推しの“バズ”はファンが作る時代に?

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 いまや国民的人気を誇る俳優・橋本環奈が世に広く知られるきっかけとなったのは、ファンが撮影したある1枚の写真だった。地元・福岡県のアイドルグループ・Rev. from DVLのメンバーとしてイベントで踊っている写真が、当時2ちゃんねる(現5ちゃんねる)やTwitter(現X)で“奇跡の一枚”として拡散されたのは有名な話。2013年、橋本が中学3年生の時の出来事だ。

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 あれから10年以上が経ち、“令和版 奇跡の一枚”として注目を集めるアイドルが現れ始めた。2023年にファンがTikTokに投稿した動画でバズったのは、スターダストプロモーションの女性アイドルセクションであるSTAR PLANET(以下、スタプラ)に所属している4人組ガールズグループ・AMEFURASSHIの愛来。そして、2024年にファンが撮影した写真でバズったのが、当時ほぼ無名だったあまいものつめあわせの中川心だ。中川は“令和版 奇跡の一枚”というフレーズとともに「あの頃の橋本環奈すぎる」とも評され、一気に注目を集めた。橋本がブレイクしたあの頃と大きく異なる点は、TikTokなど新たなSNSの登場で動画での拡散も当たり前になったこと、そして、“バズる”という言葉や感覚が一般化したことだろう。

 ひと昔前までは、コンサートやライブと言えば、著作権や肖像権保護の観点などから撮影NGが当然のルールとされ、開演前のアナウンスなどで注意事項として何度も刷り込まれてきたわけだが、ここ数年は撮影OKの現場が一気に増えてきている。SNS全盛の今ではむしろ、熱量の高いファンの目線で撮影してもらい、拡散されることで宣伝効果を狙うということもあるのだろう。

 アイドルグループの現場では、“撮可タイム”や“カメコ席”といった用語も定着してきた。“撮可タイム”は言葉の通り、スマートフォンなどでの撮影が可能な時間帯のことだ。ショッピングモールでのリリースイベントやワンマンライブでの新曲披露の際などに、こうした“撮可タイム”を設けるケースが多く、アーティスト側がハッシュタグを指定して積極的に拡散を呼び掛けるなど、戦略的に“撮可タイム”を活用している。

 BiSHが所属していたWACKでは、各グループのライブ撮影は基本OKのケースが多かった。当時はまだまだ珍しかったが、WACKならではの対応でライブの新たな楽しみ方をいち早く提示していのだ。最近では、楽曲や振り付けのキャッチ―さでSNSとの相性がいいFRUITS ZIPPERやCUTIE STREETが所属するアソビシステムが手がけるアイドルプロジェクト・KAWAII LAB.のライブでも“撮可タイム”を設けていることが多い印象。超ときめき♡宣伝部らが所属するSTAR PLANET勢のライブでも積極的に“撮可タイム”を取り入れ始めている。大手芸能事務所であるスターダストプロモーションのグループでも撮影OKとなってきたあたりにも、流れの変化が感じられるのではないだろうか。

 さらに、最近の傾向として、新曲のプロモーションとして1曲だけ撮影OKにするという対応はもちろん、メンバーが客席まで降りて、会場を練り歩きながらファンサービスを繰り広げる様子を“撮可タイム”とするケースも増えてきた。これには、後方のチケットしか取れなかったファンの満足度も高いだろう。アリーナの客席内だけではなく、2階席や3階席など後方席まで隈なく回ることで、多くのファンの満足度が一気にアップするため、サプライズ演出としても取り入れられているようだ。スマートフォンのカメラ機能がどんどん高性能化していることもあり、自分の端末に収めた推しの姿は、ファンにとってはまさに世界に1つだけのお宝写真/映像だと言えるだろう。

 また、チケット発売の際に“カメコ席”という特別な席を設けるケースも増えている。以前から、48グループのコンサートでよく見られたカメラ席やPhotographer席席など、通称“カメコ席”とは、一眼レフなどの本格的なカメラを持ち込んで撮影ができる特別席のこと。カメコとはカメラ小僧に由来している。現在は、指原莉乃がプロデュースを手掛ける=LOVE、≠ME、≒JOYの現場でも“カメコ席”は定番に。女性ファンが多いことでも知られるイコノイジョイの現場では、“カメコ席”に女性ファンの姿も多い。ライブ中に何度か現れるカメコタイムは、“カメコ席”のチケットを持つファンだけがデジカメや一眼レフでの撮影を許されているので、特別感を味わいながら思う存分に推しを撮影することが可能となっている。

■ライブ撮影OK文化やSNSでのシェア、なぜここまで一般化した? 

 では、そんなライブでの撮影OKという文化はなぜここまで一般化してきたのだろうか。そこには、“推し活”という言葉の定着やSNSの進化が大きく影響していると思われる。昔のいわゆる“オタク”という言葉には少しネガティブなニュアンスも含まれていたが、今や、日本の推し活人口は推定1300万人以上(※1)とも言われており、推し活という言葉を聞いてネガに捉える人は少ないだろう。

 SNSでも推し活は立派な自己表現の1つであり、アイドルを推していることを堂々と発信することは何ら恥ずかしいことではなくなってきた。アルゴリズムもあり、TikTokやInstagramのタイムラインには自分の好きなものがどんどん流れてくることで、推しへの思いはさらに加速していく。そして、自分だけの推しの特別な写真や映像を手にしたファンが次に取る行動として、推しの魅力を世の中に広めたい、さらに多くの人に知ってほしいという心理が働くのも頷けよう。

 当然ながら、推しのすべてのライブやイベントに参加することは難しい。ほんの一部かもしれないが、現在のSNSでは、行けなかったライブの臨場感や一体感、さらには没入感をも味わうことが可能となってきた。同じアイドルを応援するファン同士、思いや情報のみならず、画像や映像もシェアすることで共感が生まれる。推し活において、“共感”は大きなモチベーションだ。SNSはまさに共感の役割を果たし、新たな交流を生み出していると言ってもいいだろう。

 このように、“ライブ撮影OK”というエンタメ界の新たな動きは、アイドルファンの心理を絶妙にくすぐり、推し活のモチベーションをさらに高める役割も果たしている。冒頭で触れた“奇跡の一枚”のように、誰もがSNSのインフルエンサーとなって、推しのブレイクのきっかけを作れるかもしれない時代――。ブレイクまでいかなくとも、推しの新規ファン獲得の一助に繋がっていくことは間違いないだろう。そう考えてみると、推し活がますます楽しくなってくるのではないだろうか。これからもルールとマナーを守って、ライブやイベントでの撮影を楽しんでほしい。

※1:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000069.000025413.html

(文=ATSUSHI OINUMA)