年をとると長く眠れないのはなぜ? 睡眠の意味と役割【NHK3か月でマスターする 人体】

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「年を取って眠れなくなった」「夜になってもなかなか寝つけない」
そんな悩みをよく聞きます。

そもそも、私たちはなぜ、毎日眠るのでしょうか。

今回は、『NHK3か月でマスターする 人体 3月号』第9回より、眠りの意味と役割について解説します。

自分にとって理想的な眠りについて考えてみましょう。

人生の3分の1は眠っている!?

睡眠は疲れを取るだけではない

ヒトは一生のうち20~30年間も眠っていることになります。最新の科学データに基づいた睡眠の本質を知ることは、この長い時間を理想的に過ごすことにつながります。

では眠っている間、私たちの体の中ではいったいどのようなことが起こっているのでしょう。睡眠中は、体を休めているだけと思われがちですが、科学的には、休息は眠りの役割の一部分でしかありません。

 睡眠中は、体のあらゆるところで重要な「メンテナンス作業」がいくつも進められています。例えば、睡眠中に分泌されるホルモンによって、臓器が修復され、さらに免疫の働きが高まり、ウイルスや細菌から身を守る力が強化されます。そして、自律神経や内分泌の調整も行われます。睡眠不足が続くと太りやすくなったり、むくみやすくなったりするのは、代謝が乱れてしまうからなのです。

 また、睡眠が行う最も重要な作業は、脳のメンテナンス。起きている間、脳は大量の情報を処理し続けますが、眠っている間に、日中に得た情報を整理して必要なものを残す作業が進むと、脳がすっきりとした状態に戻ります。

 さらに、心のメンテナンスも睡眠の大切な役割のひとつ。眠ることで感情のバランスを整え、ストレスを和らげることができるため、睡眠不足になるとイライラしたり、気分が落ち込みやすくなったりしてしまいます。

 このように、休息以外の役割こそが、本来の睡眠の重要な機能なのです。

年代で異なる眠りの落とし穴

年をとると長く眠れなくなるのは自然なこと

 人は年齢を重ねるごとに、さまざまな睡眠の問題を抱えるようになります。例えば若年層では、寝不足が最大の問題です。中学・高校生は生物学的に夜型になりやすい傾向がありますが、朝早い登校時間や部活動の朝練といった朝型の生活サイクルで過ごす、夜遅くまでスマートフォンを使用することが日常化し、慢性的な睡眠不足に陥りがちです。

 働き盛りの世代も、睡眠時間を削りやすい傾向があります。仕事や通勤、家事、育児に追われ、就寝時間が遅くなりながらも、起床時間は変えられません。その結果、平日の睡眠負債を週末の寝だめで解消しようとしますが、体内時計が乱れ、かえって疲れが抜けにくくなることがあります。一方で、やりたいことや楽しみたいことにあふれ、眠りたくないという悩みを抱える人もいます。

 そして高齢者は、早朝に起きてしまい、若いころのように長く眠れなくなります。これを不眠と思い込み、不安になる人は少なくありません。しかし多くの場合は、加齢による自然な変化。「長く寝る必要がなくなった」ということなのです。落とし穴になるのは、眠れないことを補おうとして、床の中で長時間過ごしてしまうこと。日中の活動量が少ないまま床上時間だけが増えると、夜にますます眠れなくなる悪循環に陥ることがあります。

 また、思ったより眠れなかったとき、「睡眠の質が悪かった」と感じることがあるかもしれませんが、実はこういった自己判断は信頼できません。夜中に目が覚めたとしても、脳の中では適切な睡眠がとれていることがありますし、逆にぐっすりと眠った感覚があっても、十分ではない場合もあります。本当によく眠れたのかどうかを正確に判断するには、自分の感覚ではなく、脳波を調べるしかありません。つまり「睡眠の質」は、脳だけが知っているのです。

「朝型か、夜型か」は変えられない!?

 早起きが得意な「朝型」か、または夜に強い「夜型」かーー。生活習慣や心がけによる違いだと思われがちですが、実際はほぼ遺伝子で決まっています。生まれつき備わった「クロノタイプ」と呼ばれる、体内時計の傾向で決まっているのです。

 クロノタイプとは、1日の中でいつ活動しやすく、いつ眠くなりやすいかという個人差のことで、「超朝型」「朝型」「中間型」「夜型」「超夜型」などのタイプに分けられると考えられています。

 クロノタイプは遺伝的な影響が大きく、クロノタイプに関係する約300種類の遺伝子のうち、どのタイプをもっているかによって決まります。「早起きが得意」「夜になると頭がさえる」といった感覚は、その人の脳と体の性質によるもの。つまり遺伝子によってほとんど決まっているので、矯正しようとしても簡単にはいきません。

 また、クロノタイプは年代によって変化します。一般的に、高齢者は朝型になりやすく、思春期から成人期にかけては夜型に傾きやすいことが知られています。夜更かしや早朝の覚醒は生活の乱れと思われがちですが、多くは成長や加齢に伴う自然な変化なのです。

第9回「眠りの本質を理解する」講師:櫻井 武

さくらい・たけし/筑波大学教授。国際統合睡眠医科学研究機構副機構長。1964年生まれ。筑波大学医学群卒業後、同大学大学院で医学博士号取得。専門は神経科学。覚醒や睡眠を制御する神経ペプチド「オレキシン」の発見に貢献し、冬眠様低代謝状態の神経機構解明ほか睡眠・覚醒研究を進めている。中日文化賞(2012年)、文部科学大臣表彰科学技術賞(2025年)などを受賞。『意識の正体』(幻冬舎)、『ブルーバックス 睡眠の科学・改訂新版 なぜ眠るのか なぜ目覚めるのか』(講談社)など著書多数。

ナビゲーター:いとうせいこう

1961年生まれ。東京都出身。出版社勤務を経て、1986年より作家、クリエイターとして活動。表現の幅が広く、活字、映像、舞台、音楽、ウェブなどさまざまなジャンルにわたる。『ボタニカル・ライフ 植物生活』(新潮文庫)で講談社エッセイ賞、『想像ラジオ』(河出書房新社)で第35回野間文芸新人賞受賞。noteにて「ラジオご歓談!」配信中。

◆『NHK 3か月でマスターする 人体 3月号』より
◆構成・取材・文 菅原嘉子
◆イラスト 雉○/ Kiji-Maru Works