【塩地 優】バファローズさえ手放した近鉄グループが、赤字続きの「志摩スペイン村」を守り続けた意外すぎる理由

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志摩スペイン村 パルケエスパーニャが好調だ。2022年、VTuberの周央サンゴ氏(チャンネル登録者数66万人)に取り上げられたことをきっかけに、人気に火が付いた。

2024年度には近鉄グループの決算で初めて「観光施設」部門の営業損益が開示され、利益を生む施設になったことが示唆された。優れたショーやパレードなどのエンターテインメント、美しい景観、楽しいライドアトラクションを有するテーマパークの魅力がコラボイベント等によって広まった格好だ。

しかし、その道のりは苦難の連続だった。開業以来、多額の投資を繰り返しながらも入園者数は長年にわたって減少し続け、2002年から2004年の近鉄グループ大リストラ時代には、赤字施設として危機に直面した。それでも志摩スペイン村だけは生き残った。なぜ近鉄は、赤字が続くこのパークを手放さなかったのか? 後編では、その経営判断の背景に、『遊園地は鉄道によってつくられた』(交通新聞社)などの著書がある、日本遊園地学会の会長・塩地優氏が迫る。

前編記事『いつもガラガラ「志摩スペイン村」はなぜ潰れなかったのか?近鉄の大リストラ時代を生き延びた30年の苦闘』より続く。

伊勢志摩は名阪を結ぶ交通の要衝

近鉄は大阪と奈良を結ぶ鉄道が祖業であるが、現在では大阪府、奈良県、京都府、三重県、愛知県にまたがる広大な路線網を有している。新幹線の利便性が高まった現在では、大阪府の難波と愛知県の名古屋を結ぶ都市間鉄道は、利便性の高い新幹線と安価な高速バスに挟まれ、中途半端な立ち位置になってしまっている。

しかしながら、この都市間鉄道の維持ができなくなると、関西側と中部側で鉄道網が分断されてしまう。そうなると、沿線にあるさまざまな施設も含めて運用の効率が大きく低下してしまう。

これを防ぐために重要な役割を果たすのが、大阪と名古屋を結ぶ路線から分岐する伊勢と志摩である。大阪からも名古屋からも2時間台でアクセスできる伊勢志摩は、日帰り〜1泊程度の週末旅行に最適だ。

もともと志摩は風光明媚な場所であるから、観光地としてのポテンシャルは高い。だからこそ、近鉄は戦後すぐのころからリゾート開発をはじめ、現在では志摩市内だけで6つものホテルを擁している。このうち志摩観光ホテルは2016年に伊勢志摩サミットが開催されたことでも有名だ。

近鉄は志摩を、こうしたハイグレードなホテルを取りそろえたリゾート地として扱っている。ホテルに加えてゴルフ場や、最近ではグランピングも楽しめるアウトドア・アクティビティ施設「志摩グリーンアドベンチャー」をオープンさせている。志摩は近鉄資本によって複合レジャーリゾートになっているのだ。

地元行政との深い関係

加えて、地元との関係も重要なポイントだ。

これだけ広範なエリア開発を手がけてきただけに、当然ながら行政とも深い関係がある。例えば、先述の志摩観光ホテルは、近鉄と三重交通に加えて三重県も出資する第三セクター方式であった。2023年にも、近鉄は志摩市とMaaS(モビリティ・アズ・ア・サービス:複数の移動手段の窓口を1つのアプリに集約するなど、移動手段をサービス指向にする概念)の連携協定を締結するなど、自治体と良好な関係を維持している。

志摩スペイン村は、そうした地域の1つの基幹施設であることに加えて、リゾート法(総合保養地域整備法)によって整備されたことも、地域との関係性の観点から見逃せない。

リゾート法はバブル期の杜撰な開発で悪名高いが、志摩スペイン村が含まれる三重サンベルトゾーン構想では、西武系資本で整備がすすめられたタラソテラピーとホテルの複合施設、タラサ志摩(現TAOYA志摩)や、日光江戸村などの兄弟テーマパークだった伊勢戦国時代村(現伊勢忍者キングダム)など、現在も残る施設が多くある。そしてこの構想のなかで、事業規模も集客数も最大の観光施設が志摩スペイン村である。これが無くなってしまうと、周辺施設への影響も大きい。

さらに、近鉄はリゾート法のもとで志摩線の大部分を複線化している。リゾート法のメリットを享受して鉄道整備を行った以上、志摩スペイン村をあきらめなかったことは、少なくとも伊勢志摩地域において、近鉄が誠実な姿勢を貫こうとしていることを示していると思われる。

伊勢志摩はあべのハルカス、USJに並ぶ重要拠点

こうした視点から近鉄の長期ビジョンを見ると、志摩スペイン村の立ち位置がハッキリする。

近鉄グループが2025年に策定した長期ビジョンでは、重点戦略を沿線と沿線外に分けたうえで、沿線エリアとして「あべの・上本町・なんば(大阪市)」、「伊勢志摩」、「夢洲周辺(大阪市)」の3つを上げている。難波は大阪における近鉄の起点であって、阿倍野には近鉄グループのあべのハルカスがある。夢洲周辺には、近鉄グループが運営する海遊館があって、ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)も近いことから、大阪市部におけるレジャーの重要エリアだ。これらと並んで伊勢志摩を上げているから、いかに伊勢志摩を重要視しているかがわかる。

その背景として、2033年に行われる伊勢神宮の式年遷宮に向けて拝観者の増加が見込まれること、インバウンド比率が低いために今後のポテンシャルがあること、リニア中央新幹線の開業により首都圏から名古屋へのアクセスが向上すること、を上げている。

さらに、熊野や吉野など紀伊半島の他の観光資源を含めた、一体的な盛り上げの必要性も記されている。ここで紀伊半島としている範囲には、京都までもが含まれている。つまり、近鉄にとって三重だけでなく、奈良や京都に送客する数を増やすための起点になるのが伊勢志摩なのである。長大な路線網を有する近鉄らしい発想だが、このことが、伊勢志摩の重要性を一段高めている。

伊勢志摩のうち、志摩観光ホテルを擁する賢島は、「上質感」を追求する場に位置付けられている。2021年に営業を休止した志摩マリンランド跡地などにハードウェア投資を行い、さらに既存施設をリノベーションするといった取り組みによって、より高所得層向けのエリアになっていくようだ。

対して、それ以外の地域は「多様性」を訴求することになっている。多様性というのは、伊勢神宮や赤福グループのおかげ横丁などの神前町エリアに加えて、やはり赤福が主導して別荘村として開発し、現在はホテルになっている志摩地中海村、ヤマハグループが開発し、現在は三井不動産系の合歓の郷(現NEMU RESORT)、そして志摩スペイン村などのことを指していると思われる。厳かで歴史を感じられるエリアと、外国リゾート風のエリアが共存し、それ以外にもさまざまな施設がある地域、という意味合いだ。

この中で、近鉄が多様性をアピールしやすいのは、傘下の志摩スペイン村と、ゴルフ場跡地に作られたアクティビティ施設のグリーンアドベンチャー志摩だろう。

式年遷宮を目当てに伊勢に来る人々を近鉄経済圏へと呼び込むためには、伊勢志摩を伊勢神宮だけのイメージで売り込んではいけない。だからこそ、伊勢志摩のイメージは「多様性」なのであって、そのイメージの筆頭格が志摩スペイン村なのである。

伊勢神宮に押し寄せる人の数と、鉄道という大量輸送手段の存続とを考えると、施設の規模としてはテーマパーク級が必要になる。多額の資金を投じて開発を行ってきた志摩地域には近鉄特急が必要で、その維持のためにはテーマパークが必要になる、という構図だ。こうして見ると、近鉄にとっての志摩スペイン村の重要性がわかる。

修学旅行ニーズが生む安定収益

もう一点、伊勢を利用した集客、という観点で重要なポイントがある。それは修学旅行、研修旅行客だ。伊勢神宮を訪れる学校団体はコロナ禍で急増した。近場での旅行を求める需要や自然学習と歴史学習を複合した旅行を求めるニーズに、伊勢志摩地域の供給が合致した形だ。

学校団体の旅行では遊びの要素も必要になるが、この地域には大規模な団体を受け入れられ、かつ遊べる施設が少ないため、それらの要素を満たす志摩スペイン村は重宝される。

さらに、近鉄グループの近畿日本ツーリストとの連携も見逃せない。近畿日本ツーリストは学校団体の旅行を数多く取り扱っているから、近鉄グループ内での斡旋、送客が可能だ。現在では、伊勢志摩の修学旅行客はコロナ禍以前に戻ってしまったようだが、一定のベース需要があって、かつポテンシャルが大きいことを示している。

志摩スペイン村の勝ち筋とは

では、志摩スペイン村の今後の勝ち筋はどこにあるのだろうか。

近鉄は、ジャングリア沖縄を運営するジャパンエンターテイメントに出資している。テーマパーク運営ノウハウの獲得などを目的としているが、これはおそらくジップラインや赤外線レーザー方式の屋外サバイバルゲームなど、形態が似ている志摩グリーンアドベンチャー向けに活用するためだろう。ジャングリア沖縄は志摩スペイン村が参考にすべき施設ではない。

なお、近鉄はオリオンビールにも出資していて、同社が経営するホテルの運営にも参画している。そうした沖縄での事業展開の足がかりという意味合いもあるのだろう。これらへの出資は志摩スペイン村の勝ち筋を見出すための戦略ではなさそうだ。近鉄の資料から志摩スペイン村の今後を読み解くことは難しいため、ここでは独自に考察を進めることにする。

一般論として、テーマパークは変動費に相当する費用の割合が低い。初期投資や、アトラクションの追加・リニューアル費用など、固定資産への投資が重いことに加えて、混雑度合いによる人件費の変動も、固定費からすると相対的に小さい。

例えば、メンテナンスや清掃などにかかる費用は、入園者数の過多を問わずほぼ一定になる。アトラクションの運営も、閑散期であっても基本的には各アトラクションに1人が必要だ。ショーの出演者は公演数に応じて報酬が決まる仕組みになっていることが多いが、出演者が生活していくためには最低公演数の保証が必要になるから、繁忙期と閑散期で公演数を大きく変えることが難しい。実際、パルケエスパーニャでもキャラクターミュージカルやフラメンコの公演数は、公演が無くなる冬季を除けばほぼ一定だ。

固定費の大きさから極めてリスクの高い事業ではあるが、変動費率が低いため、集客が伸びると利益の伸び幅も大きくなる。例えば、東京ディズニーリゾートを運営するオリエンタルランドは、テーマパーク部門の営業利益率が20%を超える。建設コストを自らまかない、さらに米国ディズニー社にライセンスフィーを支払っても、これだけの利益率になるのだ。リスクは大きいがリターンも大きい事業である、ということがわかる。

さらに、数年にわたって損益分岐点を上回り始めると、その利益を原資に投資を行う、というサイクルが回り始める。したがって、まず大切なのは、少ない原資で損益分岐点を上回るような入園者を集める策だ。

しかしながら、VTuberやバンドによる宣伝効果やコラボレーションの効果は、長くは続かない。あくまで、そうしたイベントは短期的な効果しかもたらさない。では、持続的に損益分岐点を上回るためには、どうすれば良いのだろうか。再建に成功したテーマパークの事例を2つ見てみよう。

再建に成功した2つのパーク

1つは、よみうりランドだ。一時は年間入園者数が60万人程度に落ち込んだが、2024年度には約240万人と、実に4倍に増えている。この最大のきっかけとなったのは、イルミネーションだ。広大な敷地を活かしたイルミネーションによって、大きく集客を伸ばし、イベントも組み合わせて原資を稼いで「グッジョバ!!」というテーマエリアの建設につなげた。

これによって集客増と投資のサイクルが回るようになり、新たな植物園や温浴施設の移転リニューアル、「ポケパークカントー」のオープンなど、様々な設備投資が行われている。ただし、イルミネーションが生きたのは都市圏に近かったからだ。イルミネーションは全国各地で行われているため、規模が大きくても商圏は比較的狭い。これをそのまま、都市圏から遠く離れた志摩スペイン村に適用することは難しいだろう。

もう1つの成功例は、那須ハイランドパークだ。2017年度には45万人だった入園者数が、2024年度には約61万人まで増加した。人気YouTuberとのコラボレーションイベントを中心としたイベント施策を多数打つことによって入園者数を増やし、設備投資が行われ始めている状況にある。那須ハイランドパークは都市圏から遠いという立地条件も志摩スペイン村に近い。集客規模が小さいときには、断続的に行われるイベントによる押し上げ効果が大きい、という点は参考になるだろう。

志摩スペイン村の場合はテーマ性も重要であるため、相手を選ばないとコラボレーションは難しいかもしれないが、コラボレーション相手に志摩スペイン村のことが好きだ、というモチベーションがあるだけで成立する。開園から30年以上が経過した今、そうした思いを持つ人は多いだろうから、コラボレーションのハードルはそれほど高くないはずだ。

アトラクションに磨きをかけるスペイン村

すでに志摩スペイン村は、昨今の好調を受けてか、アトラクションの魅力を磨いている。例えば、2025年2月にオープンした「アリス イン ダークランド」は、魔法の杖を振るとさまざまな仕掛けが動くインタラクティブ性、見た目にインパクトのある空間、そしてボスとのバトルによるゲーム性を備えたウォークスルータイプのアトラクションになっている。

今年7月には、パークのキャラクターの1人であるアレハンドロがテーマになった、屋内型ライドアトラクション「アレハンドロの魔法のスプレー」もオープンする。こうした流れを止めないためには、集客施策を打ち続けること、そしてその原資をもとに適切な大規模投資の計画を立てることが大切だ。

伊勢志摩の魅力を磨き、ベースとなる観光客数を伸ばし、修学旅行に代表されるような学びと遊びの両立を求める層を着実に捉えていく。さらに、高頻度のイベント等を通じて今後の投資に向けた原資を稼いでいく。その原資をもとに、志摩スペイン村自身が伊勢志摩観光の一つの目玉として成長していけるような投資をする。大きな投資によって伊勢志摩の観光客数を増やし、志摩スペイン村を訪れる人も増やして、さらなる原資を得る。そうした正の循環にできるだけ早くたどり着くことが重要だ。

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