快進撃が止まらない「ラーメン山岡家」。右肩上がりで店舗数を増やす背景には、ラーメンの味だけではない「戦略」がある。それは、他店も狙いを定める“ある需要”を狙ったものだ。詳しく解説していこう。(画像出典:PIXTA)

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「ラーメン山岡家」の快進撃が止まらない。

「朝から行列ができている」などの評判が広まり、若者からファミリーまで幅広いラーメン好きが殺到、2025年1月期の売上高は前期比30.5%増の346億円、経常利益は同79.7%増の38億円、当期純利益は同97.7%増の28億円と、過去最高益を更新した。

そんな絶好調ゆえ、店舗数も右肩上がりで増えている。2025年8月現在で193店舗。「幸楽苑」「来来亭」「丸源ラーメン」「天下一品」などに次ぐ規模にまで成長している。

【画像】今だけの味わい! 山岡家の期間限定ラーメン

確かにラーメンはおいしい。しかし……

このような景気のよい話を聞くと、「なんでそんなに人気なの?」と首をかしげる人もいるだろう。よく理由として挙げられるのは「味」である。実際に「ラーメン山岡家」を利用した人ならば分かると思うが、確かに、確かにラーメンはうまい。取り上げられた記事を読んでも、創業者の味を忠実に守ろうという「こだわり」も随所に感じられる。

ただ、意地の悪いことを言わせてもらえば、それは「人気ラーメン店」では当たり前のことでもある。個人経営、チェーン店問わず、生き残っているラーメン屋というのは素材や味を徹底的に研究して、他にはない味を提供しているものだ。申し訳ないが、ラーメン山岡家が掲げている「濃厚豚骨でガツンときて、くせになる。」ということをウリにしているラーメン屋は星の数ほど存在している。

つまり、開業1年以内に40%が閉店するともいわれる過酷な「レッドオーシャン」で頭1つ飛び抜けることができた理由が「味」だけという見方は説得力に欠けるものなのだ。

「24時間年中無休」の独自性が取り込んだもの

では、「味」が優れているのは当然として、それ以外にここまで「ラーメン山岡家」をブレークさせたもう1つの要因は何か。いろいろな意見があるだろうが、筆者は「24時間年中無休」という独自性で「深夜ドライブ需要」をうまく取り込んだことが大きいのではないかと思っている。一体どういうことか順を追って説明していこう。

ご存じのように、かつて社会で当たり前だった「24時間営業」は消えている。ファミレス最大手すかいらーくグループは、人手不足や働き方改革の観点から2020年に24時間営業を全廃。最近都心などで深夜営業を復活させている動きもあるが、基本的に「オールナイト営業」というものは存在しない。燃料費、人件費が高騰する今、個人経営の飲食店などでも24時間営業の維持は難しい。

そんな中で「ラーメン山岡家」は一部店舗をのぞいて創業以来の「24時間365日営業」をキープしている。これほど、深夜に仕事をするトラックドライバー、工事関係者、夜勤明けなどの人々にとってありがたいことはないのだ。

他店でも広がる「深夜営業店舗」

実はここに大きな需要があるということは競合の「丸源ラーメン」の動きが証明している。24時間営業ではないものの「深夜営業店舗」を拡大しており、2025年9月4日時点で、全227店舗のなかで25時までの営業を104店舗、26時までを1店舗、27時までを4店舗にまで増やしているのだ。

当たり前だが、深夜まで営業をすればその分、人件費も電力も余計にかかる。それを差っ引いてもこれほど深夜営業店を増やしているということは、われわれが思っている以上に「深夜にラーメンを食べる客」というものが存在しているのだ。そして、この“ナイトタイムエコノミー”を誰よりもうまく取り込むことに成功したのが「ラーメン山岡家」だったというわけだ。

ファミリー層・若者にまで浸透したワケ

このような指摘をすると「いやいや、ラーメン山岡家はトラック運転手などの深夜労働者だけじゃなくて昼や夕食時にファミリー層や若者もたくさん利用しているぞ」という反論があるかもしれない。

しかし、そのようなイメージを広げることができたのも実は「深夜にラーメンを食べる客」のおかげだ。より具体的に言えば、「深夜にドライブをする若者」である。ご存じない方も多いだろうが、実は今、若者の間で「深夜ドライブ」が流行している。

気の置けない仲間たちと静かな街並みや、工場夜景、街の夜景などをたどって、その様子をTikTokなどにあげる人が多いのだ。実際、2025年10月には仕事に行き詰まった若い女性2人が「現実逃避」として深夜ドライブに繰りだすというドラマ『ふたりエスケープ』(テレビ東京系)も放送された。そんなトレンドにうまく合致したのが24時間365日営業の「ラーメン山岡家」だったのだ。

もちろん、若者がここに集うのは「開いている」という理由だけではない。醤油、味噌、塩、特製味噌、辛味噌、塩とんこつ、激辛という「レギュラーメニュー29種類」というラーメンのバリエーションの豊富さもある。

こうして深夜ドライブをする若者たちに選ばれるということは、TikTokなどでドライブ中に立ち寄った「うまい深夜ラーメン」として写真や動画が拡散するということだ。それが流れてくれば知名度は上がるし、バズれば子どもは「この山岡家ってとこに行きたい」となり、結果、ファミリーでランチや夕食に訪れる。

インフルエンサーも巻き込んだ好循環が業績を押し上げ

しかも、このような山岡家関連の投稿がバズるとなれば、「数字」のほしいインフルエンサーも自発的に「山岡家に行ってきました動画」をアップしていく。そういう好循環が業績を押し上げているということをうかがわせるやりとりが、2025年1月通期決算についての機関投資家からあった。

今期2月以降の既存店の売上が好調な要因は何かと問われたところ、運営会社はインフルエンサーの宣伝が大きいと回答。さらにそのようなインフルエンサーにどれほど広告宣伝費を払っているのかという質問に対しては、費用を全く払っていないとして、あくまでインフルエンサー側が勝手にやってくれていると説明している。

なぜ勝手にやってくれるのかというと、インフルエンサーらの「客」である若者たちがTikTokなどで「山岡家ネタ」を上げているからだ。

もちろん、この成功モデルには、競合のラーメンチェーンも気付き始めている。大阪では深夜しか営業しないラーメン屋も登場した。

そう遠くない未来、「深夜ラーメン市場」の熾烈(しれつ)な争いが始まるかもしれない。

この記事の執筆者:
窪田 順生
テレビ情報番組制作、週刊誌記者、新聞記者、月刊誌編集者を経てノンフィクションライター。また、報道対策アドバイザーとしても、これまで300件以上の広報コンサルティングやメディアトレーニング(取材対応トレーニング)を行っている。
(文:窪田 順生)