「リユース経済新聞」は中古品売買の市場規模は2030年には4兆円に乗ると予測している。ノンフィクションライターでデジタル遺品を考える会代表の古田雄介さんは「親の実家にある古びたモノが海外で想定外の価格で売れることもある」という――。

※本稿は、古田雄介『それ、死後もお宝ですか?』(集英社インターナショナル)の一部を再編集したものです。

写真=iStock.com/parema
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/parema

■エステートセールという選択肢

親や自分が大切に保存していたモノを売却する際、その手間を肩代わりしてくれる「エステートセール」というサービスがある。実業家の堀川一真さんが2018年に立ち上げた日本エステートセール協会によるものが有名だ。

同協会に属する企業では、広範囲に及ぶ選定眼を生かして、依頼者から預かった様々なジャンルの遺品や私物を査定。各ジャンルに合った中古販売サイトやオークションサイトなどに出品して世界中から買い手(落札者)を募り、成約後は出荷やその後のサポートなども担い、仲介費や実費を差し引いた額を振り込んでくれる。依頼者は中間レポートなどを読んで経過を見守りながら、ただ売却を待てばいい。

買い手が世界規模に広がると、買われる機会と売り値が同時に高まる。堀川さんは「一例を挙げれば、翡翠(ひすい)(=ジェイド)の置物は日本ではあまり人気がありませんが、米国では大人気です。国内では数千円程度とみられる香炉でも、向こうでは1600ドル(約25万円)で出品して人気を博したりします」と説明する。クラシックカーもこれまで300台超を扱っているが、そのうちの9割は海を渡った。

■中古の雛人形に需要がある

一方で、国内でも新たな需要が生まれているという。たとえば、雛人形。かつては女児が生まれたら、人形店で多段式の新品セットを注文するのが慣ならわしとされた。昨今は親王飾りと呼ばれる夫婦セットのコンパクトなものが人気で、デザインや風合いが良ければ中古品でも構わないという人が増えているそうだ。

「少し前までは『雛人形は海外へ』という感じでしたが、いまは試験的な意味合いも込めて国内向けでも出荷しています。求められるものはどの地域でも変化しますからね」

古田雄介『それ、死後もお宝ですか?』(集英社インターナショナル)

エステートセールは1970年頃の北米で誕生した私物の最終処分方法だ。第二次世界大戦後、北米でも大量生産と大量消費の時代に突入した。日本の団塊の世代にあたるベビーブーマー世代は世に流通する良いモノをたくさん所有したが、モノにあふれて育った子世代はモノへの関心が薄いうえ、すでに生家を出ている人も多く、継承されない親世代の持ち物が増加。そこで人生の晩年、あるいは死後に持ち物を処分する必要性が高まり、様々な品の市場価値を正確に査定して売買を管理する専門家=エステートセラーが誕生した。

遺族や家主がエステートセールの実施を決めると、エステートセラーは不動産やクルマ、家財道具、調度品、サブカルチャーグッズといった品々に値札を貼っていき、開催日を告知。すると近所の人や情報を得た人が集まり、早い者勝ちで持ち物が買われていくという流れだ。いわば、専門家を介したガレージセールの最終売り尽くし版といえる。

■ひと粒のお米にも神さまが宿る国

堀川さんは1990年代にセントラル・オクラホマ大学に留学し、この新しいビジネスに従事した。そうして帰国後にエステートセールの普及を志す。ただし、北米流をそのまま踏襲するのではなく、モノには魂が宿ると考える日本人の価値観に合うようにアレンジを加えようと考えた。とりわけ重きを置いたのは売れた先の声を伝えることだ。出品した私物が買い手の手元に届くまでのやりとりをまとめたスクラップブックを作り、依頼者の元に届けるサービスを設立当初から続けている。

「ひと粒のお米にも神さまが宿っていると教えられてきた国ですから。大事に使ってきたモノが売れた先でも喜ばれて、大切にされている。そこまで伝えることがこの国では欠かせないと思っています」

故人が自宅に残した遺品を預かることもあれば、福祉施設に引っ越す際に荷物整理を手伝いながら、持ち込めない私物をエステートセールの対象として預かることもあるという。

■掛け軸、油彩画、写真、鉄瓶、アイロン

堀川さんが代表を務めるエステートセール会社「ポジティブシンキング」ではこれまで400件あまりの依頼を受けており、常時2500点ほどを出品している。

2025年3月、ポジティブシンキングの倉庫を訪ねた。群馬県前橋市の郊外にある閑静な住宅街におよそ100坪の2階建て倉庫があり、内部にびっしりと並べられた棚には大量の家具や絵画、骨董品などが所狭しと置かれている。

江戸時代の浮世絵や掛け軸、油彩画、大正時代の紙焼き写真、東南アジア風の彫刻が目を引く机や鉄瓶、夫婦茶碗に年季を感じさせる雛人形など、アンティークショップを思わせる品揃えだ。つい先日に私が心を震わせた炭火アイロンも複数台目に入った。そのほか、中古車などの大物は別の場所で保管しているという。

ポジティブシンキングの倉庫(出所=『それ、死後もお宝ですか?』)
倉庫で見かけた炭火アイロン(出所=『それ、死後もお宝ですか?』)

それらが置かれた棚には依頼者の名前や依頼日を記載した用紙が貼られていた。用紙のメモから、海外のオークションサイトに出品されたものや出品待ちとなっているもの、修理後に養生しているものなどが混在していることが分かる。すべて預かりモノであり、かつてオーナーがいて、新たな所有者を待っている品々だ。

■現代版の形見分けのようなもの

ただ、素人目にもいかにも値が張るような調度品もあれば、一見どこにでもありそうな子供のオモチャも置かれている。扱う価値の幅は相当に広い様子が見て取れた。そこには堀川さんの矜持がある。

「私は『大量消費の空白の30年』と呼んでいますが、現代は大量生産と大量消費の時代を経て、モノがあふれています。すると愛用品を子供に託すとか、子供が親の形見を使い続けるといった発想になりにくい。しかし、良いモノを丁寧に使えばもっと良さが現れますし、その価値を受け止めて大切にされる方もたくさんいらっしゃいます。そうした価値をつないでいくことが私の役目だと思っているんです。日本流のエステートセールはいわば、現代版の形見分けのようなものだと思っています」

そう言われて改めて倉庫内を見渡すと、ほとんどが私の生まれるより前に作られたものだと気づかされた。半世紀どころか一世紀以上前の職人の手によるものばかりだ。子供のオモチャでさえ、よく見れば一点モノだった。堀川さんは意識的に大量生産時代より前のもの、あるいは大量生産時代においても作り手の腕が光るものに比重を置いているという。

親の遺品などを「売る」という行為は、最終的に誰かが使う、あるいは所有することがゴールになる。そして、ゴールに至ったときにどれだけ価値を感じてもらえるかは、買い手や販路に依るところが大きい。だからこそ販路選びは重要だが、見定めるのは簡単ではない。このバランスをとるのが肝要だ。

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古田 雄介(ふるた・ゆうすけ)
ノンフィクションライター、デジタル遺品を考える会代表
ノンフィクションライター、デジタル遺品を考える会代表。1977年、愛知県生まれ。名古屋工業大学工学部社会開発工学科卒業後、ゼネコンと葬儀社勤務を経て雑誌記者に。2007年にフリーランスとなり、2010年から亡くなった人のサイトやデジタル遺品についての調査を始める。著書に『ネットで故人の声を聴け 死にゆく人々の本音』(光文社新書)、『故人サイト 亡くなった人が遺していったホームページたち』(鉄人文庫)、『バズる「死にたい」 ネットに溢れる自殺願望の考察』(小学館新書)、共著に『第2版 デジタル遺品の探しかた・しまいかた、残しかた+隠しかた』(日本加除出版)など。
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(ノンフィクションライター、デジタル遺品を考える会代表 古田 雄介)