しかし、ここで注意が必要なのはコストです。不動産であれ、貴金属であれ、コインであれ、実物資産の売買手数料は株や債券に比べて高く、売買を繰り返すことによっておカネは流出します。

ただし、どんな場合でも実物資産を売ってはいけないというわけではありません。いくつかの例外はあると思います。

例外的に「実物資産」の売却を迫られる2つのケース

ライフプランが変わったとき

一つ目の例外はライフプランが変わり、資産の一部を換金せざるをえなくなる場合です。私はもう20年以上、依頼者の資産運用相談を受けてきました。なかには開業当初からお付き合いいただいている方もいますが、相談期間が長くなればなるほど、ライフプランは当初の想定から外れてゆくものです。

ご本人のリタイアや再就職、お子さんの独立にともなう支出の減少や自宅のダウンサイズ、お孫さんの誕生をきっかけに始める生前贈与や生活費の支援。配偶者が重度の病気になることもありますし、残念ながら相談者ご本人がお亡くなりになったこともあります。

このようにライフプランが大きく変わるケースでは、資産運用の計画が大きく変わることもあります。

たとえば自宅を賃貸にだしつつ、もう一部屋小ぶりなマンションを買う場合、あるいは介護付きマンションへの入居資金を確保するためなど、ライフプランの変更にともなって、手持ちのコインの売却を迫られるケースが出てくるものです。

収支バランスが悪化したとき

もう一つコインの売却を迫られるのは、日々の収支バランスが想定より悪化し、手元のおカネが足りなくなるケースです。

長い人生、どんなことが起きるか予想もできません。もちろん私たちファイナンシャルプランナーは、さまざまな出来事を想定して資産運用プランを立てるのですが、それでも予想外のインフレや自宅の老朽化問題、ご本人や家族の健康問題など、次から次へと想定外の出来事はやってくるものです。

そのような場合は当初の計画を変更し、場合によっては手持ちのコインを徐々に換金してもいいと思います。コインへの投資は、そもそもそのような想定外の出来事に備えるために行なっているとも言えるからです。では、手持ちコインの売却に迫られた場合、私たちはどうすればいいのでしょうか。

コインの購入と同様、売却方法もさまざまで、それぞれ一長一短があります。

以上、コイン投資の出口を迫られるケースをいくつかみてきましたが、最後は相続という出口です。

最終的な出口は「相続」…株や債券が遺族の心理的負担になるワケ

「子や孫にどうやって資産を遺せばいいか」──この点に関し、人は歳を重ねるごとに深刻な問題として向き合う機会が増えていくものです。もちろん、現在保有している株や債券、現預金などをそのまま相続していいのですが、その場合、いくつか注意すべき点もあります。

株価は上下動が激しく金融危機や経済的なショック、あるいは紛争や戦争など、その時々に起こる出来事によって大きく価値が減る場合があります。もちろん逆もあります。経済が活況状態になると株価は上がりますし、予想を超える好指標の発表で株価が急騰することもよくあります。

このように株価は上にも下にも動きやすいのですが、私たちに万一のことが起きた場合、一般的に相続の手続きが終わるまで証券口座は動かせません。現預金はハイパーインフレや財政破綻がない限り、大幅な価値の毀損はないですが、たとえば債券、特に外貨建ての債券は為替の変動もありますから、思いのほか大きく値動きすることがあります。

このように相続手続きが完了するまでに株や債券の値が動くことはよくある話で、この間、相続人は、ハラハラしつつ相場を見守るしかありません。

値動きが少ない資産「アンティーク・コイン」…ただし相続に向かない“ガラクタ”も

一方、コインはどうでしょう。そもそもコインは値動きの緩やかな金融商品ですし、仮に値が動いていたところで相続人がその相場を知ることは難しいでしょう。コインの相場を最も簡単に知る方法はオークションの落札価格ですが、一般の方がそのような情報に接する機会はまずありません。

つまり相続人にとって、相続したコインは値動きがない資産に見えるものなのです。

このようなコインの特性によって、相続を受ける側の心理的負担が減ります。過去を振り返れば、人間がコインを収集しはじめたのは古代ギリシャ・ローマ時代だそうで、特に、ヨーロッパの貴族や富裕層は、収集したコインを代々引き継いできたと聞きます。

紙の資産と違い、長期にわたって価値が保全され、なおかつ保管に際し場所を取らない点などで、コインはよほど相続に適した資産だったからでしょう。コインのこの特性は現在でも色褪せていません。

ただし、コインなら何でもOKというわけにはいきません。私自身も経験してきたことですが、あまりお金に余裕のない若いころは、たとえば数千円の古銭などを随分と買ったものです。

歳を重ねて相続を意識するにしたがって、このような安価なコインは相続に向かないことを知りました。なにより数が多くなってしまいますので保管や管理が大変ですし、これは相続や贈与される側にとって決してありがたい話ではありません。それでも受け取ったコインが価値のあるのものなら、多少管理が面倒でも問題はありません。

ところが、もし受け取ったコインが価値の低いものだったらどうでしょう。1枚数千円程度のコインを何十枚、場合によっては何百枚もらっても、決してありがたくはなく、せいぜい「おじいちゃんはなんでこんなガラクタを持っていたんだ」と迷惑がられるのが落ちでしょう。最悪の場合、廃品として回収に出されてしまうかもしれません。

そんな悲しいことにならないように、相続を意識してコインを収集することをお勧めします。

田中 徹郎

株式会社銀座なみきFP事務所

代表/FP