来日1年目のアリゼ・ジョンソンが日本での挑戦の日々を語った【写真:B.LEAGUE】

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Bリーグ川崎アリゼ・ジョンソン、インタビュー後編

 バスケットボールBリーグの川崎ブレイブサンダースは、武蔵小杉駅から徒歩3分の場所で小学生から高校生までのすべての子どもが無料で利用できる施設「THE LIGHT HOUSE KAWASAKI BRAVE THUNDERS」(以下ザ・ライトハウス)を運営している。バスケもできる「こどもの居場所」に2月24日、Bリーグが推進する「B.HOPE」活動の一環としてミニゴールが寄贈されたが、その交流イベントに参加したのが今季からチームでプレーするアリゼ・ジョンソンだった。

 NBAデビュー直後から自らの名前を冠した財団を立ち上げ、故郷である米国ペンシルベニア州ウィリアムズポートを中心に積極的に慈善活動を行ってきたジョンソン。そんな心優しき男の素顔と、母国から遠く離れた日本で挑戦する姿に迫った。(取材・文=青木 美帆)

 ◇ ◇ ◇

──あなたは故郷のペンシルベニア州ウィリアムズポートで、少年時代を過ごした公園を改修しましたね。

「最近はスマホがあることもあって、アメリカの子どもは昔に比べて公園で遊ばないんだ。だから、もうちょっと使ってほしいなっていうのが本音だね。そこは日本と違うと思う。僕は今、公園の近くに住んでいるんだけど、アメリカよりも公園で遊んでいる子が多いと思う。僕が子どもだった頃を思い出すよ」

──川崎ブレイブサンダースは『ザ・ライトハウス』という施設を運営していて、あなたも2月に子どもたちとの触れ合いイベントを行いました。ザ・ライトハウスはあなたにとっての公園のように、家庭環境に問題を抱える子どもたちが安心して過ごすための場所としても活用されています。川崎の街に、そういう施設があることについてはどう思いますか?

「子どもたちが現実逃避できる場所というか、家以外でふっと息の抜ける居場所があるというのは、すごくいいことだと思うよ」

──今後、地域貢献活動としてやってみたいことはありますか?

「とにかく地域貢献をもっとやっていきたい。ゆくゆくはパートナーシップとかもできればいいなと思っているよ。僕の活動はチャリティーで、僕自身の良心のもとでやっているものではあるんだけど、日本語を喋れないので助けが必要な人たちにどうアプローチできるかが分からないのがもどかしい。でもコミュニティを訪問したり、チャリティーイベントに参加するといった活動はできる限りやりたいと思っているので、もし興味がある人がいたら声をかけてほしいな」

──クラブの公式サイトで「影響を受けた指導者」として「お母さん」と答えています。なぜですか?

「母は僕にとってヒーローみたいな存在なんだ。彼女が妊娠し、年の近い子どもたちを育てる姿は本当に大変そうだったし、すごく頑張ってくれたと思っている」

──同じく公式サイトで「尊敬する人」を「全ての女性(特に子どもを生んだお母さん)」と回答されているのも、ご自身のお母様の影響でしょうか。

「そうだね。女性は力強い。男性ができないことをよくやっているなと思う。妊娠中のプレッシャーや体の負担も大きいだろうし、望まない妊娠をすることもありえる。子どもを産み、育てることは簡単なことではないと思うので、尊敬しているよ」

勝っても負けても応援してくれる日本のファンに感謝

──日本での初めてのシーズンが半分以上終わりました。印象を伺えますか?

「リーグもクラブも組織としてちゃんとしているし、すごくいいリーグだと思うよ。特にファンがすごくいい。『選手と関わりを持ちたい』っていうふうに思っているのかな。たまにバスケットボールではなく、選手を観に来ているのかなって思う時もあるけど、それはそれですごく美しいことなのかな。勝っても負けても応援してくれるのは、嬉しいことだね」

──あなたはNBAやGリーグ、プエルトリコや韓国のリーグでもプレー経験がありますが、似たような雰囲気を感じたリーグはありますか?

「韓国はちょっと似たようなところもあったかな。でも日本のファンほど選手のことを重視するリーグは経験したことがない。勝ち負けよりも特定の選手や、その人のプレーを観に来ることに重きを置いているんだろうね。

 あと、日本のファンからはあまりクレイジーなメッセージが届かないな。アメリカや韓国でプレーしていた時は、SNSにそういうメッセージがたくさん届いていた。アメリカの文化はそういうものだからあまり気にしていないけど、日本の人は優しいね。それは選手たちも同じで、最初はびっくりしたよ。試合終わりに相手チームの選手から『いい試合だったね』って言われて、『え、本当に?』って感じだった(笑)。アメリカはもっとギスギスしているから」

──ご自身がこれまでのキャリアで培ってきた持ち味は、現状どれくらい日本のコートで発揮できていますか?

「80%ぐらいかな。あと20%を出すにはチームメートとのトラッシュトーク(舌戦)が必要。トラッシュトークは僕にとってガソリンで、いいプレーをするために必要なものなんだ。コートにいる時は『調子どう?』みたいなことより、『もっと頑張れよ』とか『下手くそ』とか、エナジーになる言葉がほしい。そうすると発奮して、もっといいプレーができると思う」

──残りのシーズンの展望、抱負を聞かせて下さい。

「やっと日本のスタイルや文化に慣れてきた感覚がある。全員がすごく丁寧に仕事をやってくれるということは理解したので、その中でよりハードにプレーするという点を突き詰めて、パフォーマンスを上げていければと思っている。

 あと、床屋のビデオ(※)が欲しかったら、ぜひ連絡して。希望者が多かったら、また続編を出すよ(笑)。というのはさておき、僕を含め日本人じゃない選手もすごく応援してくれて、勝っても負けても本当に味方でいてくれてありがとう。残りの試合も頑張っていくよ」

(※)ジョンソンが来日して間もない頃にインスタグラムにアップされた、日本の床屋を直撃し、店主とやり取りする映像。川崎のファンだけでなく、アメリカのファンの間でも大きな話題になったそうだ。

■アリゼ・ジョンソン(Alize Johnson)

 1996年4月22日生まれ、米国ペンシルベニア州出身。206センチ・98キロ。ミズーリ州立大学でのプレーを経て、2018年のNBAドラフト2巡目50位でペイサーズに指名。18-19シーズンにNBAデビューを果たすと、その後はネッツ、ブルズ、ウィザーズ、ペリカンズでNBAのコートに立った。23年からは韓国、プエルトリコでのプレーを経て、24年6月に川崎へ加入。主力の1人として、勝利に向けてハードワークを続けている。

(青木 美帆 / Miho Aoki)