防衛費9兆円でも「網戸・便座なし」の過酷…自衛官2.7万人不足で浮上する帰化人登用の現実味

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9兆円予算も自衛官が圧倒的不足

国際情勢が厳しさを増すなか、日本は防衛関係費を急増させている。’26年度の防衛関係費予算は9兆円を突破し、9兆353億円(対前年度比3349億円増)に達した。このうち、隊員の給与や退職金、営内の食事などに充てられる人件費・糧食費は2兆3897億円(同389億円増)となっている。10年ほど前までは5兆円前後で推移していたが、’23年度から加速度的に増大している状況だ。

予算や装備を充実させる一方で、それを担う自衛官の人材不足が深刻化している。’25年度版の防衛白書でも「人材の確保は喫緊の課題」と記されており、全体の充足率は約9割にとどまる。定員は過去10年にわたり24.7万人とされているが、現員は22万人台で推移。’20年度と’21年度は一時的に23万人を超えたものの、その後は再び減少し、’24年度は22万人となっている。

元海将補で、笹川平和財団の河上康博・主任研究員は次のように語る。

「定員を維持しておくことは大切」

防衛力の規模的な目安として、どの国も隣国の動向を注視しており、相手の能力を考慮したうえで議論しなければならないからだ。たとえば中国は防衛費や人員の規模で日本を圧倒している。中国には非公表の部分もあるため、日本とは一桁近く規模が異なると推測される。

それでも、自衛官が集まらない現実がある。河上氏はこの現状について、こう嘆く。

「厳しい安全保障環境で自衛官を増やしたいが、いくら募集しても来てもらえず、どうしようもない」(河上氏・以下同)

人口減少のあおりを受け、政府・与党が自衛官の定員削減を検討しているとの報道(朝日新聞3月27日付)もある。

網戸すらない! 官舎の過酷な実態

少子化で募集対象者が減少するなか、防衛省自衛隊の任務や役割を丁寧に説明し、確固とした意思を持つ人材を募る方針を示している。募集対象を高卒者だけでなく大卒者や女性、中途採用にも広げようと模索。同時に、業務の効率化や外部委託(アウトソーシング)の活用、定年延長などを進め、現有人員を有効活用する取り組みも進んでいる。

「これまで18歳とか20歳前後の人を募集していましたが、もう少し上の方も募集するほか、女性も増やしていこうとしています。若いときから経験や知識を高めてくれる人がたくさん入ってくれないと、国の防衛はできません。一方、定年は延長しようとしています」

さらに防衛省は、志願者の増加と中途退職者の減少を目指し、待遇面の改善にも着手している。河上氏も経済的な安定や退職後の不安払拭が不可欠だとし、「待遇を良くしていかないといけない」と訴える。同氏によると、自衛官の給料は少しずつ上がってきているという。

住環境の整備も課題だ。防衛省は官舎の整備を進めているが、新たに建設するよりも民間アパートを借り上げるのも選択肢と、河上氏は提言する。河上氏は自身の経験を振り返り、こう指摘する。

「官舎には網戸も、換気扇も、トイレのふたもなかった。室内照明の蛍光灯も転勤のときに持って歩いていた。これくらいは最低限、備えておいてほしい。一方、官舎は修繕していかないといけないが、修繕費も高い。民間アパートなら、エアコンなども備わっていることがある」

自衛官が緊急参集要員に指定された場合、徒歩30分以内に集合する必要がある。該当エリアの民間アパートを活用するほうが利便性が高く、手間もかからない。河上氏は自衛官が「生活しやすい環境づくりも大切」と強調する。

徴兵制は不要! 帰化人材の登用も

自衛官を確保するためのさらに踏み込んだ方策として、河上氏は次のように提言する。

外国人も募集対象に入れていかないといけないのではないか」

ここでいう外国人とは、日本国籍を取得した帰化人に限られる。前線での戦闘ではなく、主に後方支援業務を担ってもらう想定だ。現在、日本は深刻な人手不足を補うため、製造業やサービス業、農業、介護などの分野で外国人の受け入れを拡大している。国防の分野においても、帰化した人材に頼らざるを得ない時代が来ているのかもしれない。実際、諸外国では外国人を軍隊に登用しているケースが存在するという。

世界に目を向けると、韓国が徴兵制を維持しているほか、一度は廃止したフランスが限定的な兵役を再導入するなど、兵役復活の動きが見られる。しかし、河上氏は「日本に徴兵制は合っていない。導入している国々では苦労しているようです」と分析する。

志願して訓練を積んだ職業軍人と比較すると、徴兵制による隊員は能力のばらつきが大きい。むしろ、電力や通信、農業などに従事する一般市民が、非常時にもそれぞれの業務水準を維持して着実に遂行するほうが、国全体としては有益だというのだ。

国の安全保障を確実にするうえで、最も重要なのは何か。

「国民全体で国を守る意識が高まれば、それだけで抑止力になる。国防の意識ができてくると徴兵制はいらない。自分たちの街は自分たちで守るようになる」

究極の抑止力「予備自衛官」とは

「自分たちの街を守る」意識の強さを物語る事例として、河上氏が視察したエストニアの取り組みが象徴的だ。同国には市民兵士が存在し、自宅に武器や弾薬を常備しているという。

「国全体を守るためでなく、自分たちの街を守るために、普通の主婦たちが演習で手りゅう弾を投げていました」

陸続きで脅威に晒されるエストニアと島国の日本とでは環境が異なるが、日本にも市民が防衛を担う「現実解」が存在する。それが「予備自衛官」という制度だ。

普段は一般市民として働きながら、非常時に自衛隊の活動を支える役割を担う。年間5日間の訓練(防衛省のHPによれば2日目に基本教練、3日目に射撃予習・検定など)に参加し、有事や災害時に招集されて駐屯地の警備や後方支援にあたる仕組みだ。

しかし、ここにも「充足率」の壁が立ちはだかる。予備自衛官は定員4万7900人に対し、ここ数年は3.3万人前後で推移しているのが現状だ。常備自衛官だけでなく、この予備自衛官も充足させておく必要があると河上氏は指摘する。予備自衛官を志す人を増やすには、勤め先や家族、地域社会の理解と協力が不可欠だ。

多くの国民が非常時への意識を高め、地道に自衛官や予備隊員を増やすこと。そして、自衛隊の活動について理解を深めていくことが、結果として日本の抑止力向上や災害時の迅速な支援につながっていくのである。

取材・文:浅井秀樹