「家は中央区にあるタワマンの高層階です。けど、パパもママも仕事でほとんど家にいない。テーブルにお金が置いてあって『これで何か食べて勉強してなさい』って。家も学校も嫌い。ここが一番ラク」

 美月さんはその後、深夜徘徊で警察に補導され、現在は児童相談所に一時保護されているという。前出の東京高校受験主義氏は、この歪んだ状況を俯瞰してこう語る。

「今の非行は、かつての“窓ガラスを割って回る”ようなわかりやすい形ではありません。表面的には『おとなしい子』に見えても、そのリスクはSNSを介して深夜徘徊や闇バイトなど見えにくい場所へ深く潜り込んでいます」

 タワマンという「外に逃げにくい住環境」もまた、子供を追い詰める材料となる。前出の西村氏は、ある医師家庭で起きた出来事を振り返る。

「日替わりで5人もの家庭教師をつけ、息子さんを無理やり超難関校にねじ込みました。しかし、合格した途端に糸が切れ、成績は低迷。父親が激高して締めつけを強めると、中学3年の冬、息子さんは自宅でバットを振り回したんです。今は自主退学し、引きこもっているそうです」

 2週間後、西村氏がその自宅を訪ねると、凄惨な現場は跡形もなくなっていた。

「部屋はすべてリフォームされ、何事もなかったかのように『タワマンの日常』が復元されていました。壁の傷跡と一緒に、息子さんの悲痛な叫びまで塗り潰してしまった」

◆「育児の最適化」こそが現代の教育ネグレクト

 子育ての外注化という意味で、特筆すべき先進性を見せるのが渋谷区内のタワマン高層階に住む立花さん夫妻(仮名)だ。

「私たちにとって教育は『複利』で資産を増やす投資のようなもの」と語る彼らは、出産から外注した。

「妻のリスクを抑えるため、東南アジアで代理出産。早期教育に力を入れ、息子には月20万円以上かけて右脳学習からEQ教室まで、最高級の教育を与え続けました」

 だが、長男が小学校高学年になった時、彼らの「資産」は一瞬で崩壊する。

「カッとなり衝動を抑えられず、同級生を文具で刺そうとしたんです。学校で大問題になって転校させざるを得なくなり、途方に暮れています」

◆“窓も開かない”タワマンでは過剰管理に要注意

 西村氏は、こうした「育児の最適化」こそが、子供の心を放置する現代的な教育ネグレクトの正体だと断じる。

「タワマンの、特に高層階は子供にとって物理的に『外に逃げる』ハードルが高い場所。窓も開かず、常に空調が効いた逃げ場のない『無菌室』です。そんな密室で過度に管理され、泥にまみれる経験を奪われた子供たちは、挫折に対して極めて脆い。タワマンがダメではないが、細心の注意を払う必要がある」

 親のエゴのために子供を犠牲にしてはいけない。愛だけは、外注できないのだ。

【不動産ジャーナリスト・榊 淳司氏】
年間500か所以上、新築マンションの建築現場を現地調査し、資産価値評価のレポートを提供。購入者視点で取材を重ねる

【塾講師・東京高校受験主義氏】
塾講師の傍ら教育系インフルエンサーとして活動。首都圏の中学・高校を訪問し、区議会議員とのイベントも開催。X:@tokyokojuken

【プロ家庭教師・西村則康氏】
プロ家庭教師集団・名門指導会代表。塾ソムリエ。難関中学・高校受験指導に約50年携わる。著書『中学受験は親が9割』(青春出版社)

取材・文・撮影/週刊SPA!編集部

―[心を病む[タワマン・キッズ]の肖像]―